32 ひとりじめ
「読むなと言われて読まぬことなどできないのだよトビ!」
「嘘つけコントロールできるくせに何ほざいてやがる!」
「仕方ないだろうあのトビがとても面白い顔をしていたのだから兄として何故そんな顔をしたのか把握しておくのは当然のー」
「誰が兄だ!ただの腐れ縁だっつってんだろぃ!」
穴から脱出するやなにやらギャーギャーとよくわからない言い合いをしているトビさんとキトワさんを引き連れて、いつの間にか霧が晴れている小屋にやっと戻れば
そこには涙でぐしゃぐしゃになっているイクマ君が待っていた
「イクマ君!」
無事でよかったけど何故号泣しているのか。と疑問を口にするよりも早く、私を見るやものすごい勢いでイクマ君は土下座を披露した。え、なんで?
「ごめんなさい由羅さん!!俺が守らなきゃいけなかったのに~!!!」
ぐしぐしと泣きながら叫んだイクマ君の土下座の理由に納得して、私はとんでもない。とイクマ君にこちらこそと謝った
「ごめんなさい。幻覚で混乱してその場から動いた私がまずかったんだと思うからイクマ君は絶対悪くないよ。勝手な行動してごめんね」
というかあれはもはや誰にもどうしようもないのではと思ってしまう
だってイクマ君とつないでたはずの手の感覚すらなかったし、と幻覚の恐ろしさに今更にゾクリと怖くなる。
早いとこあの幻覚にあらがう手段をなにか講じないと確実にまずいと思う
「イクマ君は大丈夫だった?猫魔と戦ったの?」
「いえ、自分はなにも遭遇してないっす。皆さんはどうっすか?」
「俺は猫魔の気配を感じたから、追いかけてったら穴に落ちた」
「僕も気配を感じたけど、その場所がよくわからなくてね。下手に動くよりは、とその場にとどまったよ」
「…俺だけ間抜けに聞こえるのは気のせいか」と少し不機嫌になるトビさんに苦笑いを零す。大丈夫ですトビさん私の方が間抜けですから
「じゃあ誰も猫魔と遭遇してはないのか?」
「あ、でも私は獣みたいなうめき声を聞きました!すぐ目の前で!グルル~っていう。そのすぐ穴に落ちましたけど」
「…なんとも、無事で良かったね由羅嬢…」
少し驚いた表情でキトワさんに言われ私は大きく頷いた。今でも自分が生きているのがちょっと信じられない…
それぞれ報告と現状確認を終え、再び警戒しながら交代で休みをとろうと小屋に入ると体にずしりと疲労感がのしかかってくる
「ざっと見てきたけど気配はもうどこにもないな。」と見回ってきたキトワさんが告げ、私はほっと息を吐く。「少し寝ておけ」とトビさんに言われお言葉に甘えて横になったその時ーー
『由羅、聞こえる?』
「へ!?」
ーー突如頭に響いた声に反射的にバッと体を起こして声をあげるとトビさん達がきょとんと私を見てきた
「由羅さん?」
「どうした?」
「え?あ、いや…」
怪訝に見てくる皆にどう説明しようか、と悩めば再び奴の声が頭に響く。
『私が交信できるの由羅だけだから、誤魔化してね。』
淡々とした口調で丸投げしてくる時成さんに、口元がひくつきそうになるのをなんとか耐えて「あー、なんでもないんです。すみません!寝ますね!」と半ば力業で我ながら違和感しかない誤魔化し方ののち、私は目を瞑ると皆に背を向けて横になった
ちょっと背中に視線が突き刺さっているように感じなくもないけれど、ありがたいことにそれ以上触れられることはなく、私は人知れず深い息を吐く
(ちょっといい加減にしてくださいよ!どうして時成さんはいつも必要としてる時に現れないくせにこういう時だけ…!猫魔とか出て大変だったんですよ!)
『私も暇ではないからね。いつも由羅を見ているわけではないんだよ』
(~~!もう!わかりましたよ!で!要件はなんですか!?)
そういえば以前の交信時のようなノイズもなければ私の声も時成さんに届いているようだし交信の実験は成功でいいのかな。
まぁでもとりあえずいいか、とにかく疲れて眠いし要件を早く済ませてもらいたい
『おめでとう由羅』
(は!?)
