17
「お嬢様、お客様がお見えです」
「お客様? 」
「それが……シュルベステル王子です」
「王子が? 」
「はい」
「すぐに準備するわ」
突然王子がどうしたのかしら?
前回の記憶では、王子が我が家を訪れたのは私が聖女と決定し婚約が内定した時だった。
もしかして、ソレーヌと婚約が決定した?
それだとしても、どうして私が呼ばれたのかしら?
「ねぇ、お客様は私を指名したの? ソレーヌではなく? 」
「はい、カルロッタお嬢様にお会いしたいと……」
シュルベステルが私に会いに来る理由が分からない。
現時点で私と彼に接点はない。
前回は聖女としてお披露目されてからの出会い。
ソレーヌもまだお披露目されていない。
いくら悩んでも答えが出ないまま、準備を整えシュルベステルの待つ応接室へ向かう。
「お……待たせいたしました」
「いや、報せもなく来てしまったのはこちらだ」
私が最後に見たシュルベステルは、婚約破棄を宣言した時。
彼に対してあまり良い思い出はない。
「ソレーヌでしたらまだ戻っておりません」
「いや、今日はカルロッタ嬢に話があって来たんだ」
「……第一王子、失礼ながら私の事をカルロッタと呼ぶのはおやめください。誤解される可能性がありますから」
「……そうだな。バルリエ嬢」
「……本日はどのようなご用件でしょうか? 」
「今日は、令嬢に婚約の申し込みをしに来たんだ」
「婚約ですか? 」
「あぁ」
「……ソレーヌとの婚約であれば、父と母とソレーヌ本人に伝えるべきです。私としてはお二人の婚約、大変嬉しく思います」
「いやっ違う。私はソレーヌ嬢ではなく、カルロッタ嬢に婚約を申し込みに来た」
「私に……ですか? 」
「あぁ」
「……聖女として教会に通っているのは私ではなく、ソレーヌですよ」
「そうらしいな。だが、聖女と判定を受けたわけではないからな」
聖女として教会に通うソレーヌであれば婚約を申し込むのは分かるが、私にとなるとシュルベステルの考えは読めない。
彼は聖女と婚約したかったのではないの?
「ソレーヌは聖女になりますよ」
「私はそうは思わない……君は本気でソレーヌ嬢が聖女になると思っているのか? 」
「はい」
「私は今回の教会の判断は間違いだと思えてならないがな」
「何を根拠にソレーヌが聖女ではないと思うのですか? 」
「彼女が聖女である実績がない」
「実績ですか? ソレーヌが祈ったミラルディー地方の問題は解決いたしましたが」
「それは、彼女が祈らなくても解決したと思うがな」
「ソレーヌが聖女でなかったとしても、どうして私に婚約を持ち掛けるんですか? 」
「……公爵令嬢であり、貴族令嬢として申し分のない教養、そして私はカルロッタ嬢こそ聖女としての素質があるんじゃないかと思っている」
「私は聖女ではありませんし、聖女になるつもりはないですから」
「何故だ? 聖女になりたくないのか? 」
「なりたくありません」
「どうしてっ……前は……あれほど……」
「ですので、婚約はソレーヌに申し込みください」
だが、あれだけ断ったにも関わらず私にシュルベステルから婚約の申し込みが届いた。
「どうしてお姉様なんですか? 聖女なのは私なんですよっ」
予想はしていたが、ソレーヌの感情は爆発。
公爵家はソレーヌの地雷に触れないよう細心の注意を払って対応している。
それでも、ソレーヌの癇癪は止められない。