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礼拝での祈りの前に話があると婚約者に呼び出しを受けた。
「カルロッタ、君は我々に懺悔する事は無いか?」
第一王子シュルベステル・ザッカリーニ。
私の婚約者。
何故彼が憎しみの籠った目で私を見ているのか分からない。
「懺悔……ですか? 身に覚えがないのですが……」
「やはり聖女と偽るだけはあるな」
「偽る? 何をおっしゃっているのでしょうか?」
私は教会に認められた正式な聖女だ。
「我々は既に全てを把握している。君の過去の功績は、本当は妹のソレーヌのものだということを」
「ソレーヌが?」
ソレーヌを見ればシュルベステルの腕にしがみ付き、泣きそうな表情を私に向ける。
「大丈夫だ、俺が守るから」
「はい」
私は今の状況が飲み込めず、目の前の二人のやり取りを見つめるしか出来なかった。
「カルロッタ。いつも熱心に祈っているように見せかけて、本当はソレーヌの祈りの能力だったのだろう? 」
「なんの事でしょうか? 私は毎回真剣に祈っています」
「真剣に祈っているのかもしれないが、真に能力があるのはソレーヌなのだろう? 」
「どういうことですか? 」
「ソレーヌが私に打ち明けてくれた。『これ以上周囲を騙すのは辛い』とね……」
「ソレーヌ? 」
「ごめんなさい、お姉さま。私もう、皆に嘘を吐くのは辛いんです……っく……ひっく」
「ソレーヌ、良く打ち明けてくれたな……カルロッタ、君は良心が痛まないのか? 妹の功績を奪い聖女と偽る事に」
「私は偽った事はありません。私は教会に認められた聖女です」
「その時から、妹の功績を奪っていたのだろう? 姉として恥ずかしくないのか? 祈りの力が聖女の証だと知らない妹を騙し、自身が聖女に成り代わるだなんて……」
蔑むようなシュルベステルの目。
以前から彼とは良好な関係とは言えないとは思っていたが、まさか聖女の能力を疑われていたとは知らなかった。
「そんな……私は聖女と任命されてから、嘘偽りなく過ごしてまいりました……」
「その任命時さえ偽っていたのだろう? 」
「そんな……もし……本当に私が聖女でないのであれば、直ぐに辞退致します」
「あぁ、そうしてもらう」
「今日の……祈りは……控えさせていただきます」
「あぁ。カルロッタがいくら祈ったところで何も変わらないからな。今日から本物の聖女、ソレーヌが祈るから問題ない」
私が本物の聖女かどうかの再判定する以前に、既にソレーヌが本物の聖女として扱われている。
「やっぱりソレーヌ様こそ本物の聖女様のようですね」
「私は以前からそう思っていたわ」
「カルロッタが聖女様ってのがおかしいと思っていたのよ」
屋敷に帰れば、既にソレーヌが本物で私は偽物だと広まっていた。
「ソレーヌが聖女だとお母様は信じていたわ」
「ソレーヌ。今まで苦しみに気が付かず、辛い思いをさせて悪かった」
父も母も判定前だというのに、ソレーヌを聖女だと認め祝う。
彼らの目には、私の存在は映っていない。
聖女と謀った娘は彼らにとって家族ではない。
本来なら家門で罪を償わなければならないが、妹が本物の聖女となったおかげで罰を受けることは無くなった。
妹は聖女であり救世主、姉は魔性? いや、私に人を惑わすような魅力は無い。
あっ、私に似合いの言葉を見つけた。
「廃人……」
何の判定を受けることなく私は偽物となり、家族から見捨てられ使用人からも忘れ去られた。
私の部屋の掃除は一切ない。
食事は一日一食から一日おき・二日おきになり、そして……
部屋から出ることは許されなくなり、窓を開けて外を眺めるしか今の私には出来ない。
窓の外ではソレーヌとセシリーが親し気に会話している。
「もうすぐ私の十六歳の誕生日でしょ、そのパーティーでシュルベステル様と婚約を発表するのよ。それで翌年には私が聖女と発表し結婚するの」
私との婚約解消も正式にしてないと思っていたけど、あの様子では既に婚約は解消……破棄……
面倒な手順を抜きにして、婚約者のすげ替えが行われたのかもしれない。
それが一番無難に思える。
「……あーっ……あー……あー……」
約一年近く私は誰とも会話をしていない。
もう、話し方を忘れてしまいそうだ……