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ヴァネサからお茶会の招待状が届き、ソレーヌと共に参加。
「本日は私、ヴァネサ・ラウーレン主催のお茶会に参加して頂き感謝いたします。どうぞ心置きなくお楽しみください」
ヴァネサはソレーヌと同じ年齢。
その事もありソレーヌは、自身でなく格下の伯爵令嬢如きのヴァネサが聖女であることを認めていない。
伯爵家に到着する間も馬車で不満を喚き散らしていた。
「どうしてあの女が聖女なのっ、信じらんないっ。教会もちゃんと調査してんの? 間違えてんじゃないの。魔獣だって人間がいるって分かってるところに何度も訪れないでしょ」
怒りながらも、正しい事を言っているような気がする。
公爵令嬢としての矜持があるので、ラウーレン伯爵家に到着し馬車が停車すれば令嬢の仮面を被る。
それでもお茶会が開始されれば、公爵令嬢は誰からも持て囃される……
「ヴァネサ様、本日は招待して頂きありがとうございます」
「私、今日が待ち遠しかったです」
「それで……」
常に輪の中心で育ってきたソレーヌは、いつまで経っても中心になれない状況に不満が生れる。
「教会から連絡があったと聞きますが……」
ソレーヌが興味があるも、聞きたくない内容でもある。
それでもヴァネサを意識しているのが分かる。
「んふふ、そうなんです。教会の方から連絡が来まして……誰にも告げてないんですけどね」
ヴァネサに教会から連絡が訪れたというのは、使用人が目撃したというのが発端。
だがそれも、ラウーレンの使用人が漏らした事。
高位貴族の使用人が安易に内情を外で口にする事はない。
故意に噂を広めたのだろう。
「教会からどのような連絡があったのですか? 」
「詳しくは教会でということです」
「それは……」
今まで隣で大人しくしていたソレーヌが気が付けば輪の中に移動していた。
「まぁ、ソレーヌ様本日は私のお茶会に参加して頂きありがとうございます」
「いえ。それよりも先程の話ですと、まだ聖女に関しての話かどうかは分からないという事ですか? 」
今まで会話を眺めていたソレーヌが本領発揮し始める。
「えっ……まぁ、そうですわね」
「それでしたら、安易にそのような話はされない方がよろしいのではありませんか? 司祭様のお話にもありましたが、勘違いされてしまう方がおられるとありました。ヴァネサ様が故意に聖女を偽証しているとは思いませんが、正式に判断されるのを待つべきかと。令嬢の名誉の為にも」
内容と公爵令嬢という立場で、先程までの空気は消え去った。
ヴァネサもそれ以上言い返す事が出来ず、別の話題に。
それからは、強引にソレーヌが中心。
母に連れられ積極的にお茶会に参加していたソレーヌは物怖じしない性格というか、お茶会での自身の立場を理解している。
参加する機会の少なかった私は、ソレーヌの振る舞いに狼狽えてばかり。
見兼ねた私は新たなデザートが届いたタイミングでソレーヌに耳打ちをした。
「ソレーヌ、今回はヴァネサ様が主催者なのよ。彼女の面目を潰すことはしないのっ」
「何をおっしゃっているんですか、お姉様。どんな時でも爵位が一番なのです。主催者であろうと爵位の高い者が参加した場合、その方に敬意を払い優先するべきなんです。この場合、伯爵令嬢のヴァネサは公爵令嬢である私を優先しなければならないのです。お茶会に参加された経験の少ないお姉様には分からないと思いますが、お茶会とはそういうものなんです」
甘やかされた育ったソレーヌには、蔑ろに育てられた私の言葉を聞かないどころか私に忠告を受けたことが許せなかった様子。
その後も、傍若無人とは言わないが周囲がソレーヌを窺う。
公爵令嬢でありソレーヌの姉である私が責任を持って窘めるべき、という周囲の視線を受けながらお茶会が早くお開きになるのを願った。