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「いや、汚れていても構わない」
シュルベステルにとっては、ハンカチが汚れていようが関係ない。
聖女の能力さえ確認できればいいのだから。
「えっ……でも……」
だが、ソレーヌにとっては予想外の返答。
ソレーヌだけでなく、セシリーも慌てふためいている。
先程のセシリーの反応を思い出すと、彼女の行動はどこかわざとらしかった。
もしかしたら、全てはソレーヌの計画なのかもしれない。
「現実問題、ソレーヌ嬢が聖女候補として名が挙がってから時間が経過している。どちらにせよ、貴族達には令嬢の事を公表しなければならない。既に時間の猶予はもうない」
「……そんなっ……あっ」
シュルベステルはセシリーが手にしていたハンカチを掴み取る。
「大丈夫だ。このハンカチはソレーヌ嬢が一針一針縫ったのだろう? 汚れなど関係ない」
「……そのハンカチ……どうされるんですか? 」
「簡単だ、そのハンカチを魔獣の住処に落としておく。辺り一帯に獣の魔獣の姿が無くなれば、聖女の能力と判断。ハンカチが破れていたり、近辺に魔獣の姿があれば能力は無いと判断」
「……ハンカチが消失した場合はどうなさるんですか? 」
「問題ないよ、ちゃんと風で飛んだりしないよう重しを乗せておく。ハンカチに移った人間の匂いで魔獣はやってくる。洗わない限り重しを乗せるくらい問題ない」
「……そう……なんですね」
「ソレーヌ嬢、不安かもしれない。自身が聖女かどうか……だが、聖女であれば聖女と公表する。聖女でなければ、今までと変わらない。それだけだ」
それだけ……
シュルベステルにとってはそれだけかもしれないが、ソレーヌにとっては違う。
ソレーヌはお茶会などで聖女であるかのように振る舞い、シュルベステルに婚約の話を持ち掛けられたとも仄めかしてしまっている。
以前ヴァネサが教会に呼ばれ自身が聖女だと振舞った際、ソレーヌは彼女を批判し虚仮にした。
万が一ソレーヌが聖女でないと判断され、貴族に公表されてしまえば彼女と同じ扱いを受けると頭を過る。
「……その……シュルベステル様の婚約者は……聖女と決定されているのですか? 」
「聖女が存在すれば、相手は聖女となるだろう。もし聖女が存在しない場合は……次期王妃に相応しい相手が私の婚約者となる」
「それって、私にも可能性があるという事でしょうか? 」
「……次期王妃に相応しいと判断されればな」
「んふふっ」
「では、このハンカチに聖女の力が宿っているのか確認する。結果は分かり次第報告する。それじゃあ……」
「えっ、もう帰られるんですか? 」
「あぁ、聖女に関して早急に解決しなければならないからな」
そう言ってシュルベステルは紅茶やケーキに手を付けることなく王宮へ戻って行く。
彼の後姿を見送るソレーヌと私。
「セシリーッ」
「はいっ」
ソレーヌはセシリーを連れて足早に去って行く。
「紅茶をお願い」
「畏まりました」
なんだか不穏な空気を感じるも、私は準備されたケーキと紅茶を頂く。
「はぁ……疲れたな」




