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007 -魔剣イブリース-

謁見の後、旅立つ四人とペリクレスは食堂へと移動し、改めて自己紹介と今後についてに話し合うことにした。



「アトラス、このカードを無くさないようにな。」


ペリクレスはアトラスに銀色に輝く金属のカードを手渡した。ギルドカードと同じような大きさのカードの表面には王家の紋章が刻み込まれており、うっすらと魔力を放っているようだ。



「君は初めて見るだろうが、このカードが君の身分を世界各地で保証してくれるものだ。銀行や冒険者ギルドに出向けば今回陛下にご用意頂いた予算を必要に応じて現金で引き出すことができる。いかにマジックバッグの容量がすごいかと言っても、予算を全て入れてしまっては、バッグを失くした時に取り返しがつかないからね。


もう他のみんなは陛下から受け取っているから、これは君のものだ。」



カードの裏面にはアトラスの名前が刻み込まれていた。おそらくこの名前とカードに封じされた魔力を照合して本人確認をするのだろう。無くさないように窮屈なジャケットの内ポケットに潜り込ませた。


ペリクレスが用事があると言って席を外すと、4人はお互いの顔をしっかりを見つめ合った。

アトラスは何から話して良いものか迷っていたのだが、最初に口火を切ったのは大賢者カシウスだった。


「さて、まずは改めて私の自己紹介をさせていただきましょう。カシウスと申します。姓は事情がありまして名乗っておりませんので、単にカシウスと呼んで頂ければ結構です。」


長い耳をピクピクと動かしてからニコリと笑って続けた。


「この耳を見てわかるかと思いますが、私にはエルフの血が入っています。母がエルフで、父が人間ですのでハーフエルフということになりましょうか。嬉しいことに若く見られるのですが、歳は100を超えていますので、おそらくはこのメンバーでは最年長となるでしょう。恥ずかしながら大賢者と言われておりますが、ハーフエルフとしてはそんなに歳ではないですし、偉いわけではありませんので、気楽に接して頂けると嬉しいですね。」


偉ぶったところもなく、非常に知的で優しい雰囲気のする人だとアトラスは感じた。



「次は私からいこうか。父上より話があったように、皇位継承権第1位のアウレリアスだ。幼い頃に鉄壁の加護があることが分かって以来、皇子としての立場よりも騎士団での戦に出向く日々だった。正直政治よりも戦いの方が性に合っているのだが、父もそれを分かって送り出してくれたのだろうと思う。


 私の鉄壁の加護は、魔力が続く限りあらゆる物理攻撃や魔法攻撃を無力化する最強の盾だ。このパーティーであれば勇者二人は前線で切り込んでいくのかもしれんが、カシウス殿は私の後ろで備えて頂き、後方から魔法攻撃をして頂くというのが良いのではないかと思う。もちろん体制を立て直す時は、全力で皆の盾となろう。安心して任せてもらいたい。」



自信に満ち溢れ真っ直ぐとした目を向けながら話す様子は、やはり皇族としての場馴れした雰囲気を感じさせてくれる。



「俺は今代の最初の勇者サイラスだ。元々勇者って性格でもねえし、どちらかというと完全に戦士タイプだと思ってる。魔法は苦手だが身体能力は誰にも負ける気はしねえ。そこのカシウスの爺さんほどじゃないが、こんな見た目でも一応50は超えてるからな。敬ってくれよ。」


アトラスは驚いた。ハーフエルフのカシウスは20代そこそこにしか見えないが、それは種族の違いが大きい。だがサイラスは同じ人間にも関わらず50歳過ぎには見えず、せいぜい30歳前後の青年としか思えなかった。


「サイラスさんは僕の父と同じぐらいの年齢なのですが・・・とても同世代には見えません。それどころか義兄と変わらないぐらいに感じます。」



「さっきも言ったが魔法が苦手でね、生まれ持った魔力は全部体に使っているんだが、それのおかげかあまり老けないんだよな。流石にカシウス爺さんには負けるがな。」


「爺さん・・・」


サイラスから急に年寄り呼ばわりされてカシウスは困惑していた。普段、そのように言われることはないのだろう。


「えっと、最後は僕だね。僕はアトラス。正直勇者だと言うのはさっき知ったばかりだし、まだ実感が湧いているわけではないけど、それが何か自分が世界の役に立つということだったら、喜んで力を振るいたいと思っています。


 でもサイラスさんとは全く違うタイプで、僕はあまり苦手なことはありません。代わりにこれが一番得意というものがあるわけでもないけど、魔法から剣術まで一通りこなせるつもりです。なのでアタッカーのサイラスさんをアシストしながら戦えると僕の良いところを活かせるのかもしれません。」


