第54話 薄幸少女サリナ
「うううう、稼ぎがぱぁっすよ……」
サリナは泣きながらとぼとぼと歩いている。
それというのも、先程壁を破壊したせいで、弁償金が発生してしまい、今回のバイト代が帳消しになってしまったのだ。
「完全に自業自得だろうが」
無理に張り合おうとしなければ問題なかった。もっとも、挑発したおれにも少しは原因があるので可哀想だとは思うのだが……。
「ところで、一体どこまでついてくるつもりなんだよ?」
あれから、俺は現場監督から依頼料を受け取った。
ブロック運びと石材の精製のダブル収入となったので、懐具合は相当に暖かい。
「ああ。今日の食事代も、泊る場所もないっす」
あとはアリサの下に戻って今日の報告とイチャイチャタイムを楽しむだけなのだが、先程から後ろで露骨にアピールしてくるサリナが鬱陶しい。
「無一文とか、一体どういう金の使い方してるんだ?」
無視し続けても延々ついてきそうだったので、俺は仕方なくサリナに声を掛けた。
「違うんす! 昨日の夜までは結構まとまった金貨があったんす!」
「なら、その身分証に入ってるんじゃないのか?」
中には身分証払いができる魔導具を扱ってない店もあるので、多少の小銭は持ち歩く必要はあるが、基本的に大金はしかるべき施設で身分証にチャージするようにしている。
「それが、昨日、原因不明の竜巻に巻き込まれて服がボロボロになったんすよ。それで気が付けば財布を落としてしまったみたいで……。せっかく、レアなモンスターを討伐して報酬を得て美味しいものを食べようと思ってたっすのに……」
つまり、浮かれた拍子にチャージするのを忘れてしまい、現金を落としたということらしい。
「慌ててもと来た道を探したけど見つからなかったっす」
「そりゃそうだろうな……」
金貨が入った袋なんて落ちてたら、余程のことがなければ戻ってこない。現実世界と違い、法の整備が甘いので、たとえ兵士に渡したとしても着服されるのが関の山。
拾った人間が届けても持ち主の手に戻る可能性はゼロだ。
「それで、冒険者ギルドに行って泣き付いたらこの仕事を紹介してもらったんす。給料をもらえなかったら、今晩も野宿なんすよおおおおお!!」
今晩もということは、昨晩も外で寝たのだろう。
「……ちなみに食事は?」
「当然、昨日から何も食ってないっすよ!!!」
それは流石に可哀想だ。というか、サリナは昨日から何も食ってないのにあの怪力で働いていたというのか?
もしかすると、こいつ、とんでもない実力を秘めているのではないか?
――グオオオオオオオオオオオン――
「何事!?」
不気味な鳴動がなり、俺は警戒心を強める。
「今のは私の腹の音っす!」
お腹を擦り、弱った表情を浮かべるサリナ。黒髪黒目ということもあってか、現実世界での日本人を思い出してしまい、どうにも放っておけなくなる。
「はぁ、仕方ない。今日は結構稼いだから飯くらい奢ってやるよ」
「本当っすか! いくらでも食べていいっすか?」
「お、おう……。中々ずうずうしい奴だな」
この手のタイプはまず間違いなく良く食う。
具体的には、天下一武闘会で優勝賞金全額を一人で食いつくすくらいには……。
だが、たとえ今日の稼ぎが吹き飛んでも俺には関係ない。アリサからもらってる小遣いは相当な金額なので、これまで食べ尽くすとなるとそれはもう人間ではない何かということになる。
「ありがとうっす! コウはいい奴っす!」
急に懐き始めたサリナ。縋り付いてきているのだが、まるで犬のようだ。ツーサイドが尻尾の様に揺れている。
俺はサリナをともなうと、近くの酒場へと向かうのだった。




