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「何なのよ全く。私が参加してやったんだから、私のご機嫌を取るべきでしょ」
お茶会後のソレーヌの機嫌は悪化した。
「ソレーヌ」
「……お姉様」
「手紙が届いたわ」
誰もソレーヌに近付きたくなくなり、私が手紙を引き受けた。
「もうお茶会には参加しないわ。皆、聖女にお願いすれば何でも叶えられると思っているんだからっ。聖女は使用人じゃないのよっ」
「大変だったみたいね……この手紙の差出人は……第一王子からよ」
「王子っ? 手紙にはなんと?」
「自分で確認して」
ソレーヌに手紙を差し出せば勢いよく奪われる。
「……ハンカチの結果は直接報告する」
「そう……」
「三日後、シュルベステル様が我が家を訪れるそうです」
「では、私は町に出るから」
「いえ、お姉様も同席するようにとありました」
「私も?」
「……はい」
シュルベステルとの約束の日までの三日間、ソレーヌは情緒不安定だった。
何か一人で考え込んでいるかと思えば、突然怒り狂う。
そして……
「私が聖女よっ、聖女は私なのっ。私以外に聖女がいるはずないじゃないっ」
能力を制御できていないせいか、ソレーヌは自身に繰り返し言い聞かせていた。
周囲の声がソレーヌを蝕んでいるのだろう。
結果を知っている私からすれば、聖女は間違いなくソレーヌ。
だけど、私がいくら『貴方が本物の聖女よ』と伝えたところで信じないだろう。
シュルベステルの報告を待つしか……
時が過ぎるのを待つこと三日。
「シュルベステル様、お待ちしておりました」
昨日までのソレーヌが嘘のように上機嫌。
今日も入念なおもてなしが計画されている。
使用人の気合の入れようも違う。
今日が上手く終われば、ソレーヌに八つ当たりされることもなくなる。
「先日のハンカチの件だが……」
「……はい」
「残念なことに魔物になんの効果を見せなかった」
「やっぱりそうでしたか……」
「やっぱり? とはどういう意味だろうか?」
「それが……私も昨日知ったのですが……あのハンカチは私が刺繍した物ではなかったんです」
ソレーヌが刺繍した物ではない?
「それは一体どういうことだ?」
「……私の使用人が急いだ時に破いてしまったらしく……それで渡す直前に転び、渡せない状況にしたと話してくれました。申し訳ありません。彼女も己の失態が恐ろしくなり今の今まで言えなかったと……使用人の事は責めないでほしいのです。彼女もわざとではありませんので。ですので、もう一度時間を頂けないでしょうか?」
「……そうだったとしても、今回の件で私が聖女承認の書類にサインする事は出来ない」
「そんな……」
「私からの承認がなくとも、教会からの後押しがあれば問題ない」
「教会……最近、教会で私の不評を流している者がいるみたいなんです」
「そうなのか?」
「はい、貴族達にある事ない事広めているそうで……私……辛くて……」
ソレーヌは涙ながらに告げる。
そんな姿を一切見せず我慢していたなんて……
家族なのに全く気が付かなかった。
「そういう事は、教会の司祭に相談した方が確実だろう」
「……司祭様に相談するのは……聖女として能力を発揮できていない私なので……」
「それとこれとでは違うだろう」
「……はい……教会で、誰も頼れなくて……」
「では、カルロッタ嬢も教会へ同行してはどうだ?」
突然巻き込まれた。
「私がですか?」
「カルロッタ嬢もソレーヌ嬢が心配だろう?」
「心配ではありますが……それで私が同席しても何も変わりませんよ」
「姉が一緒というだけで、気持ちが違うだろう?」
「ですが……ソレーヌは私に望まないと思います」
「そうなのか?」
「ソレーヌは努力家です。それを見られるのを嫌いますから」
「そうなのか。では、私から司祭に伝えておこう」
「シュルベステル様……私の為にありがとうございます。もしよろしかったら、今度一緒に教会へ……」
「ソレーヌ嬢は見られるのは苦手なのだろう? 邪魔になるので遠慮しておこう」
「そんな、シュルベステル様が邪魔だなんてありえません」
「では、カルロッタ嬢も一緒に見学に行くか? 令嬢も教会でのソレーヌ嬢を観たことがないんだろう?」
「……私は……身内が来てはソレーヌも気恥ずかしいでしょうから、遠慮しておきます」
シュルベステルと一緒というのも、教会に出向くのも、ソレーヌの恨みの籠った視線を向けられるのも全てを遠慮したい。
「……その謙虚さ。私の理想そのものだな」
「はぁ……ありがとう……ございます?」
「カルロッタ嬢には婚約の話は無いのか?」
「ありません」
「そうか……」
会話に不穏な気配を感じるも、それ以上の事はなくソレーヌの聖女判断は教会と王宮へと託された。