『トビの好感度がハート二つになっているよ。この調子で頑張りなさい』
(…え、もしかしてそれだけの報告ですか?)
『うん。私はサポートキャラだからねいついかなる時も好感度の進捗は見ているよ』
好感度は見るのになぜこちらの危険は放置なのか…。
な、なぐりたい…。この人本当遊んでるな
(…ちょっと本当いい加減に半分遊ぶのやめてください)
(時成さん…?)
「……」
しーんとなんの音もしなくなった頭に時成さんが交信をやめていることを察し、否応なしに私の額にピキリと青筋が浮かぶ…。
い、言いたいことだけ言っていなくなるとか・・・
「ーー傍若無人にもほどがあるでしょうが!!!」
あのやろう!とガバリと起き上がりながら気づけば叫んでいたらしく、感じた三人の視線にハッと我に返る
「えっと…。由羅さん?おはようございます!」
「アッハッハッハ!夢でも見ていたのかなプリンセス!どうやら目覚めのキスはいらなかったようだね!!」
「もう朝だぜぃ」
…どうやらいつの間にか眠っていたらしい。小屋の窓から朝日がさしこんでいる
交信が切れたのも私が眠ったせいなのか、時成さんが切ったせいなのか。というか交信事態が夢だったのかも…。と私はため息を吐いた
トビさんがハート二つになった。とか言っていたけど、一緒に穴に落ちただけで穴から助けたわけでもないしむしろ心細い穴の中でトビさんの存在に救われたのは私だ
最後にもう一度森の調査してから危険はもうないと判断すると私達はその森を後にするため荷支度をした
今からまた数時間ほど馬を走らせて報告のためにミツドナの町へと向かう。
昨日トビさんにも合格もらったし今日は初めて一人で乗馬だと私が馬を撫でていれば、すでに乗馬しているトビさんに「由羅」と名前を呼ばれた
突然の呼び捨てに少しドキッとしつつ「なんですか?」と見上げれば馬上から手を差し伸べられて、不思議に思いながらもその手を掴むとぐいっと引き上げられる
「わぁ!!」
ポスリとトビさんの前に座ってしまい馬に二人で乗っている状況だけれど・・・思いのほか密着していることに少し動揺する。
だって背中はトビさんの胸板とぴったりとくっついているし、私の両脇の下から手綱を持つトビさんのたくましい腕が見えていて…まるで後ろからトビさんに包み込まれているようだ
「と、トビさん…これは…」
「昨日腰と足を痛めてただろぃ?今日は念のため一人での乗馬は禁止ってことで」
「だ、大丈夫ですよ大した痛みじゃ…」
「おっと、動くとあぶねぇぜぃ」
ぎゅっと腰を抱き寄せられてさらに密着してしまい私の顔がじわじわと熱を帯びる
「おやトビ。プリンセスを独り占めかい?」
「い、いえ違いますキトワさん!トビさんは気を使っていただいてるだけで」
「甘いね由羅嬢。トビの感情はそんな紳士なものではないようだよ?」
にやりと笑ったキトワさんの言葉の意味が分からず、トビさんを見上げれば、トビさんもなぜか含みのある笑みを浮かべていた
「独り占め、できる時にしとかねぇとな」
「え…?」
私を見つめ笑ったトビさんはその手で私の前髪をかきあげると、-チュッとおでこにキスを落とした。
ふわりと香ったトビさんの匂いと、おでこに触れた柔らかい温もりに私は赤面したままピシリと固まる…。
してやったりと笑うトビさんに、私はパチパチと目を瞬くしかできなかった
「あっはっはっは!楽しくなりそうだな!」
「え、なんすか!?なんかあったんですか?」
「ガキのイクマは知らなくていいぜぃ」
見ていなかったらしいイクマ君がはぶてたように頬を膨らせているのを視界にとらえながらも走り出した馬の上で私はそっとトビさんにキスされたおでこに触れた
次第にドキドキと煩くなっていく心臓と、背中に感じる熱い体温に
私の顔の赤みはしばらく収まらなかった…。
時成さんの交信はどうやら夢ではなかったらしい・・・
(これはハート、二つになってるな…)




