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34 儚げ王弟紳士イケメン

 一息ついている場合ではないと立ち上がり背筋を伸ばした私に、目の前のシオと名乗ったその人は小さく首を横に振った



 「どうぞ、楽にしてください。私はただ同じトキノワの社員としてご挨拶に来たのです」



 砂糖はいりますか?と聞いてきたシオさんはすでにティーカップに紅茶を注いでいて、私は思考が停止しそうになりながら「ひとつだけ」と返事をした

 

 兄のツジノカさんの漆黒の髪とは反対に、シオさんの髪は純白に輝いていた。だけどやはり兄弟というべきか、その美貌は息を呑むほどで…。どこか儚げで消えてしまいそうな美しさに神秘ささえ感じる。砂糖を小さなトングでつまむその所作すら絵になっている。イクマ君ともまた違う年下キャラだ。いやだけど王族の人なんだっけ…

 あ、だめだこれ。ちょっとどう対応していいのかわからなくて頭がショートしている



 えーと…目の前のこの人は王弟様で。でも、トキノワの社員でもあって…?混乱しながらもゆっくりと椅子に座った私にシオさんは紅茶のカップを手渡してくれた。

 香ってきたカモミールの香りに少しだけ頭が落ちついてくる



「先の由羅様の質問は『何故、ここが支部で。国の王がトキノワの支部長なのか』との事でしたが」

「あ…はい、そうです。」

「理由としましては10年前、この町に異形が襲来した折、それを追い払ったのが時成様だからです。感謝の証に国として城を支部として差し出し、王も自ら一社員としてトキノワに籍を置きました」

「へー!初めて聞きました!さすが時成様っすね!!」



 キラキラと尊敬しているイクマ君を視界の端にとらえながら首をひねる。

 なんだか胡散臭いと思うのは私だけ?どうにも信じられないのだけど…。いや時成さんが異形を追い払ったってところがね?でも確かに以前読んだ本にもそんな事が書かれていた気はするけど…異形を追い払うとかそんな事がはたしてあの人にできるのだろうか・・・まるで想像できない。



「10年前のあの日。時成様が現れなければ、兄上様もこの町も無事ではなかったでしょう。時成様には個人としても国としても大恩があります。」


「その時って確か、ツジノカさんまだ王様じゃなかったすもんね。10年前のその年はいろんな場所に異形が多発して、大変だったって聞いてます」


「はい。その襲来したひとつの町がこの町でした。先王の時代。兄上様は訳あって…身分を隠し暮らしていたので目の前に現れた異形にただ襲われるだけだったらしく、それを助けたのが偶然その場にいた時成様だったと聞いています。そのすぐ時成様の元に雇われ、のちに国王となったので、経歴的には支部長としての方が長いですね」



 うーん…。事の理由は一応納得できたものの。まだ気になる事はいくつかある…だけど聞いていいものなのか、と悩みながら紅茶を飲んでいれば気になる事のひとつをイクマ君が簡単に質問していた



「ツジノカさんが身分を隠してたってのはなんでなんっすか?」



 おおう…それを聞きますか、イクマ君凄いな。いや私もものすごく気になってたからありがたいけど。結構デリケートな問題なのでは?ほら王族って色々ありそうだし…いやこれは偏見だろうか

 少しハラハラとしながら様子を伺っていれば意外にも軽い調子でシオさんは答えていた



「実は兄上様の母君ダリア様は、先代の国王に寵愛を受けていた平民の生まれの方で、先王を愛していたのですが、どうも王族というものが性に合わない、と赤子だった兄上様をつれ身分を隠し庶民として民家に暮らしていたので、そのせいです」


「あ~!だからトビさんとキトワさんと幼馴染なんっすね!」



 王様のツジノカさんと同じ学舎っておかしいと思ってたんすよ~!と笑うイクマ君に少し驚きながらも、「そんなこと、許されたんですか?」と私は疑問を投げた



「反対や離縁を訴える者もいましたが、芯が強く自由なダリア様を、先王は許し愛しておられました。ですが悲劇にも10年前、異形の襲来の折、家屋の崩壊に巻き込まれダリア様は亡くなってしまったのです」


「「え・・・」」


「不幸は連鎖するといいますか、先王と私の母もその後、病気で亡くなり、王族は私と兄上様だけになってしまいました。正統な後継者は自分なのですが、私には能力が足りず…兄上様はそんな私の代わりに王という義務を果たしてくれているんです。兄上様もダリア様と同じく、王族は性に合わないと毛嫌いしていたのに…」



 伏し目がちに話すシオさんに私は眉を下げる



「で、でもあれですよね!たった二人の身内な訳ですし母親は違えど仲は良いんじゃないですか?」

「…いえ、最近は兄上様との会話もなく、兄上様はきっと私の事を、信頼されていないのだと思います」

「・・・。」



 そんなことない。と否定したいところだけど、二人の関係性もわからないし下手なこと言ってもな…


 「へーなんだか王族も大変そうっすね」とニコニコとしているイクマ君の軽さが今は助かったグッジョブ



「すみませんこんな話をきかせてしまって」

「いいえ。話してくれてありがとうございますシオ様。私たちで力になれることがあればいつでも言ってくださいね」

「ありがとうございます、どうぞシオと呼んでください」

「え?うーん…、ではシオ君なんてどうでしょう?」

「いっすね!自分とおそろいっすよシオさん!」

「そうですね、ありがとうございます」



 ふわりと小さく笑ったシオ君は「ではまた後程」と去っていき、その後ろ姿をみて私はハッと思い出した

 どこかで見たと思えばそういえばシオ君もモニターにいたな。もっと早く気付けばよかった…


 どうやら出会っていなかった対象人物二人と接触する。というのは達成できたみたいだ





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