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エデンの東  作者: 鴨葱
3/12

 窓から差し込む光の柱が、カーブに合わせてぐにゃりと歪み、歯軋りのようなレールの軋りが、一際大きく鼓膜を揺らした。直後、「間もなく到着します」という早口で簡潔なアナウンスが流れ、ノエルは左手を首筋に当てて安堵の息をもらす。コキッと首の後ろが鳴った。


「終わった……」


 思考回路は混線。顔は腫れぼったく、目の下には青ずんだ陰りが出来ている。スタンガンよりも強い放電で気絶させたまでは良かったが、手錠は愚かロープ一本用意していなかった為、いつ意識を取り戻すかわからないロイドを一晩中見張る必要があったのだ。異能者じゃないからと言って、侮る事なかれ。彼は暗殺のプロであると同時に、戦闘の達人である。


「行くよ、ロイド=パトリック」


 目の奥の不快な熱を感じながら、ノエルはロイドの腕を引くように立ち上がった。


「……断る」

「電気流すぞゴラ」


 リオを守る際に使ったレイの防御術・聖領域(セレイア)――あれで動きを封じてしまえば、ロイドも逃走を諦めたかもしれない。けれど、「手足切り落として止血しとけ」と言い放ち、さっさと寝てしまった彼に、一体何を頼めるだろう。


 ノエルは、引きずるようにしてロイドを列車の外に出すと、電子手帳片手に付いてくるレイに不満げな視線を向けた。これから魔術師試験を受けるとは思えぬ落ち着きっぷりに、(この能面サイコパス……)と半ば八つ当たりのような感情を向ける。


「少しくらいこう手心ってものをだなぁ……」

「何ぶつくさ言ってんですかぁ?」


 ハツラツとした笑顔で質問をしてきたのは、オレンジ頭の少女・リオ=クルスクであった。ノエルの旅行鞄を一時的に預かっている彼女もまた、目の下に青ずんだ陰りを作っている。眠れなかったらしい。


「にしても、すっごい隈ですねぇ。まさか一晩中監視してたんですか? だったら私もお手伝いしたのにー……あ、その角曲がったところに警察署がありますよ!」

「朝から元気な奴だなぁ。本当に寝不足?」


 目的地が同じとはいえ、当然のように行動を共にするリオも、ノエルには理解が及ばぬ存在だった。彼女は、今後袂を分かつであろうライバルの1人。命を狙われたばかりでもあるし、もう少し警戒心を抱いたほうがいいのでは、と思わずにはいられない。リオは「寝不足ですよぉ」と上目がちに見つめて、


「大剣も持ってましょうか?」

「いや、荷物だけで助かる」

「りょ! です」

「じゃ、引き渡してくるわ」


 疲弊しきったロイドの腕を絡め取り、ノエルは警察署に向かって歩き始めた。陰鬱な顔で、ノロノロと、それでも歩幅は変わらず姿勢も良い。こういうところに育ちが出るんだなぁ、とレイは独り言ち、近くのガードレールに腰を掛けるのだった。



「ロイド=パトリック、A級の賞金首ですね。はい、確認完了しました。……それでは、改めまして。ノエル=アルジェント様、魔術師試験予選通過おめでとうございます」


 パソコンに向けられていた顔を上げ、年配の警察官は愛想良く笑う。力で政治に介入した軍部を、そこに属する魔術師を、快く思わない公安らしからぬ対応に、ノエルは驚きを隠す事が出来なかった。


 ノエルは、多くの国家魔術師を輩出してきた一族の末裔である。軍の犬と蔑まれてる事、嫌煙されてる事は身を持って知っていたし、冷たい視線と刺々しい言葉を浴びる覚悟は既に出来ていた。好意的な態度など、予想の範疇にない。


