43 突然の襲来
目的の町についたのは2日後の明け方だった
その間、獣にも異形にも出くわすことがなかったのは
ゲンナイさんの特殊能力『嗅覚』が危険を察知して、それを避けていたからだ。と後からイクマ君に聞いて驚いた
かなり離れた場所にいる獣の匂いや、その痕跡でなにが通ったか、など。匂いだけである程度のことはわかるらしい
「だぁ~!馬も人間もさすがに疲れましたね!」
「そうだな。馬は預けて俺たちも少し休もう。商談は何時からだ?由羅ちゃん」
「え、っと先方の都合が良いのは夕方とのことだったので、それまでなら自由です」
「じゃ、それまで休みましょ~!」
宿屋の部屋につき、ぐでぇ~と倒れるイクマ君に小さく笑う
でもさすがに私も疲れた…。
鍛錬のためにはちょうどいいとはいえ道中も気の抜けないこの遠征は、かなり修行になりそうだ
だけどいまの所、ハートに関してはまったく手ごたえなし。
共鳴に必要なのはハート三つ以上なので、ゲンナイさんもイクマ君もハートを増やさなければいけないのだけど…
そもそもの好感度の上げ方が不明なので、何か考えなくては…。
何かいい作戦はないか、と椅子の凭れ座りこむ。
ふと視界に入ってきたゲンナイさんは、窓際に立っていて、その腰にも武器である刀が差されたままだ
「休まないんですか?」と心配して聞けば「まだ疲れてないからな」と優しい笑顔が返ってきた。
「慣れない町だし一応な、護衛の役目を全うするよ。二人は安心して休め」と笑ったあと、警戒するように窓から町を眺めるゲンナイさんに(なんてできた人なんだ…!)と私は感激する
ここまでほぼ休まずの移動で、疲れていない発言もおかしいのだけど。それよりもこの真面目さと優しさが、見た目のワイルドさとのギャップで脳がやられそうになる
ほら見て下さいよ、イクマ君もちょっと頬染めながらキラキラと尊敬ビームを目から放ってますよ。
「ゲンナイさん、まじでイケメンすぎる…」
そう呟いたのはどちらかもわからないまま、疲労の限界がきた私とイクマ君は眠りについた
ーーー
十分休息をとったあと、支度とご飯を終え、商談相手の元へと向かう。
ついた建物の前でゲンナイさんが手を挙げた
「じゃあ、ちょっと離れるけど。商談が終わる頃には戻ってくるから」
「そんなに急がなくても、ゆっくりしてきてもらって構わないですよ?」
「そーっすよ!久しぶりの帰郷じゃないっすか!」
少しはゲンナイさんも甘えるべきだしわがままをいうべきだ。とイクマ君と二人訴えれば「そうだな」とゲンナイさんは小さく笑い、「少しゆっくりするよ」と後ろ手を振り、去っていった
「…ねえ、イクマ君。ゲンナイさんって、なんであんなにできた人なの」
「そっすね。俺も思ってました。親の顔が見たいっす」
「確か隣町って言ってたよね。商談終わったら見に行っちゃう?」
「由羅さんナイスアイディアっすね!親御さんにゲンナイさんへの日ごろの感謝をとくと唱えましょう!」
よし決まりだ。と二人ささやかにほくそえむと商談相手の元へ急いだ
商談は問題なく、順調に進んでいた時だった
仕事の話自体は終わり、友好関係の雑談の時。この後向かう予定の「隣にある村の名前は何か」とイクマ君が相手方にした質問に、小さな疑問符が返ってくる
「はて、この町の隣ですか?そう簡単に行き来できるところにもう人の住む村はありませんが。」
「この町自体辺境の場所になりますので」と不思議そうな顔をする相手に混乱する。
「え?でも…うちの者がひとり、そこに向かうと…」
「…あ。もしや、10年前に滅んだあの土地のことでしょうか」
「ほろんだ…?」
「ええ、二匹の異形によって、あとかたもなく…」
衝撃の事実に私とイクマ君は驚愕する
でも待って…。じゃあゲンナイさんが向かったのは…?
ゲンナイさんの故郷は、とっくに滅んだ場所ということ…?
知らなかったとはいえ随分と無神経な発言をたくさんしてしまった気がする…。
私とイクマ君がこれまで自分たちの発言のせいで、どれだけゲンナイさんを傷つけてしまっただろうか、と絶望した時だったーーー。
-ードォオオオン!!
地面が揺れると共に大きな破壊音がして、次いで逃げ惑うような町民の悲鳴が聞こえてきた
「ひぃ、!そ、そんな!ここ数年はまるで出なかったのに、ま…まさか!」
「「異形…!」」
私とイクマ君は顔を見合わせると、瞬時に状況を理解する。
でもどうしよう、私は戦えないし。ゲンナイさんもまだ帰ってきていない…!
「大丈夫です由羅さん」
私の不安を感じ取ったのか、イクマ君は私の手をぎゅっと握ると、ニカッと歯を見せて笑った
「今度こそ守るって言ったでしょう?」
約束は守ります!とイクマ君は外に出ると大筒を構える
現れたのは、通常の馬より三倍は大きな体をした、鬼のような長い角を二本生やした馬の異形。
「出たな!『馬鬼!』俺の大砲をくらえ!」
-ドゴォオン!と放ったそれが、馬鬼の頭上で爆発すると、悲鳴をあげた馬鬼が少しひるんだように見えた
「よし!」と狙い通りにいったのか、そのまま馬鬼を追い込むように走りだしたイクマ君の足の速さが凄まじく。私はそういえば、と思い出す
イクマ君の特殊能力は『脚力』。その足の速さは一瞬で数百メートルは移動していて、私は自分の目を疑った。
「とりあえず町の外へ追い出すので!由羅さんは皆と一緒に避難しててくださいっす!」
走り去りながら叫び、馬鬼を追い詰めるように花火と大砲を打つイクマ君に私は頷き、反対方向へ逃げようとしたところで(いや、ちょっと待て)と思いとどまる
そうじゃないでしょ自分!これも鍛錬修行なのだから!と体を反転させ、逃げ惑う町民たちとは真逆の。イクマ君と馬鬼の方へと私は駆け出した。
逃げるだけではハッピーエンドなど程遠い。
何かを得るには、何かを為さなければならない
私が役にたつかは、別として…!




