ここ、僕の家の風呂ですよ!?
2035年7月28日午後4時35分。日本は、茨城県沖を震源とするマグニチュード8.9の大地震に襲われた。
(めちゃくちゃでかい地震だったな)
とりあえず情報が欲しいと思って、テレビを観ようとしたけど電源がつかない。停電だ。
スマホで情報収集するにもニュースサイトも重い。メールも繋がらない。まあ、あれだけの揺れだったんだ。みんな一斉にアクセスしてるんだろう。それに、それなりに被害は出ているだろうしな。
何度かニュースサイトアクセスしていたら何とか繋がった。なるほど。関東から東北にかけて震度7や6強が並んでる。僕のところは震度7だ。少し陸地から離れているのに、僕の住んでいる地域の震度が大きい。海沿いは大きな津波の心配はなさそうだけど、注意報が出ているから心配だ。
それにしても相変わらず、メールは繋がらない。親も心配しているだろうから連絡したいけど仕方がない。
さて、情報収集はこの辺で、家の中はメチャクチャだ。とは言っても独り暮らしだし、たいして物が多いわけではない。水も出ないけど、草むしり後の汗を流そうと風呂を沸かしていたのはラッキーだ。とりあえずサクッと片付けて風呂にでも入ろう。
僕は、二宮朱音17歳。高校2年生をやっている。朱音という名前から、女子に間違われるけど、れっきとした男だ。両親は、僕が3歳の時に父親が他界して母に育ててもらっている。その母は、バリバリのキャリアウーマンでロサンゼルスに単身赴任中だ。
(結局2時間も片付けにかかってしまった・・・)
せっかくの風呂がぬるくなってしまったけど、風呂に入った後に片付けて汗をかくわけにはいかない。それに、汗をかいた後の風呂は格別!日本人に生まれてよかったと思うひと時だ。
(おっと、まだ少し明るいけど、一応電池式のランタンを用意していこう)
これで準備は万端だ。こういう時こそ慌ててはいけない。今自分にできることを、日常生活を邁進するのみ!
風呂場に入り、桶に湯をすくい、ゆっくりと己にかけ体を洗い汗を流す。さっぱりする。最高だ。
街は、消防車や救急車、パトカーのサイレンが忙しなくこだまする。しかし、僕は、このひと時を噛みしめるのだ!
そして、とうとうこの時がきた。湯船に浸かる時が!
ゆっくりと右足の爪先から湯に入る。
「あああ〜〜〜・・・生き返る・・・」
最高だ。この瞬間は、今の現状を忘れさせてくれる最高のひと時だ。
そして、湯をひと通り楽しみ、現実に引き戻される。
「さて、これからどうしたものか」
とりあえず、カップ麺やヘットボトルのお茶や水は箱買いしてあるし何とかなるだろ。スマホの充電が心許ないから節約しないといけないな。
さてと、10分くらいゆっくりしただろうか。風呂から出て、現実を直視しに行きますかね。家の周りというか近所の様子でも見て来るかな。
と思った時、また地震だ。結構大きい。余震かな。でも直ぐにおさまった。今のうちに風呂から出ておこう。
湯船からゆっくりと右足から出た時だった。バスルームのドアが開いた。
「え?」
「は?」
あれ?僕はお風呂で寝ちゃったのかな?
目の前に、同い年ぐらいの金髪の女性が立っている。真っ裸で。
あとあと考えたが、この瞬間はほんの1、2秒だったに違いない。しかし、僕には何十秒にも思える長い時に感じられ、この状況を理解しようと、ものすごい速さで脳が活動していた。
ビシャッ!
ドアが閉められた。僕は固まってしまって動けなかったが、目の前に起こった出来事を整理しようとしていた。
深い青い瞳をした金髪の超絶美少女は真っ裸で立っていた。子の記憶であっているか。いや、合っているに違いない。鮮明に脳裏に焼き付けられている。あの、大きく整ったふくよかな胸が!
あ、いかん。少し元気になってきてしまった。
ガラガラ・・・
またゆっくりとドアが開いた。
また、あの子だ!しかもなんで真っ裸なの!?人の家で?
「あ、あんた・・・なんで家にいるのよ・・・」
彼女が話しかけてきた。
「は?ここは僕の家だけど!?」
「そんなわけないじゃない!ここは私の家よ!」
この子は何を言ってるんだ!?
「よく見てよ!?この風呂は僕の家の風呂だ。君がいつも入っている風呂はこの風呂かい!?」
女性は何か気づいたように動揺している。
「そんなはずは・・・うちのお風呂じゃない・・・な、何で!?」
「ほ、ほら、わかってくれたか・・・」
「ご、ごめんなさい・・・間違えたようだわ・・・」
わかってくれればいい・・・こちらも余計な面倒ごとには巻き込まれたくない。裸見ちゃってるし。
「すみません!失礼します!」
女性は勢いよく出て行った。そして、勢いよく戻ってきた。
「てか、何であんたうちの屋敷に勝手にお風呂作ってるのよ!何なのあんた!」
はあ!?何言ってるんだよ!?
「いや、ここは僕の家ですよ!?」
この家は、じいちゃんが建てた家でもう築50年になる家だ。じいちゃんは庭いじりが好きで、風呂場から中庭に出れるようになっている。プライベートを守りつつ景色を見れるように工夫されている。
「ほら!この景色は紛れもなく我が家です!」
彼女に、外の景色を見せる。
「そ、そんなはずは・・・」
彼女は、驚いているが、何やら混乱しているようだ。
「でも、私の屋敷に繋がっているんだけど・・・」
え!?どゆこと!?とりあえず落ち着こう。
「と、とりあえず、一旦落ち着きましょう。このお風呂と外の風景は、僕の家の風景ということは理解していただけましたね?」
「は、はい・・・」
彼女は、息を呑みながら答えた。
「しかし、この風呂場を出ると、あなたの屋敷に繋がっていると?」
彼女は、コクリと頷いた。
「では、もう一度、僕と一緒に出てみましょう」
僕は、彼女と一緒に風呂場を出てみた。確かに、僕の知っている僕の家ではない!
「確かに、僕の家ではない・・・」
僕たちは困惑して、風呂場に戻った。
「どういう事なんだ・・・」
「どうなっているのよ・・・」
僕たちは少し考え込んでしまったが、僕はもう一つ気になっている事があったので聞いてみた。
「ひとつ、聞いてもいいですか?」
「な、何よ」
彼女は、何か警戒しているようだ。
「僕、さっきまでお風呂に入っていて、その、裸で少し恥ずかしんだけど、君は裸で恥ずかしくないの?」
彼女の顔が一瞬で真っ赤になり、慌てて座り込んだ。
「み、見た!?」
「え!あ、す、少し・・・いや、見てません!」
今起きている状況に驚きすぎて、裸なの忘れてたんだな。僕もそうだったけど。
僕は、慌てて風呂場を飛び出し、中庭を通って服を取りに部屋に戻った。