16
「ただいま戻りました……」
ソレーヌが教会から戻る。
「それで……どうだったの? 」
「祈ったのですが……」
「そう、やっぱり一人だと緊張したんじゃないかしら? 今度からはカルロッタもね? 一緒に……」
「まだ能力を使いこなせていないだけで、私がいたら余計気が散ってソレーヌの妨げに。ソレーヌも一人の方が良いわよね? 」
「あっはい」
「ソレーヌ、焦る必要はないのよ。貴方はたった一人の聖女なんだから」
「そっそうですよね」
ソレーヌ自身も不安を感じていたのか、漸く笑みを浮かべた。
その後もソレーヌが教会へ向かう度に母から共に教会へ向かうよう促される。
ソレーヌの事が心配で仕方がない様子。
そんなに心配なら私ではなく、自分が行ったらいいのに。
「……お嬢さま……」
「何かしら? 」
「相談したいことがありまして」
セシリーは私付きというわけではないが、私の傍にいることが多い使用人。
前回は、私が聖女ではないと分かるとすぐさまソレーヌに鞍替えした。
「相談? それは相手を間違えていると思うわ。母か執事を通して父にするべきよ」
「いえ、お嬢様でないと……」
「私? 聞いたとしても解決できるとは思えないけど……」
「それでも、お嬢様に聞いてほしいんです」
「一応聞くわ」
「……弟が病気で……お嬢様に祈って頂けないと……」
そうだった。
セシリーには病弱な弟がいた。
前回も彼女に頼まれ祈った事で、弟は回復したと聞く。
「そういう事ね。分かったわ」
「ありがとうございますっ」
ソレーヌが教会から戻る時間。
セシリーを呼び、二人でソレーヌの部屋へ。
「少し時間いいかしら? 」
「何ですか? 私教会から戻ったばかりで疲れているんですが」
今日のソレーヌはあまり機嫌がいいとは言えなかった。
「ソレーヌにお願いがあるの」
「お願いですか? 」
私が『お願い』と言った瞬間、ソレーヌが眉間に皺を寄せるのを見逃さなかった。
「セシリーなんだけど、彼女の弟が病気みたいなの。貴方に祈ってほしいそうよ」
「おっお嬢様っ」
「私がセシリーの弟の為に祈るんですか? 」
「そう。それで、セシリーを貴方付きの使用人にしようと思うの」
「……セシリーはお姉様付きではありませんか。それだと、お姉様が不自由してしまいますよ? 」
「私はいいのよ。聖女の貴方の方が大事よ。それに、今の使用人の人数では補えなくなるんじゃないかしら? 私の事は気にせず、セシリーを貴方付きにしてくれないかしら? 」
「……分かりましたわっ。お姉様がそこまで言うのなら仕方なく私付きに受け入れます。弟のこともお任せください」
ソレーヌはセシリーを受け入れ、祈りも快く承諾。
「あのっ、私はカルロッタ様に……」
「私が祈ったところで何も変わらないわ。ソレーヌが受け入れてくれたんだから、貴方は誠心誠意ソレーヌに仕えるのよ。ソレーヌ、セシリーの事よろしくね」
「はいっ」
使用人の中でもセシリーは、私が聖女ではないとわかるといち早くソレーヌのご機嫌を窺うようになり専属となった。
いずれ私付きになろうとしていたところだったのを、ソレーヌに変更したに過ぎない。
前回よりも時期が少し早まったが、結果は同じ。
変わったとしたら、セシリーに捨てられた前回とは違い今回は私から手放した。
それだけで私の心持は違う。
晴れ晴れとした気分で私はセシリーを残し、自身の部屋へと戻る。