第19話 犯人は目の前にいた!
「んーでも、貴族に命狙われるのもなー」
モンスターは力でねじ伏せればよいが、人間社会は暴力で解決できないことが多いので面倒くさい。
「私が守ってあげるから」
アリサはそう言うと俺に優しい目を向けてきた。
「それに、その貴族とは無関係でもないしね」
意外だ、ヘンイタ男爵と知り合いとは。もしかして……。
「言っとくけど何もされてませんからね?」
アリサは俺が何を感がているのか見抜いたらしい。もし俺があの変態貴族なら絶対にアリサに手を出す。これ程の美少女を前にあの芋男爵が我慢できるはずがない。
その辺が気になったのだが、
「私も痛烈に反撃したの。そのせいで官職に追いやられたんだけどね」
自分の境遇について触れる。あいつの誘いを断ったせいで仕事を奪われたらしい。
「それでも、戻るのちょっと待ってほしい」
「何でよ?」
彼女は首を傾げた。
「荷物が結構あるんだよ」
この周辺で生活するようになってから数週間。倒したモンスターの肉を干したり、解体したアイテムを洞窟に保管してある。
その量はかなりのもので、運ぶ準備をしないととてもではないが戻ることが出来なかった。
俺が事情を説明すると、
「ふーん、素材なら私が空間魔法で運んであげるわよ?」
「おおっ!アリサは魔法が使えるのか?」
初めて魔法が見られそうでドキドキする。
「一応言っておくけど私、天才なんだけど?」
自信満々にそう答える。彼女は過剰に見栄を張るタイプではないので本当にそうなのだろう。
「なら、安心だな」
今後の段取りを決めると、次の肉が焼けたので食べる。
「ねえ……」
「ん?」
「遠くからわざわざ探しにきた女の子に差し入れもないわけ?」
恨みがましそうな視線を俺に送ってきた。
「でも、毒があったら死ぬんじゃないか?」
俺はエリクサーで中和しているが、一般人においそれと勧めるわけにはいかない。
「デッドリースパイダーは確かに即死級の毒があるけど、ドラゴンもフェニックスも超超高級食材よ。食べられるわよ」
それは良い情報だった。
「ならどうぞ」
俺はアリサに串焼きを勧める。
「ありがと」
アリサは串を受け取ると、機嫌良く肉にかぶりついた。
「ん。美味しいわね」
フェニックスの肉を咀嚼して口元に手を当てる。上品な仕草だ。
「そうだ、これも飲むか?」
「俺はアリサにエリクサーが入った瓶を差し出した」
「ん。美味しいわねこの水。錬金術に使えるレベルの純度よ!」
それどころか錬金術の完成形であるエリクサーなんだけどな。
だが、見たところ特に変化はなさそうだ。やはり俺にしか効果がないらしい
「それにしても、やっぱりこの肉は別格ね。力が湧いてくるわ」
「それはどう言う意味だ?」
俺はアリサに質問した。
「強力なモンスターの血肉は体を強化してくれるのよ。食べすぎるとその反動で倒れたりもするけどね」
「なるほど、そう言うことか」
「あの日毒でないのに倒れたのには理由があった。起きてから身体が軽かったのにも納得がいく」
「それにしてもあれだけ魔導剣を使えるなら魔力もあるのよね? あなた魔導師になればいいのに」
アリサは串を指で弄ると、先程の俺の戦闘を思い出しそんなことを言った。
「それが、学校に通う機会がなくて……」
保有魔力がそこまで多くないことを彼女に告げるのは気が引ける。
俺も訓練で魔力保有量が増えたのは間違いないが、現役の魔導師ともなれば相当凄い容量があってもおかしくない。
「それなら、私が教えて……、うん。時間もあるし良いアイデアかも? 貴族への強力な手札にもなるし」
彼女がなにやらブツブツ言っている。俺は苦い記憶をアリサに話した。
「それに錬金術ギルドのへんな魔導具に魔力を吸われて力尽きる程度だし全然ダメだろう」
魔導具を起動してしまい、危うく気絶仕掛けたのだ。本職の魔導師ならそうはならなかったのだろう。
俺が思い出し笑いを浮かべていると……。
「それ、アンタ。今から1ヶ月半前のこと?」
「そうだぞ。最後には虹色に輝いてたけど、綺麗だったな」
当時の光景を思い出すとウンウンと頷く。
すると、アリサは肩を震わせたかと思えば両手で俺を逃がさないとばかりに掴み……。
「あんたかああああああああああああああっ!」
涙目で叫び声を上げるのだった。




