第53話 勝負の行方
「はぁはぁはぁ」
「はぁはぁはぁ」
空が青く雲が流れ、爽やかな風が髪を揺らす。
現在俺は、体力を使い果たし仰向けに倒れているところで、久々に全力を出したことに満足している。
「ううう、まさか私と張り合える男がいるとは思わなかったす」
隣では、先程の少女が同じく倒れて空を仰いでいる。彼女が呼吸をするたび、胸がプルプルと震えるのだが、俺にはアリサがいるのでそういう視線を向けるのはまずいと判断し、目を逸らしておく。
「結果は、コウが120点、サリナも120点の同点とする!」
そんなことをしていると、現場監督が俺と彼女が運んだブロックの数を告げてきた。いまさらだが、俺は競い合っていた少女の名前がサリナだと知った。
「むむむむっ! 同点っすか! 納得いかないっす!」
体力が回復したのか、サリナは身体を反らし、バネのように立ち上がると現場監督に抗議した。
「どうみても、あのひょろい男より、私の方が貢献したっすよ!」
その言葉に苛立つ。
確かにここの作業員に比べると筋肉質ではないが、女の子に「貧弱」認定されると傷つく。
俺は身体をふらつかせながらも立ち上がると、
「いや、俺の方が役に立ちますよ」
サリナの横から口を挟み、現場監督に主張した。
「はぁぁぁぁぁぁぁ! あんたバテバテでしょうがあああああ! 私はまだ余裕があるっすよおおおおお!」
大和撫子で完璧なプロポーションを持っているサリナだが、口を開くとこの上なくウザイ。
本来なら女性に優しくする俺だが、サリナにだけは気を遣う必要がないのではないかと思ってしまった。
このまま口論を続けると、相手と同じ土俵に立ってしまう。もっと、目に見える形でやり込める方法はないか……?
ふと、俺はブロックを運び終えて空き地になっている場所に目を向けると、良いアイデアを考え付いた。
「皆さん、ちょっと離れてもらえますか?」
俺の言葉に、現場監督も、作業員の男たちもその場から退く。
「まだ話はついてないっすよ! 何をするつもりっすか?」
サリナが顔を近付け威嚇してくる。とりあえず無視だ。
元々この仕事をしにこの場に来たのでちょうどいい。
俺は手を前に突き出すと、
「岩塊よ! 集え!」
――ズンッ――
「「「「「なあっ!?」」」」」
現場監督とサリナ、他の作業員が声を上げる。
空き地にブロック大よりも大きな岩塊が作り出されたからだ。
「元々俺はこっちの仕事で呼ばれたんだよ。魔導師相手にイキがって恥ずかしくないのか?」
口元に手を当て「ぷぷぷ」と笑ってみせる。
本職ですらない相手に力比べで互角となると、流石に何も言えないだろう。
サリナはプルプルと身体を震わせる。余程悔しかったのか?
俺が顔を覗き込もうとすると……。
「ムキーーーーッ! ちょっとこっちが優しくしていたら調子にのるなっす! さっきまでのは本気じゃないっすからねっ!」
サリナは怒りに身を任せ突進していくと、俺が作り出した岩塊に抱き着く。
一体、何をするつもりなのだろうか?
「本当はお腹が減るからここまでやるつもりはなかったっすけど、あの男に言いたい放題言われるのは我慢ならないっす!」
彼女の身体が輝く。アリサが身体強化を使う時にも淡く光るのだが、これは明らかにそれ以上の……。
「ぬわあああああああああああああああああああああっ!」
サリナは岩塊に指を食い込ませると、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「まさかっ! あれを持ち上げるつもりなのか?」
「あの大きさなら20ブロックはとれるはずだぞ!」
つまり1600キロ以上。普通に考えれば持ちあがるはずがない。
「私はああああああああ、男に負けるのがあああああああああ。嫌なんすよおおおおおおおおおお!」
ところが、徐々に岩塊が持ち上がって行く。
「嘘だろ!?」
この重量を持ち上げるのは今の俺では無理だ。一体彼女は何者なのだろう?
「へ、へへへへ。見たっすか!」
後ろを振り返り俺の表情を窺うサリナ。その笑顔だけ見ればとても魅力的で、とてもこのような怪力をもっているとは思えない。
「もういいから、岩をおろせ!」
現場監督が焦って叫ぶ。というのも、サリナの身体がフラフラし始めたからだ。
「あれ……あれれ……?」
彼女は目を回すと、
「駄目っす! もう、力がのこってな……い……」
――ズトンッ――
「「「「あっ!」」」」
次の瞬間、折角建てていた壁の一部に岩が倒れ、その場を破壊した。




