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ソレーヌは王子から聖女認定を得られず数日が過ぎた。
「ソレーヌ、教会から報せが届いた」
食事の席で、父から告げられる。
神妙な顔つき、厳かな雰囲気。
これから告げられる内容が良い報せとは思えない空気。
母もこれから父がソレーヌに告げる内容を知っている様子。
「はぃ……お父様」
ソレーヌも不穏な気配を感じ取ったのか、声が震えている。
「教会で聖女の教えを受けていたが、明日からは必要ないそうだ」
「それって……どういう……」
「分からないか? 」
「……私が……聖女では……」
「あぁ、そうだ。お前は聖女ではないという事だ」
「そんなっ……それは何かの間違いではありませんか? 」
「間違い? 祈ってどれくらい願いが叶った? 」
「えっと……ラウーレン地方の魔獣が減少しました」
「それ以外は? 」
「ミラルディー地方の失踪事件を解決しました……それに、王妃様のお見舞いに行ったら回復されました」
「王妃様の回復か……手土産に何を持って行ったんだ? 」
「それは……お花です。私が選んだ」
「選んだのはお前だが、育てたのは? 」
父の言葉にソレーヌは私を見る。
「育てたのは……花を誰が育てようと関係ないかと……私が王妃様のお見舞いに行ったという事実が大事かと」
「では、他に何について祈り結果が現れた? 」
「……他は……」
「無いだろう? 」
「まだ、報告が届いていないだけではありませんか? 」
「今月も様々な領地から嘆願書が届いている。変わらない内容に新たな内容」
「それは……私の責任では……」
「新たな内容にはお前は関係ない。だが、今までの内容はお前に関係ある。祈っても叶わぬようなら、それは聖女ではないという事。聖女ではないと認識しながら偽ることは罪だ」
「私は……聖女と……皆が……教会が言ったんです。私が……聖女ではないかと……」
「『聖女ではないか』と言っただけで、『聖女だ』と断言した訳ではない。それなのにお前は、お茶会で聖女かどうか尋ねられ否定はしなかったそうだな? 」
「否定はしていませんが、肯定もしていません。私は聖女候補として呼ばれたんですからっ」
「ふふっ、そうだな。聖女候補として呼ばれた教会での教えの結果、お前は聖女ではない事が分かった。これが事実だ。聖女でありたかったら、王宮の初代聖女が植えた樹が枯れぬ事を祈れ」
ソレーヌ溺愛の両親がここまで厳しくすることに驚く。
前回、聖女が私ではなくソレーヌであったのをあんなにも喜んでいたというのに……
父は席を立ち、母も言葉を発することなく食べ続ける。
ソレーヌは食事を見つめ、私は家族を見渡していた。
「神様、お願いします。どうか聖女様の樹が再び青々と茂りますように……」
ソレーヌはひたすら同じ言葉を繰り返し祈り続ける。
その間、使用人に当たり散らす事がなく落ち着いていた。
だが彼らは安心してはいられなかった。
「ソレーヌお嬢様が聖女でありますように……」
使用人達もソレーヌが聖女であるのを真剣に祈っていた。
その理由として、もし王宮からソレーヌが聖女ではない通知が届いた時に今が大人しい分後が怖くて堪らないからだ。
「ソレーヌ、王宮から手紙が届いた。先に私が確認したが、自身の目で確認しなさい」
ソレーヌ宛に王宮から手紙が届き父が先に内容を確認。
母も私も同席させられた。
「ソレーヌ・バルリエ公爵令嬢。王宮にある聖女が植えたとされる樹の枯れ具合は進行が進み、令嬢の聖女としての能力は……見受けられなかった……王宮がソレーヌ・バルリエ公爵令嬢を聖女と認定する事は……無い」
使用人達の願いは無常にも叶うことは無かった。
「ソレーヌ、それが王宮のお前への評価だ」
「……ひっく……ひっく……」
ソレーヌは非情な現実に涙を流す。
だけど、どうしてなのか私にも信じられない。
聖女はソレーヌのはずなのに……
「ソレーヌの能力はいつ開花するのかしら? まぁ、私には関係ないわね」




