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王宮パーティー当日。
「ねぇ、どうかしら? 」
「とてもお綺麗です」
「お姉様と比べてどうかしら? 」
使用人達と視線が合う。
困り果てた表情を向けられる。
追い詰められている状態でなくても、誰もがソレーヌを選ぶだろう。
私とソレーヌは似ていない、
ソレーヌは童顔な母に似ていて、私は父方の祖母に似ているとよく言われる。
私がソレーヌと比べて誇れるものは、髪色ぐらいだ。
ソレーヌは可愛らしいピンクゴールド。
私はゴールド。
人の好みなので、ピンクゴールドの方が素敵という人もいる。
私が私で誇れるものは、この髪色だけ。
「……ソレーヌお嬢様の方がお綺麗です」
「んふふ。私より綺麗な人いるかしら? 」
「いえ、ソレーヌお嬢様が一番お美しいです」
「そうよね、私が一番綺麗。んふふっ」
ソレーヌは準備が整うと鏡の前で何度も同じ質問を繰り返している。
「そろそろ時間ね。二人共行くわよ」
「「はい」」
家族で馬車に乗り、王宮を目指す。
馬車の中は異様な空気だ。
父は何故か私に笑顔を向け、母はソレーヌの様子を窺い、ソレーヌは先程から上機嫌。
王宮に到着する間、私は外の景色を眺め続けた。
「到着いたしました」
御者の合図で外へ出る。
父、母、私、ソレーヌの順番なのだが……
「どうした? 」
「……いえ」
降りる際、父が私に手を差し出したのは聖女の時だけ。
なのに、何故今の私にエスコートを?
先程から父の笑みも不穏でしかない。
「バルリエ公爵様、控室へご案内いたします」
王宮に仕える騎士が控え室へと案内する。
「こちらの控え室でよろしいのでしょうか? 」
私としては慣れた場所だが、ここは王族専用の控え室。
王子の婚約者でもない貴族が使用して良い場所ではない。
「こちらにご案内するよう仰せつかっております」
騎士は間違ったのではなく、王族からの指示だった。
それだけで隣を歩くソレーヌがご満悦なのが伝わってくる。
「それでは、お待ちください」
騎士が下がると、代わりに使用人が訪れ紅茶が準備される。
どのような用件でこの場を案内されたのか私には見当もつかない。
誰一人知らないはずなのに父とソレーヌは不気味な程笑顔が零れているし、母は落ち着きがない。
前回のこの時期は、私が聖女と貴族に知れ渡っていたがパーティーで正式に聖女を発表。
シュルベステルとの婚約も今日だった……
「はぁ……」
嫌な事を思い出してしまった。
聖女でない今回はシュルベステルと婚約する事は無いだろう。
婚約するのは……
「待たせた」
王族が到着。
国王に王妃、そしてシュルベステル。
私達は立ちあがり頭を下げる。
「いや、楽にしてくれ」
国王陛下の言葉でも、王族が座ってから座り直す。
「今回のパーティー、貴族達に公表しなければならないことがある」
貴族達の間でも噂になっている事の真相。
聖女は誕生したのか……
「そうですね」
「ソレーヌ嬢の件は残念だった。バルリエ公爵家の名誉を考え、打ち消す何かが必要と考える」
「配慮して頂きありがとうございます」
「それでなんだが、令嬢は大変優秀だと聞く。シュルベステルとの婚約をこの場で発表するのはどうだ? 」
「なんと喜ばしい提案何でしょう。是非、お受けいたします」
「令嬢もいいかな? 」
「はいっ喜んでお受けいたします」
間髪を入れずにソレーヌが答える。
私の知らないところで、既にシュルベステルとの婚約話は進んでいたらしい。
「……いや、シュルベステルはカルロッタ嬢を望んでいる」
「わっ私ですか? 」
「お姉様ですかっ」
突然名指しされ困惑する私と、当然自身だと思っていたソレーヌの声が被る。
「どうして私なのでしょうか? 残念な結果だったとはいえ、聖女候補とまでなったソレーヌを婚約者にした方が噂を打ち消すためには良いかと……」
「カルロッタ嬢はシュルベステルでは不満か? 」
「いえ、不満という事ではなく……私では不釣り合いではないでしょうか? 」
王族相手に『婚約をお断りいたします』なんて言えない。
シュルベステルから婚約破棄は言えても、私からなんて……
「そんな事はない。令嬢こそ私の婚約者に相応しい」
シュルベステルが私を婚約者に指名するのは、私が聖女と任命された時だ。
聖女ではない私に婚約を申し込む利益がない。
「いえ……私は……」
……どうして、私なの……
「どうしてお姉様なのでしょうか? バルリエ公爵との後ろ盾や繋がりでしたら、私でも問題ありませんよね? むしろ社交的で名が知れ渡っている私の方が適任ではないでしょうか?」
「……そうかもしれんな。だが姉が公爵家を継ぎ、妹が王家へ嫁いだら何かとあるだろう? 」
「私達はとても仲がいい姉妹です。身分が変わっても関係が変わる事はありません」
「そうか? 」
「はい、私はお姉様が大好きですからっ」
「そう言っているが、シュルベステルはどう考える? 」
国王主導では不安だったが、彼が私を選ぶ事は無いだろう。
「私は、カルロッタ嬢を婚約者にと考えます」
「えっ? 」
「どうした? 私がカルロッタ嬢を選ぶのはそんなに驚くことか? 」
「失礼しました……私よりソレーヌの方が第一王子と親密に思えたもので……」
「それは、令嬢が聖女かどうかを確認していたに過ぎない」
シュルベステルの言葉にソレーヌは衝撃を受ける。
それは私も一緒。
「そうだったとしても、私よりソレーヌと過ごした時間の方が長いのではありませんか? 」
「なんだか、カルロッタ嬢は婚約を望んでいないように聞こえるな」
「いえっそのように聞こえてしまっていたら申し訳ありません。ですが、私と第一王子は互いを知らないと言いますか……後に、やはりソレーヌの方が良かったと心変わりするのではないかと……」
「そんな事は無いと思う。それに、王族の婚約は簡単に反故に出来るものではない。婚約解消になる事を恐れているのであれば、誓約書を認めてもいい」
「いえ、そこまでする必要は……」
どうにか私からソレーヌに婚約者を変更してくれないか、思考を巡らせてもシュルベステルは頑なに変更しない。
隣のソレーヌの機嫌が悪くなり、彼の頑な態度に涙をにじませ始める。
「突然の申し込みに令嬢も困惑しているようだな。少し焦り過ぎてしまったようだ。今回は婚約の件は保留にしておこう」
私の反応から国王は婚約を保留という決断を下す。
安堵する私とソレーヌだが、シュルベステルは不満を見せる。
国王としては、同じ公爵家であれば乗り気なソレーヌの方がいいと思っているのかもしれない。
躊躇っている私と、強気なシュルベステル、前のめりなソレーヌ。
私達三人の様子では、これから始まるパーティーに遅刻してしまう。
視界に何度も困惑する使用人の姿が映っていた。
きっと、既にパーティー開始の時間が過ぎているのだろう。