「・・・歳は18と言ってたっけな?」


サイラスに聞かれると、アトラスは静かに頷いた。


「俺が勇者だと分かったのは実は生まれてすぐでな。出産に立ち会った神官がすぐに調べて分かったそうだ。だから俺はお前と違ってずっと勇者としての生き方というのを周囲から押し付けられて生きてきた。それでも魔法がうまく使えなくて、当代の勇者は落ちこぼれだ!なんて言う奴らもいやがって面倒くせえなと思っていたんだが、そんな偉そうことを言ってくる奴らの中で、一人も俺より強かったやつは居なくてな、師匠みたいな先生もいなかったから基本的に全部我流でよ、それですっかり魔法を覚える機会を失ったってわけさ。」


「我流でずっと戦ってきたのですか?!」


勇者という立場の人間は、みな大切に扱われてしっかり教育されると思っていたものだったので、アトラスは驚いてしまった。


「まあ俺より弱いやつから学びたいとも思わなかったけどな。」


サイラスはケラケラと笑って続けた。


「それでもお前みたいに何でもできる勇者像に憧れた時期もなかったわけじゃない。ただ俺は不器用だったんだ。


 お前は同じ勇者と言っても、既に俺に無いものを持っている。だから俺が見せてやれるのは力押しでの戦い方ぐらいだが、若いうちに学べるものがあったら遠慮なく吸収しろ。歳食ったらなかなかスタイルを変えるってのも難しくなっちまうからよ。」


この人は乱暴な言葉遣いではあるけど、気遣ってくれているのだとわかるとアトラスは同じ勇者として心強さを感じた。


「僕もいきなり勇者だと言われて、なんだか急に一人になってしまったような気分だったんです。サイラスさんにそう言ってもらえると、スタイルは全く違っても、同じ勇者の先輩がいることで心強く思います。」


サイラスはニヤリと笑って、アトラスの頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫でた。


「長い付き合いになるかもしれねえからな。よろしく頼むぜ。」


そう言って席を立って何処かへ言ってしまった。




「なかなか自由な人ですね。サイラスさんは。」


呆れたように、でも少し羨ましそうにカシウスは呟いた。



「それでも勇者としての実績は偽り無いものだ。私も共に戦う以上は、遅れを取るまいという気持ちが湧き上がってくる。」


アウレリアスは拳を握りしめ、自らを奮い立たせるように言った。



(僕はこの中で最も若くて経験も少ない。最初から上手くやっていけるだろうか・・・彼らを失望させないように頑張らないと・・・。)


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翌日、四人は宝物庫に集まり、旅立ちに向けて使えるものはないかと見て回っていた。

アトラスはまだ自分の戦闘スタイルが確立出来ていないだけに、決まった武器というものはなく、沢山の神話級の素晴らしい武具を目にしても、何を手にとって良いのかどうも分からないままだった。


(きっと速度と手数を活かした装備の方が良いのかもしれない)


そう思ったアトラスは、ふと目に止まった刀身が紫色に怪しく輝く短剣を手にした。


(なんだろう。これからものすごい強い魔力を感じる。)



「そちらは先々代の魔王が護身用に携えていた短剣で、切りつけた相手から魔力を吸い取り、装備者の魔力を増大させる効果があります。」


宝物庫を案内していた執事のセバスチャンが説明を始めた。


「魔力を多量に使う魔法使いに向いていると思われる武器なのですが、そもそも魔法使いが敵に斬りつけるということが現実的ではなく、かと魔法剣士が使うには短すぎてメインウェポンとならず、どうも使い所が見いだせないまま、長らく保管されているものになります。」


(ひょっとしてそれは凄く僕向きなのでは・・・)


「アトラスさんは身体能力も高く、アタッカーから魔法を使ったサポートまでされるとのこと。かなり相性の良い武器なのではないですか?」


セバスチャンの説明を来てカシウスが話に割り込んできた。


「・・・はい、僕もそう思います。僕なら失っていく魔力を補充しながら戦えるかもしれません。」


怪しく光る短剣を光にかざし、眺めるアトラスにセバスチャンは声をかけた。


「ずっとここでホコリを被っていたところをアトラス様に見つけてもらったわけですから、こころなしか喜んでいるようにも見えますな。」


そう言われると不思議なことに、確かに短剣が主を見つけて喜んでいるように思えた。




「この短剣に名前はあるのですか?」


「所有していた魔王の名を取って、魔剣イブリースと呼ばれております。」



「イブリース・・・。決めた。僕はこれにする。」


セバスチャンはニコリと笑った。


「アトラス様、他には防具などはいかがですかな?」



「悩むけど僕は魔力で障壁を作るから、極力身軽な方がいいかな。普段の格好でいいよ。」


「それでしたら、せめてこちらをお持ちください。」


セバスチャンは銀色に輝く魔石がはめ込まれた腕輪をアトラスに手渡した。


「これは?」


「神話の時代から受け継がれてきたと言われております。神々をも封じ込めると言われる魔石をはめ込んでおりまして、膨大な魔力をこの中に封じ込めることができます。つまり事前に準備さえしておけば、魔力切れなどの際に魔力を開放することで危機から立て直すことができるものです。」


