001 -さあ、世界を2つに割ってみようか-
世界が4度目の再興への道を進みだしてから、長い時間が過ぎた。
【大地を見下ろす天空要塞にて】
地平を埋め尽くす兵士達の波が迫ってくる。
上空には数千もの武装飛行船が、こちらを威嚇するように砲の口を向けている。
よくぞここまで多くの人間たちをまとめあげたものだと関心してしまうが、
その敵意が自らに向かっていることを考えれば、のんびり構えているわけにはいかない。
「王よ、人間たちが開戦の前に首脳だけで会談をしたいと・・・」
筋骨隆々のリザードマンが王に向かって人間たちからの使者からの伝言を読み上げると、
王は笑いをこらえきれずに吹き出してしまった。
「あー、まあそうだろうな。事実上、世界を2つに割った最終決戦の始まりだ。奴とは知らん仲でもないし、最後にゆっくり話し込むのも悪くないだろう。」
そう答える王の周りには、長い戦いを乗り越えてきたであろう強者の威圧感をまとった魔物たちが控えており、王の言葉を聞き、戦に早る気持ちを落ち着けようとしている様子がうかがえる。そんな恐ろしい魔物たちの中央で一際強い魔力を放っている人間が王だった。
背丈は2mを超え、常人では持ち上げることも叶わぬ大剣を、実に軽々と振り回してしまうほどの強靭な肉体を持っていた。ドラゴン相手にも力負けはせず、魔王の放った強力な魔法を片手で吹き飛ばしたこともある。そんな男がこの異様な集団を王としてまとめ上げていた。
「8つの王国と、3つの帝国が手を組んだ。報告によれば連合軍の兵力は1500万を超えるそうだ。歴史上これだけの大軍隊は存在し得なかったろうが、共通の敵がいるというのは、こうもいがみ合っていた国々の手を用意に取らせることになるのだな。」
嬉しそうに間者からの報告を読み上げる王の横で、先程のリザードマンが話を続ける。
「人間だけでなくドワーフやエルフなどの他の人族に加え、巨人族や天使たちも向こう側についたとか。」
「天使は分からんでもないが巨人族が人間側についたのはちょっと意外だったな。こちら側についた竜族に対抗してのことなのかね。奴らのライバル心は異常だからな。」
それを聞いたローブを羽織った背の低い竜人がコホンとわざとらしい咳をして場を和ませた。
「それでだ、こちらはほぼ全ての竜族や魔族に加え、元魔王軍を丸ごと抱え込んでいる。この天空要塞も我らの手中にあり、機動力に長けた竜族もいる。やつらの貧弱な航空戦艦相手であれば制空権を取るのは容易だ。」
王は戦場付近の地図を勢いよく広げ、天井から出ているワイヤーに吊るした。
「我々の兵力数だけを言えば500万に満たないが、1個体あたりの戦闘力はこちらの方が上だ。突破力もあるのだから、面ではなく点で押し切れば要所要所は崩しきれるだろう。怖いのは後方からの魔道士たちによる砲撃だ。天使たちの加護によって人間達の魔法攻撃に対する耐性は向上しているだろうから、単純に遠距離砲撃の打ち合いになれば不利なのはこちらだ。」
南から迫りくる人間たちの本陣が設置されるであろう、平原の南側に指を指した。
「主戦力は平原の北から一気にここまで切り崩す。両翼から囲まれることが想定されるが、そこは制空権をいち早く竜族が取って爆撃を加えて牽制してくれ。」
王はそこまで言うと周囲を見渡し、大きな羊のような角を持つ若い魔族に話しかけた。
「バアル。このあたりの軍の指揮はお前のほうが得意だろう。お前に一切を任せる。盛大に打ち破ってやれ。」
バアルは軽く頷くと王に向かって問いかけた。
「それは承ったが・・・して王よ。あなた自身はどのように?」
「俺は一人で大暴れさせてもらう。巻き添えになるから誰も着いてくるんじゃねえぞ?」
天を仰いでため息を着いたバアルは、目を閉じて諦めの表情を見せた。
「またですか・・・。じゃあ勇者とその一味はお一人で討ち取ってください。」
「おー、任せろ。皆殺しにしてやる。」