「あ、はあ……」


 逆にどう反応すればいいのかわからずに、ノエルはしどろもどろに頷いた。


「はい、これ証明書。頑張ってください」


 預かっていた受験票を返すタイミングで、警察官は“A級捕獲証明書”であるブラックカードをノエルに渡した。ノエルは、アリガトウゴザイマス、と片言のような敬語を口にして、にこやかに笑う男に会釈しながら出入り口に足を向ける。


(やりにくいな……)


 ウィーン、という機械音と共に自動ドアが開き、4月を超えたばかりの冷たい風が体の温度を下げた。凝り固まった筋肉が少しずつほぐれていくような感覚に、ノエルは思わず無音のため息をもらす。


「よし……」

「……あっ。ノエルさーん」


 出てきた途端、駆け寄ってくるオレンジ頭の女の子に、ノエルは、はた……と動きを止めた。我関せずを貫くレイとは対照的に、彼女は他人のパーソナルスペースをズカズカと踏み荒らしていくタイプらしい。突っ立ったままのノエルの手を引き、リオは半ば強引にレイの元へ引っ張っていった。


「さ、行きましょう! 道案内なら私に任せてくださいね!」

「は?」

「……案内してくれるらしい。よかったな」


 トランクケースを肩にかけながら、レイはいつもの仏頂面をリオに向けた。


「では、リオ。よろしく頼む」

「え、ちょ。……レイ。アイツに任せて大丈夫なのか?!」


 軽やかな足取りで、飛ぶように歩くリオの背中を、レイは取り澄ました涼しい顔で見つめた。


「ああ、大丈夫だ。この街の地理は頭に叩き込んでいるし、彼女が嘘の道を教えても、私には正しい道がわかる」

「いや、俺はそんな心配してなかったよ。……怖」


 緊張感の欠片もないくせに警戒心は人一倍強く、寄ってきたかと思えばさらりと交わす。変わり者で底が見えない、扱い辛い事この上ない同行者に、ノエルは思わず苦笑いを浮かべた。


「早くついてきてくださいよー! すぐ着きますからぁ」

「ああ。だが、その前に、荷物を何処かに預けよう」


 早く早くと飛び跳ねるリオと、軽快な足取りで駆け寄るレイ。ノエルはその背中を無意識に目で追いながら、敵に回すのは極力避けたい……と密かに思うのであった。



 13の州と11の県で構成される、連邦共和制国家――アメラギス。その内、師団が配置されてる地域は13の州だけであり、軍神(ぐんしん)率いる13の戦闘部隊が配置されているのも、それと同じであった。


 今回、ノエル達が訪れた師団は、3番州を管轄している『第3師団』。アメラギスの首都・1番州(セントラル)の南隣に位置する、重要な土地の1つである。しかし、その建物の外観は、鏡のブロックを積み立てたような個性的で美しい見た目をしており、ここで試験が行われるとも、ましてや屈強な軍人が滞在してるとも思えなかった。


 ノエルは、隠しきれない不安を生唾と一緒に飲み込んで、


「地方の師団とは随分違うな?」


と、後ろを振り返る。レイが頷いた。


「それは、そうだろう。セントラルを筆頭に2番州・3番州・4番州の師団は別格だ。常駐している戦闘部隊も、より強い隊が配属されている」


 心の内が全く見えてこない、冷たい能面顔。何を考えているのか、さっぱりわからなかったが、極く微妙に、漂う空気が固いような気がした。隣で、陰鬱な表情を浮かべるリオとは、比べ物にならないが。


「へぇ。それは、是非戦ってみたい」

「アホ。勝てるわけないだろう」

「やってみなきゃわかんねーだろぃ?」


 緊張を虚栄心で隠すように、ノエルは先陣を切って鏡の機地へ足を向けた。警備員1人見当たらない、無防備な硝子の扉は、3人を歓迎するかのように左右へと分かつ。瞬間、密閉されていた室内の空気がふわりと動き、ノエルの口から感嘆の息が溢れた。