「これも僕にピッタリの腕輪だね。ありがとう、セバスチャン。」


セバスチャンは無事に仕事が出来たと満足そうな笑顔で深くお辞儀をした。



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「何か良い武具は見つかったかい?」


王城から発着場へと向かう馬車の中で、ワクワクとした様子のアトラスを見てペリクレスは尋ねた。


「うん、切りつけた相手の魔力を吸い取る魔剣と、魔力をストックしておける腕輪を。どちらも僕の戦い方には合っていると思う。」


往路と同様に馬車での送迎を担当しているクラウディアは、変わった紫色の刀身を持つ魔剣を興味深そうにジロジロと見つめた。


「私は世界中の様々な刀剣を見てきたと自負しているつもりですが、このような刀身を持つ剣を見るのは初めてですね。」


「僕も初めて見た。でもとても軽くて長さも短めだから扱いやすそうなんだ。上手く戦えば魔力切れを心配せずに戦い続けられるかなって。魔力で身体強化をかけっぱなしにしている僕にとっては、魔力切れは致命的だからね。」


改めて変わった色合いの魔剣を見つめていると、早く使ってみたい気持ちが沸き上がってきた。


「さあそろそろ着くぞ。」



馬車から降りると、発着場の高い壁の向こうにバルバトスの頭がぽっこりと飛び出していた。


「待ちくたびれたぞ。その顔は何か良いことでもあったのかな?勇者の坊や。」


「おじさん、もう話は聞いているんだね?正直色々あって楽しかったけど疲れちゃったよ。」


「ふむ。それなら詳しい話は帰ってからでも良いな。」


バルバトスはそう言うと姿勢を低くして背中に乗りやすくしてくれた。



「ペリクレス様、アトラス様、それではまたお会いできることを楽しみにしております。どうかお気をつけて。」


初めて会ったときのようにクラウディアは深くお辞儀をして二人を見送った。





「他の3名は旅立ちの準備をしてから、1週間後にラグーザへ来るそうだ。そこで改めて出発と聞いている。」


空の上でペレクレスは今後の予定を説明した。


「まずは隣国ターラントへ向かい、調査に立ち会って欲しいものがあるということだ。なんでも2ヶ月前に神々の時代の遺跡が発掘されたとのことで、調査団が派遣されたらしいのだが、見たことも無い魔物が溢れ出てきて手に負えないということらしい」


「なるほど。遺跡の魔物たちを退治するか、調査団に同行して守りながら調査を進めるという感じになるのかな。」


「おそらくはそうなるんじゃないかとは思うが、ターラントの冒険者ギルド経由の依頼を受けてのもので詳しいことはまだ分からない。現地で情報を確認するのが最初だろうね。」


ペリクレスから説明を受けて、アトラスは自分たちが旅立つということの実感が湧いてきた。




「ターラントまでは我が送って行こう。お主の仲間にも会ってみたいのでな。」


「おじさんありがとう。みんなが来たら紹介するよ。」


バルバトスからはアトラスの仲間を見定めてやろうという空気を感じさせた。




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「ペリクレス様、アトラス様、おかえりなさいませ。」


ラグーザを飛び立ったときのように従者たちが空の旅を終えたアトラスたちを出迎えた。


「滞りなく要件は済んだよ。詳しくは後ほど話をさせてもらうが、皆は問題なかっただろうか?」


「はい。ペリクレス様が居ても居なくても変わりませんでした。」





「お前たち・・・もう少しこう何と言うか・・・手心というか・・・。領主らしく扱ってくれたまえ・・・。」


相変わらずのやりとりを見て、ようやく日常が戻ってきたように感じたアトラスはどこかホッとしてしまった。






アトラスは自室に戻ると、急に疲れが押し寄せてきたのか、荷解きは程々にベッドに横になって、宝物庫から持ってきた魔剣の刀身を眺めていた。


(・・・なんて不思議な色をしているんだろう。魔力を吸い取るというけど、一体どんな仕組みで・・・?)




((そう悩まずとも使ってみればわかるだろう。))



突然頭に声が響いてきたように感じて、アトラスは驚き飛び上がった。



(え・・・今直接頭に響いてきたのか??)


アトラスは困惑したが、その後、再び声が聞こえることはなかった。



(何か秘密があるのかもしれない・・・。明日調べてみよう。)




疲労も限界だったので、一旦考えを止めて眠りにつくことにした。


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