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「ソレーヌ? ソレーヌ? 」
王宮からの手紙が届いてから、ソレーヌは部屋から出てこなくなってしまった。
使用人に当たり散らす事が無いのはいいが、部屋から出てこないのも困りもの。
「王宮からパーティーの招待状が届いたの」
ソレーヌを心配しているが、王宮からパーティーの招待状が届いている。
招待状には両親だけでなく、私とソレーヌの名もある。
貴族として気分で王宮のパーティーを不参加するわけにはいかない。
「ドレスや靴・宝石はどうする? 」
以前のソレーヌなら、王宮のパーティーではドレスや靴・宝石は一度身に着けた物は着用しなかった。
準備は念入り。
たった数ケ月前の事。
でも今は……
「ソレーヌ? 」
何度呼びかけても返事もない。
食事は少量だが食べていると報告があった。
母も何度が『ドレスを新調するから一緒に選びましょう』と声を掛けても無駄に終わった。
聖女を経験した私からすれば、選ばれない方が幸せと思える。
だけど、ソレーヌは私とは違う。
ソレーヌは本物の聖女。
心配することはない。
能力が発揮しないのは、精神的に追い詰められているのが原因ではないかと思う。
前回は私が聖女と間違われたことで、周囲からの期待がかからず自然と能力を開花する事が出来たのだろう。
私が間違われたこともあながち悪い事ではなかったのかもしれない。
だけど今回は、私は間違われたくなかった。
幸せになりたかったから……
「どうしよう……」
私が自分を優先してしまった事で、ソレーヌの能力開花が遅れてしまった。
何かいい案が浮かばないかと気分転換に庭を散歩することに。
「はぁ……ソレーヌが早く回復してくれますように……」
つい、自身が手入れしている花壇の前で願いを口にしてしまった。
私が願った事で叶うことは無いのに……
「お母様。ドレスと宝石に靴、全てシュルベステル様の色にしてください」
散歩から戻るとソレーヌは部屋から出ていた。
意欲的に? いや鬼気迫る勢いでパーティーの準備を始めている。
落ち込まれるぐらいなら、積極的に動いている姿の方がいい。
宝石や靴は十分だったが、ドレスに関しては時間に猶予が無かった。
ソレーヌの為にも間に合う事を願った。
「ドレスが届きました」
使用人にとっても待ち遠しかったドレス。
あとは、ソレーヌが気に入るかどうか……
私達は、ソレーヌの反応を窺う。
「んふふ。これでシュルベステル様は私のものね……」
ソレーヌは不穏な言葉を呟くも、ドレスが気に入ったのだと思い安堵した。