 広々としたロビーに赤い絨毯が引かれ、高い天井にはバカラのシャンデリアが吊るされている。まるで高級ホテルのような作りを見て、


「ホテルのロビーみてぇ……」


と、周りを見渡してしまうのは致し方ない事だろう。されどレイは、


「キョロキョロするな恥ずかしい」


と苦言を呈し、さっさと横を通り過ぎて行ってしまう。全く、夢も希望も面白みすらない男である。


 ロビー奥にある受付カウンターには、白いワイシャツを着た細身の男が1人で座っていた。四方八方にハネたボサボサの黒髪、やる気を感じられない覇気のない空気。黒いマスクで顔を半分隠し、紫色の瞳に3人を映し出している。


「……ヒヒッ。これはまた面白い顔ぶれで」


 元帥の娘であるリオの事を指しているのか。はたまた、この界隈では“そこそこ有名”な、自身の事を指しているのか。ノエルは、値踏みされるような居心地の悪さを感じながらも、受験票と証明書を言われるがままに渡した。男は、にんまり、口元で弧を描く。


「受験資格の獲得、おめでと。……じゃ、これ付けて」


 ノエル・レイ・リオの前に、車輪十字のピンバッチをそれぞれ置き並べると、男は、まるで口上を述べるように淡々と続けた。


「試験終了時に回収される。絶対に失くさないで(・・・・・・)


リオの目が瞬く。


「十字の色が……違う、のは何でですか?」

「捕まえた犯罪者のランク、数によって車輪十字の色を変えてる。つまり、現時点での君たちの評価だ」

「っ、え! 今後の試験に、響くんですか…!?」


 不安げに眉を潜めるリオに対し、男はふるふると首を横に振った。


「あくまで参考程度だけど……まあ、色の説明だけしておくか。リオ=クルスク、君は、B級賞金首を捕えた為青十字。ノエル=アルジェント、君は、A級の賞金首を1人捕えた為赤十字。そして、B級の賞金首でも、複数人捕らえてる君――レイは2ランク上の黄十字評価になる」

「2ランクも?」


 レイは、『失敗した』と言わんばかりの顔をして、


「ミスった……1人だけにしとけば良かった」


と、陰鬱極まる調子で呟く。

 その様子を見ていたノエルは、不思議そうに首を傾げた。高い評価が気に入らないなんて、彼の考えてる事はさっぱり理解が出来ない。


「……他に質問はありますかねぇ?」

「あ、いや。ありません」

「そ。じゃ、会場に向かおうか」


 男はカウンターを軽々飛び越えて、3人を誘導するかのように歩き始めた。リオは、無人になるロビーを振り返りながら、


「あのぉ……警備する人が誰もいなくなりますけど」


と疑問を口にするが、男は興味なさそうに「ああ」と宙を見つめている。


「今日は、警備員を兼ねてる(※)候補兵がお休みだからね」

   (※)戦闘部隊候補。国家魔術師。

「えっ……ええっ? まさか全員が!? ス、ストライキですか!?」

「まさか。今日は魔術師試験だからね。戦闘部隊の全隊員が、各師団、各連隊に出勤しているんだ。必要ないでしょ、戦力的に」

「ちなみにお兄さんは戦闘部隊の隊員なんですか?」

「ヒヒッ、まあね。3番隊の末端だよ。……さて」


 便所サンダルのペタペタという音を止めて、男はキョロキョロと周りを見渡した。そして、壁についた黒シミを見つけると、そこにぐっと力を加える。

 一見何の変哲もない廊下に、隠されていた秘密の通路。鈍い音を立てて回転をする壁を見て、3人は感嘆の声をあげた。冷たい空気が壁の向こうから流れてくる。


「一直線に続く長い階段を下って行くと電車がある。この電車は10時5分、後30分ほどで発車すると思う」

「えっ! ここで試験するんじゃないんですかぁ!?」


 肯定の意を込めて、男は首を縦に降った。


「受験生は、国中から集まる。各師団から、本拠地に向かってもらうわけ。……3番州からは近いから電車だけど、場所によっては軍用機、もしくは転送術を使う」

「へぇー。なんだか、わくわくしてきますねっ! ノエルさんっ、レイさんっ!」


 肩を大きく回し、勢いよく振り向いたリオの視界に、2人の姿は映らなかった。忽然と姿を消した?否、男の話を聞き終えると同時に、さっさと階段を下り始めたのである。リオは、小さくなった2人の背に向かって、