嬉しそうに返事をすると、王はその場にはいない竜族の長に思念を送った。
「レア、聞こえていたな?お前に空のことは任せる。人間どもに空を飛ばさせるな。お前たちで空を埋め尽くしてやれ。」
「任せるがいい。あんな空飛ぶ船や天使どもには遅れはとらん。お主は好きに暴れてくるとよかろう、いつも通りにな。」
どこか優しく温かく見守るような声が返ってきた。
「さあ、お前ら。泣いても笑っても最後だ。正直、お前たちがここまで着いてきてくれるとは思っていなかったが・・・まあ俺の人徳だろな。そうだろう?」
皆が苦笑いで答えに窮している様子をみると、満足そうに王は続けた。
「とにかく俺達の生存がかかった戦いだ。この世界で生きていくにはこの戦いに勝つしかねえ。俺達の力で世界を蹂躙してやろうぜ!」
魔物たちは王の言葉に答えるように雄叫びを上げ、戦いに備えるために持ち場へと戻っていった。
「さてと、行くか。」
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【会戦前の会談】
戦場となる平原の中央に設けられた簡易のテントが両首脳の会談の場となった。
人類側からは、世界最大の版図を持つドラヴァニア帝国の皇帝アウレリアスと、神聖王国を復興させた教皇カシウス、そして人類最強の男として名高い、今代の勇者アトラス。
対する陣営からは、その身ひとつで竜族や魔王軍をまとめあげ、勇者アトラスと対等に刃を交えることのできる覇王サイラス。と、その秘書である名もなきサキュバスが一同に介していた。
「あ・・・あの・・・本当に私で良かったんでしょうか・・・、レア様とかの方が・・・」
この世界の有力者が一同に介した場の圧力に触れて、夢なら冷めてほしいと頭を抱えたサキュバスは嘆いた。
「いやいいんだ。どうせ誰が来ても俺が勝手に喋っちまうし、口も出させるつもりもないしな。」
からかい気味に怯えるサキュバスに嬉しそうに語りかけるサイラスを見て、勇者アトラスは口を開いた。
「あんまり部下をいじめるのは良くないよ、サイラス。君は相変わらずだね。」
中背中肉だがガッチリとした体格にサラサラと美しい金髪をなびかせ、アトラスは呆れたように言った。黒髪で褐色の肌を持つサイラスとは全く別のタイプの戦士であったが、その所作一つ一つから洗練された強さを感じ取ることができた。
「お前も相変わらずナヨナヨした女みたいな顔してるな。もっと肉を食えよ、アトラス。」
「これでも前よりはしっかり食べるようになってるんだよ。それに魔力で筋力を補うから問題ない。」
ふてくされるように答えるアトラスを見て、サキュバスは目を丸くしていた。
(な・・・なんなんでしょうか・・・この空気は・・・・)
「お二人とも、世間話はそのぐらいにしておきませんか?そのサキュバスを御覧なさい。困惑しておられます。」
混乱するサキュバスを見て哀れに思ったのか、教皇カシウスが二人に声をかけた。
「場違いだと思ってしまっただろう?可哀想にな、サイラスの部下になるとは・・・」
憐れむように皇帝アウレリアスはガチャガチャ音を立てて、白く輝く鎧を脱ぎながら語りかけた。
「あ・・・あの・・・みなさん非常にリラックスされているようなのですが・・・どのようなお関係で・・・」
恐る恐る問いかけるサキュバスに、ハキハキとアトラスが答えた。
「僕たちは元パーティーだったんだ。賢者カシウス、鉄壁のアウレリアス、勇者アトラスが僕。そして、二人目の勇者サイラス。この4人で世界を旅していたんだよ。僕はオールラウンダー、サイラスは切り込み役。面白いでしょ?同じ時代に勇者が二人なんて歴史上初めてらしいんだ!」
空いた口が塞がらない名もなきサキュバスは、4人の顔をキョロキョロと見回し、ため息をついてからメガネをクイッと持ち上げて下を向いた。
(か・・・帰りたい・・・)
いつの時代も秘書は苦労するものよ