41 失いそうになった時、気付くもの
私の中の光を消すことは、歪みを消すと共に、時成さんの存在までも消すことになる。という事が分かってから一夜が明けた朝…。
当然のように私は、一睡もできなかった…
「…おはようございます」
「うお、どうした由羅ちゃんすげー隈だな」
「眠れなかったんですか?食欲はありますか?」
朝支度をして台所に下りると、ゲンナイさんとサダネさんに心配をかけてしまったようで、机に食事を広げるナス子さんと椅子にふんぞり返るナズナさんにまで凝視される
「由羅ちゃんどうしたの~?あ!もしかして恋の悩みで寝不足とか~?私とはとっくに両想いなんだから安心してくれていいのに~!」
「寝ぼけてんなよナス子。この女が“恋”なんてする玉かよ。」
椅子に座り、いただきます。と手を合わせた時、話す二人のある言葉にひっかかりを覚えた私は、ゆっくりと首を捻る
(恋・・・?恋の悩み・・・?)
頭に響く大きな疑問に首を振る。
まったくもって違う。私の頭を占めるのは…『時成さんが消えないためにはどうすればいいか』という問題だけで、恋の悩みとはほど遠い。
なのになにかひっかかるのは何故だろう…。
さっさと切り替えればいいのだけど、寝てないせいか頭はまったく働かず、恋という言葉が頭の中をぐるぐると回る。
ずずっと飲んだお味噌汁の味すら分からない。
「恋…」
お椀を置きながら、私が小さく呟いた瞬間に
ガターン!とナズナさんが椅子からころげ落ちた音と
ガシャン!とサダネさんがお茶碗を落とした音と
「どあっち!」とゲンナイさんが味噌汁を零した声が
同時に聞こえてきた。なにごと?
「…どうしたんですか皆」
「あんた達、動揺しすぎ〜わかりやす~!というか由羅ちゃん?本当にどうしたの?」
「ぼんやりしてるし~、ナス子心配!」と詰め寄ってきたそのかわいい顔に、少しうろたえながら私は聞いてみる
「…『恋』って、なんなんでしょうか?」
パリーン!と、今度は何かの食器が割れたような音が聞こえてきたけど、もはや気に留めないまま、私はナス子さんの返事を待った
「由羅ちゃん…今、恋してるの?」
「してないし、したことないので、どんなものなのかな、と…」
恋という言葉が頭の中から離れないのはナス子さんが言った『恋の悩みのせいで寝不足になる』という現象が私には身に覚えがないし、理解できないからだ。と納得付けて、ならば経験談を聞こう。と聞いた質問に、ナス子さんは「なるほどぉ~」とやや大げさなリアクションで、うんうんと頷くと
「では教えて進ぜよう!」と人差し指を立て、にっこりと笑った
「恋っていうのはねぇ~!下半身でするものだよ!!」
「・・・はい?」
「由羅ちゃん…よく考えてみて?人は何故、恋をするの?その先になにがあるの?そう、つまりその答えは下半身にあるの!自分の性対象であるその人を見た瞬間疼くものがある!それが恋!つまり恋が行き着く最終的なもの。それはつまりセッーー」
朝から下ネタ発言を連発するナス子さんの口にゲンナイさんが放った“たくあん”がスポポポンと放り込まれ、すかさずナズナさんがナス子さんの口を塞ぎ、サダネさんの手が私の耳を覆った。
「モガモガモゴ」たくあんを咀嚼しながらそれでも尚、なにかを話しているナス子さんは、何故かどや顔をしていて、もはや訳がわからなくなる
というか…三人とも、素晴らしい連携がとれているのはいいのだけれど、そんなに私に気をつかわなくてもいいですよ。
初心な学生という訳でもないのに…
「でも確かに、ナス子さんの言っている事も一理あるのかな…。動物というのは本来子孫を残すために求愛行動というものをーー…」
「おいやべーぞサダネ!由羅の口塞げ!」
「いや…由羅さんの口を塞ぐのは、もはや本末転倒かと…」
「…だな。もうナス子に毒されちまったようだ」
ぶつぶつと、ぼやく私に三人ががっかりした視線を向けていることなど気付かず、私はぐるぐると『恋とはなにか』と答えの分からない問答を繰り返す
というか何故私はこんなことを考えているんだろうか…
時成さんのことを考えなきゃいけないはずなのに…。
「由羅ちゃんいいか?ナス子の価値観はかなり偏ってるからな?」
「そうですよ。かなり間違っています。人間はそんなに浅はかな考えで動く生き物ではありません」
「この変態の言ったことは全部忘れろよ」
「じゃあ三人は、恋とはなんだと思うんですか?」
パチっと箸を机に置いて聞いた質問に、三人は同時に『うっ…』と言葉を詰まらせていた
「ほら、三人ともそんなにイケメンのくせして、まともに答えられないじゃないですか。恋したことないんでしょ」
イケメンのくせに。ともう一度言えば、カァァと顔を赤くさせたナズナさんが、バンッと机をたたいた
「こんのバカ女!あのな!お前だから答えられ……」
「…なに?なんで止まるんですか?」
つづきは?と首を傾げれば、さらにナズナさんの顔が赤くなる。
凄い。今のナズナさんの赤さは、ゆでだこの赤さといい勝負だ…!