「ちょ、まっ、待ってくださいっ!」


と、声をかけると、谷底のようなじめじめとした地下へ、何の躊躇いもなく足を踏み入れていった。





 この地階は、いったいどの程度、地上から離れているのだろうか。ノエルは、じめじめとした空気にぐっと眉を寄せると、ランタンに照らされた列車をじろりと見つめた。


 一両編成の古びた外装。赤い塗装はところどころ剥がれ落ち、窓ガラスは黒く塗りつぶされている。恐る恐る列車内へ入ると、ボックス式のクロスシートが並んでおり、既に数人の受験生が着席していた。互いに警戒しているのか、離れた椅子に腰を下ろしている。


 空気はどことなくピリピリとしており、極僅かな神経的な距離感が、3人の間に段々と蔓延り始めた。しかし、元来空気を読まない銀髪の少年は、入り口付近の窓側の席にどかっと腰を下ろすと、


「何を突っ立っている。早く座ったらどうだ」


 ノエルとリオはどちらからともなく顔を突き合わせると、「それもそうだな」とお互い口元に笑みを浮かべた。レイの正面にノエル、そしてレイの隣にリオが座る。


「受験者の顔でも見てたのか?」

「いや。そんなんじゃねーけど」

「……なんだ。てっきり、そうそうたる顔ぶれに驚いたのかと」


 ノエルの目が瞬く。何を?と問うてるようだった。


「知ってる奴でも居たのか?」

「ああ。まあ、元々知っていたのは1人くらいだ。乗車している4人中2人が白十字だから驚いてな」

「白十字ってこのピンバッジの事ですか?」

「他にあるまい」


 見てみろと促された2人は、椅子から顔半分を出し、受験者達を盗み見た。確かに、大鎌を担いだ仮面の男性と、蒼眼で柔和な顔の形をした青年の襟元に、白十字のピンバッジが付けられている。


「ふーん。つまり強い奴倒したって事か」


 だからなんだというのだ。ノエルは率直に思う。

S級だろうが、SS級だろうが、対峙さえ出来れば捕まえられるという、力と自信が彼にはあった。運が良かっただけだろうと、目が語っていた。そんな思考を見越してか、レイはため息交じりに口を開く。


「……魔術師試験は、いつも5段階評価で点数をつけられるのは知っているな?」


 常識だぞ、と付け足した彼に、ノエルは当然だろと答えた。宝石のような無機質な瞳に見据えられ、堂々知りません等と言えるはずもない。レイは続ける。


「受付の魔術師が説明していた、車輪十字の色。あれは、魔術師試験の5段階評価色と同じものを使っている。……この評価を使っているという事は、前試験とは名ばかりで、既に試験は始まってたという事だ。情報収集能力は、運だけじゃどうにもならん」

「……。白、って事はレイの1つ上だな」

「そうだ。白十字は、SS級の犯罪者を捕まえるか、A級の犯罪者を複数人捕まえているという事になる」


 おそらく後者だろうがそれでも凄い、とレイはボヤいた。


「黒評価なんて無理ですよねぇ。私、学校の先輩から、黒は無理ゲーって聞きましたよ」


 今まで黙っていたリオが話に加わる。レイはそうだなと頷きながら、「まず不可能だろう」と喉の奥で笑った。全ての分野で満点を出さなければ、黒の評価を得る事は出来ない。歴代の受験生の中にも、そんな化け物存在しないに等しい。


