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「そろそろ入場の時間か」
既に時間は過ぎているが、王族に時間は関係ない。
「そのようです」
「では、後ほど」
王族が先に部屋を去る。
ソレーヌは私を追及したいのだろうが、王族のいる前でそんな失態は許されないので見送るまで我慢している。
「私達も会場へ向かうぞ」
「お姉様どういうことですかっ」
王族より先に入場しなければならないというのに、ソレーヌはどうして婚約者が私なのかそちらの方が重要らしい。
「私が聖女候補として教会で学んでいる時間に、シュルベステル様とお会いになっていたんですか? 」
ソレーヌの言い方はまるで『真面目に聖女を学んでいる間、私はシュルベステルに近付いていたのか? 』と問い詰められているよう。
「私は第一王子と会う時は貴方が帰宅するまでのお相手でしかないのよ」
「私を利用してシュルベステル様と親密になっていたんですね」
「なっていないわっ」
「嘘です。でなければシュルベステル様がお姉様を選ぶ理由がありませんもの」
「二人とも言い争うのは屋敷に戻ってからにしなさい。これからパーティーなんですよ」
母に諫められた。
パーティー会場に入場するとすぐに王族も登場。
国王の挨拶の間も、ソレーヌは私を睨み続ける。
ソレーヌが気になり王族の話もどのような状況なのかも判断が遅れてしまった。
気が付いた時には、王族の挨拶は終わっていてパーティー開始のダンスが始まろうとしている。
そして、その開始を務める者が相手にダンスを申し込む。
「カルロッタ嬢、私とダンスをして頂けないか? 」
気が付いた時には、目の前にはシュルベステル。
そして、ダンスを申し込まれ手を差し出されていた。
貴族の目があるなか、断るのは難しい。
王族に恥をかかせるわけにはいない。
私の答えは……
「……よ……ろこんで……」
シュルベステルの手を取れば、隣を確認するのも恐ろしい程の視線を受けている。
彼のエスコートで中央へと向かえば、皆が何をか勘違いし始める。
私は彼の婚約を了承していない。
これでは、断れない空気に……
音楽が流れダンスが始まる。
「令嬢はダンスが上手なんだな」
シュルベステルにダンスを褒められたのは初めての事。
私がダンスが上達したのは、彼が関係している。
前回の私は彼のペースに付いて行けず、不格好に振り回された。
そのこともあり、聖女としての活動の他王妃教育も同時進行で施された。
特に、ダンスは徹底的に叩き込まれた。
「……ありがとうございます」
今回のダンスは私が上達したのもあるが、彼自身が違う。
以前はもっと強引でとても踊り難かった。
「カルロッタ嬢とのダンスは楽しく、時間が過ぎるのが早いな。私と相性がいいようだから、婚約の件も前向きに検討してほしい」
嬉しくもない言葉を去り際に囁かれる。
その些細な行動が勘違いを呼ぶ。
ダンスを終え一人になるべくフロアを去れば、入れ替わるように令嬢達がシュルベステルの元へ。
私は誰にも声を掛けられたくなかったので、一目散にバルコニーへと逃げた。
「どうしてこんなことに……また王子と婚約なんてしたくない……お願い、誰か私をこの国から解放して……」