「~~っ!こ、んの鈍感女!」
「はぁ?」
台所に響くような大声で叫んだナズナさんに、私は盛大に顔をしかめた
ナス子さんはいまだ口を塞がれたまま、やれやれと肩をすくめていて、ゲンナイさんとサダネさんはもう席に座り、我関せずのポーズで箸を進めている
つまりこのガキマインド発生中のナズナさんを鎮めるのは私しかいないわけだけど…
放置でもいいかな、めんどくさい
「鈍感女…ということは、ナズナさんは私に何か気付いてほしいことがある。ってことですか?」
「!」
目を丸くするナズナさんをみて、どうやら図星だとわかるけど…
さて、ナズナさんは私に何を気付いてほしいのだろうか…。
さっきの会話から察するに、恋とはなにかと聞いた質問に対して、ナズナさんは、『私だから』と何かを言いよどみ、その後『鈍感女』と叫んだ…。
私に対して、恋とはなにかを言えない…。だけど私になにか気付いてほしいことがある…。
単純に思いつくのは『ナズナさんが私に恋をしている』と仮定することだけど、まだハートは二つだし。理由もないし。その可能性は低い…。
となると…
「ナズナさんは…『私の知っている人の中の、誰かに恋をしている…!!』」
これだ!!と我ながら納得満足の答えに行きつき、「名推理でしょう!」とぐっと親指を立て、ナズナさんに笑顔を向ける
さぁどうだナズナさん。私を鈍感女と罵ったことを謝ってもいいんですよ。
今なら快く許してあげましょう
心晴れやかな気分の私とは反対に、何故かナズナさんは力が抜けたようにナス子さんから離れると、自分の席に座り無言でご飯を食べ始めた
その虚無の表情とリアクションに私は(え?なんで?)と動揺する。
私の名推理はずれたの?あたったの?それだけ知りたいんですが…
「由羅ちゃん残酷~ナズナどんまい~おもしろ~」
「え?」
「悪いな由羅ちゃん、今はそっとしてやってくれ」
「え?え?」
「由羅さん、おかわりもりましょうか?」
「お、おかまいなく…?」
まさかナズナさんが私に恋をしている。という仮説の方が、正解だったのだろうか。いやそんな馬鹿な…
なんだかすっきりとしないまま、いつもより静かな朝食を終え、片付けをしている頃だった。
「おはよう由羅」
「お、おはようございます」
いつもと変わらない様子で現れた時成さんに、ドキリ。と私の心臓が跳ねる
俯いて、挨拶を返すのが精いっぱいな私をとくに気に留めることなく、時成さんはサダネさんに応接室に全員呼ぶように指示を出していた
だめだ…。時成さんの顔がまともに見れない。
心臓がまるで締め付けられているように痛い…
脳裏には、どうしても考えたくない映像が浮かぶ。
『時成さんが消えてしまう』そんな怖くて、仕方ない光景…
いやだ…どうしても…!
時成さんが消えるのは……っ
なんだか少し涙が出そうになって
私は必死に唇を噛んで、この気持ちをひた隠す
想像だけでも、こんなに苦しく思うのは、生まれて初めてかもしれない……。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
やっと恋愛っぽくなってきました…
少しでも面白いと思ってもらえたら幸いです!
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