「でも」レイは電子手帳の角を顎に押し当てながら、「いない事もない」

「マジ?」「うっそぉ!」


 ノエルとリオの声が重なり、他の受験者の気が一勢に向けられたが、レイは気にも止めず話を続けた。


前回(2年前)、唯一の試験合格者だな」

「唯一?」

「ああ。当時18歳の青年だ。他の受験生を圧倒したとか」


 ふうん、と言って、如何にも気に食わなそうにノエルは口を窄める。


「って事は、今は20歳(ハタチ)、になるんだ?」

「……。そうだな。現在は、賞金首になっているようだが」

「賞金首……」

「あーっ! そういえば士官学校で聞いた事あります! 最近SS級になったとかで――」

「SS級だって?」


 リオの台詞を遮って、ノエルは金色の眼光をレイに向ける。地の底から響くような、凄みさえ感じる低音に、リオは顔面神経を強張らせた。


「レイ。シオンの事知ってんの?」

「……シオン? ああ、その名前だったな」

鉄の壁すら射抜きそうな鋭い視線にゴクリと喉を鳴らして、レイは俯き加減に視線を反らす。

「知ってるも何も、私は情報屋志望と言っただろう。指名手配書くらい把握している」

「じゃあ……っ、居場所も!?」


 風に煽られた焔のように、ぶわっと殺気が拡大する。乗車している受験者は身構え、いつ乱闘騒ぎに発展してもおかしくない空気が流れた。レイは身を乗り出してくるノエルをじっと見つめて、わざとらしく肩を竦める。


「知らない」

「……」

「シオン=アルジェント(・・・・・・)の居場所なんて」


 2人の視線がぶつかる。完全に萎縮してしまっているリオの隣で、レイは「アルジェント、か」と噛みしめるように呟いた。まるで、ノエルの出自に気づいているような口ぶりだった。レイは得心したように頭を垂れ、「居場所は知らないが」と再び言葉を紡いだが、発車時刻を知らせるアナウンスを打ち消すような、騒々しくやかましい地響きのような足音が聞こえ、驚き余って口を噤んだ。階段を降りているというより、まるで落ちているかのような早さに、ピリピリした殺気もいつの間にか消えている。


「待った待った待った! 今乗るから待って!!」


 扉が閉まるその刹那。身体をねじ込み車内に滑り込んできた1人の青年に、全員の視線が注がれた。

 癖のないオリーブ色の髪。切れ長の瞳と小さな泣き黒子。眼帯で隠された右眼を前髪で覆い、龍刺繍が入ったオーバーサイズの白シャツとカーゴパンツを着用していた。東に位置する、大陸の民族衣装に似ているが、この場においてその格好は目立ちすぎると、ノエル思う。


「あらら? 3人連れなんて珍しい」


 電車が動き出し男は少しよろけながら、なんの躊躇いもなくノエルの横に腰を下ろした。ノエルとリオは驚いたような表情を浮かべていたが、レイにいたっては興味なさげに青年の顔を一瞥している。


「僕の名前はリージン。君は?」

「リオ=クルスク……よろしく、お願いします?」

「こちらこそ!」


 情けないほど間の抜けた、締まりのない笑みを浮かべて、リージンはリオとレイに握手を求めた。ピクリとレイの頬が引き攣る。


「は?」

「まさか、こんな美人2人と出会えるなんて、僕はついてるなぁ。君の名前も教えてくれるかい?」

「……は?」


 どうやら彼は、レイの中性的な容姿を『女』と捉えたらしい。訝しげに眉をひそめるレイは、ノエルとリオ、2人から、好奇の視線を注がれる。


「外見で判断するな」

差し出された右手を握り返して、

「私の名はレイ。生物学的に男だ」

「……」


 彼の自己紹介を聞いたリージンは、途端レイから手を離し、両手でリオの手を握りしめた。野郎の手は触りたくもないという事か。


「失礼な奴だな」


 行き場をなくした手をぷらぷらさせながら、ボソッと呟くのを聞いて、あんたが言うなと内心思うノエルだった。

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