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005-空路で帝都へ-

空の旅

「アトラス、お前はこの鬼畜の義兄と違って真っ直ぐに育っておるな・・・。」


黒竜バルバトスはその大きな手で、アトラスの小さな頭を優しく撫でながら、昔を思い出したのかペリクレスをじろりと睨みつけた。


「さて、そろそろお喋りは終わりにして出発しようか。」


ペリクレスは腰に下げたドラゴンキラーをトントンと指で弾いてバルバトスにわざとらしく見せつけながら、満面の笑顔でアトラスにバルバトスの背中に飛び乗るように促した。アトラスはひらりと飛び上がり大きなバルバトスの背に取り付けられた鞍を掴み、待ち切れないといった表情で一番前の特等席に腰掛けた。


「おじさん、帝都までよろしくね!」


「うむ。任せておれ。半日とかかるまいが、途中幾度も降りるのは面倒でな、ちゃんとトイレは行ったか?忘れ物はないか?食事も持ったか?」


「君はまるでアトラスのパパかママのようだね。幼く見えるがこの子ももう大人だ。うるさく言わず見守ってあげなさい。」


いつのまにか乗り込んでいたペリクレスはからかうように言い放った。


「お前の毒っ気が、素直に育ってきたこの子に悪影響が無いか心配しておるのだ。お前こそ、もう少し領主らしくしたらどうなんだ?」


鼻息をフンッと鳴らして言い返したが、ペリクレスは素知らぬ顔で流したあと、キリッと表情を変えて館から見送りに来た従者たちに呼びかけた。


「皆、一週間も経たずに戻ってくるとは思うが、私の不在の間はマリアと協力しながら街を頼んだよ。」


「お任せください。日頃よりマリア様が立派に政務をこなしておりますので、何も問題はございません。」


タキシードに身を包んだ老齢のエルフの執事が自信満々にハキハキと答えた。


「フハハハ!お前は必要ないと言われておるぞペリクレス!実に滑稽だな!」


ほれ見ろといった表情で嬉しそうに後ろを振り返ろうとしたバルバトスだったが、背中にチクリと鋭い痛みを感じ、「ヒッ!」と声を上げた。


「バルバトス!余計なお喋りはここまでだ!出発!」


威勢の良いペリクレスの声が広場に響き渡ると同時に、ふわりと黒竜は地を離れた。一呼吸置いて急激に加速し空高く上がっていった。あっという間に従者たちは米粒のように小さくなり、館が、街がどんどんと遥か下へと押しやられていった。


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竜族が野生のドラゴン達と空を飛ぶということに関して大きく異なるのは、やはり魔力の使い方の巧みさにあり、空を飛ぶ間は風を受け流す魔力のバリアをまとい、空気抵抗をほぼ無くして驚異的な速度で飛ぶことができることにある。結果的に竜の背に乗る者達も風の影響を受けることなく、快適に空の旅を楽しむことができた。知能が高いグリフォンは同じことができるが速度に劣り、騎乗用として一般的なワイバーンは魔力のバリアを張ることができず、乗る人間には強靭な肉体を強いることになる。


つまり快適かつ最速の竜族の背に乗るということは、この世界において最も贅沢かつ速い移動手段となっており、竜族の背に乗ることを許された数少ない者達は、周囲から羨望の声で見られる。とりわけ早く快適な移動手段を追い求める商人にとっては夢のような存在だった。


通常、竜族が人を乗せて移動に使う巡航高度は5000m以上。これは魔力のバリアを扱える竜族に限定された高度であり、バリアを扱えない一般的なワイバーンなどは、人の負担を考え1000mを超える高さを飛ぶことは稀で、軍用を除けば、急上昇や急下降などの俊敏な動きも極力避けるように訓練されていた。また、魔石による浮遊効果を使った飛空艇も、その負担から巡航高度は3000mほどに抑えられているのが現状だった。


仮に巨大な竜族が高度100mを飛び回ったとしたら、地上の人々は大騒ぎになるだろうから、この巡航高度の違いはおおよそ国際協定として守られており、山脈を超える高さから地平線を望む眺めは、ほぼ竜族による飛行の独占と言っても良かった。


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「やっぱりこの眺めはおじさんの背中じゃないと味わえないね!この間ワイバーンに乗せてもらったんだけど遠くまで見えないし、揺れも風も強くて大変だったよ!」


「そうだろう!そうだろう!」


上機嫌でバルバトスは答えた。騎乗中に声を交わすことができるのも魔力のバリアのおかげであった。


帝都までの道中、途中で2か所の休憩を挟んだが、日が落ちる前に帝都上空までたどり着いた。


ドラヴァニア帝国の帝都は、2000m級の山に囲まれた盆地になっており、容易に敵の侵入を許さない天然の要塞となっていた。切り立った崖に作られた街道には、堅牢な関所が設けられ、陸路で帝都入りを目指す旅客たちは、関所前の宿場町で一休みしてから通過審査を受けることになっていた。宿場町には例外なく大きな酒場があり、温泉や娼婦街も併設されていることもあり、活気にあふれる場所となっていた。


空路で帝都入りする場合は、城下町の外れに設けられている発着場に降り立ってから身分や荷物のチェックがあり、全て通過してから街に入る許可を得ることができるようになっている。バルバトスは発着場上空でホバリングすると、慣れた様子で地上係員に合図をして降り立った。




「お待ちしておりました。ラグーザからお越しのバルバトス様ですね。今回ご一緒されているのはペリクレス様とアトラス様で間違いないでしょうか?」


「うむ、相違無い。それと・・・一応ペリクレスの奴が領主なものでな、われが代表のような聞かれ方をされるとヘソを曲げるかもしれんぞ。」


バルバトスが答えると、出迎えた人間の係員は、覗き込むようにして背に乗る二人に声をかけた。


「ペリクレス様、ヘソを曲げられましたか?」


「君も、この無礼な黒竜も、みんな私をどんな人間だと思っているのだい?」


「いえ、ただ陛下からバルバトス様が一番の常識人と伺っておりまして。」


「ぐっ・・・こいつは人ですらないのに・・・」


尊敬する義兄ではあるものの、確かに領主としての威厳が足りないことはアトラスも感じており、思った以上に周囲からポンコツ扱いされているのを見て、つい笑ってしまった。




荷物を下ろして手続きをしていると、白い甲冑に身を包んだ騎士が近づいて来た。


「ペリクレス・テオドルス殿、お待ちしておりました。陛下から許可が出ておりますのでこちらでの手続きは結構です。ここから王城までは馬車を用意しておりますので、ご案内をさせて頂きます。」


騎士が深く頭を下げて挨拶をする様子を見て、ペリクレスはいつもの満面の笑みを取り戻した。


「うむ。ご苦労である。」


ペリクレスは、"君たちは馬鹿にするが自らはこのように敬われる立場なのだ"と言いたげに周囲を見渡したが、アトラスは市街の地図を見るのに没頭していたし、バルバトスは係員と今宵の宿泊場所について話し合っており、誰もピンと背筋を伸ばし堂々としたペリクレスを見てはいなかった。


「ふむ、では我はこの大型竜向けの厩舎がある双龍亭に、こやつらは王城に宿泊し、皇帝への謁見は明日の午前10時からということでよいのだな。承知した。


おいペリクレス、この後の予定だが・・・ん?一体なんという顔をしておるのだ、お前は。辺境伯らしくビシッとせんか!」


バルバトスの声を聞いて思わず振り返ったアトラスは、しょぼくれて消えそうな表情になっているペリクレスを見て思わず吹き出してしまった。


ペリクレスはポンコツです

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