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負けたら恋人になるという条件で、皇太子と賭けをすることになりました(2/3)

 エドウィン様が固まった。呼吸はおろか、心臓を動かすことも忘れてしまったように見える。


 しばらくして「恋人……?」と小さな声で囁いた。


「クリスタ……。今、お、俺の……こい、こいびと……恋人、に、なる、って……?」


「もちろん、ただでとは言いませんよ」


 私は慌てて言い添える。もう一度同じ話を繰り返した。


「私との賭けに勝ったらの話です。ある女性を捜してください。……一ヶ月以内に」


 最後の条件は今思い付いて付け足した。エドウィン様のことだ。こうでも言っておかないと、百年経ったってまだ人捜しをやめないに違いないもの。


「その人を捜してくれたら、私のことはお好きになさって構いません。でも、見つからない時はエドウィン様の負けです。潔く私を諦めてもらいますからね」


「もちろんだ!」


 もっと色々なことを聞いてくるかと思ったのに、エドウィン様は私が話を終えるなり小躍りし始めた。


「やる! やってやろう! 一ヶ月? そんなにいるもんか! 愛の力があれば、三日で探し出せるさ! 待ってろ、某婦人ジェーン・ドゥ!」


 高らかに宣言した後、エドウィン様は私に向き直った。


「で、その人は誰なんだ?」

「これの差出人です」


 私は持っていた手紙をエドウィン様の前で軽く振った。


「名前は分かりませんけど、私は『レディー』と呼んでいます」


「謎の淑女、か。他に彼女について知っていることは?」


「そうですね……。歳は多分私よりも少し上。二十歳をちょっと過ぎたくらいだと思います。物静かでおっとりとしているけど、芯が強くて知的な人のはずですよ。それにきっとすごく美人で……」


「……ちょっと待て」


 片手を小さく挙げ、エドウィン様は私の話を遮った。


「『多分』とか『思う』とか『きっと』とか、さっきから君の話は推測ばかりだ。もう少し確かな情報はないのか?」


「確かな情報……?」


 私は困惑してしまう。


 それは、エドウィン様にレディーを見つけ出されたら困るからではなかった。


 実は私はレディーのことを何も知らないのだ。


「そんな正体不明の相手からの手紙を何の疑いもなく受け取っていたのか!?」


 私がレディーについて何の情報も持っていないと知るなり、エドウィン様は目を見開いた。


「危ない奴だったらどうするんだ!? 君をよくないことに巻き込もうとしているかもしれないんだぞ!?」


「レディーはそんなことしません」


 私はムッとなって言い返す。騙されやすいエドウィン様にお説教されるのは妙な気分だった。


「大体、彼女から手紙が届くようになってもう半年も経ってるんですよ? レディーが邪なことを考えているのなら、私はとっくにその毒牙にかかっているに違いありません」


「だが……」


「レディーが私に寄越すのは、いつだって優しい言葉です。勇気をくれたり励ましたり、慰めてくれたりするんです。その思いやりに私がどれだけ救われたか……。彼女から初めて手紙をもらった時期の私は、間違いなく人生どん底にいました。そこから立ち直れたのはレディーのお陰なんですよ」


「人生どん底だって?」


 エドウィン様は聞き捨てならないといった風な顔になる。


 私はうっかり口が滑ってしまったことに焦り、慌てて話を先に進めた。あの頃何があったのかなんて、口にしたくもなかった。


「とにかく、レディーは危険人物なんかじゃありません。私に危害を加えるような人じゃないんです。……それとも、危ない人の可能性があるからってエドウィン様はレディーを捜すのを諦めてしまいますか? そうなったら不戦敗でこの賭けはエドウィン様の負けですよ。私を恋人にすることはできません」


「……勝負を降りるとは言ってないだろ」


 エドウィン様はふてくされたような顔になった。ちょっと険しい声で続ける。


「レディーがどんな奴だろうと絶対に見つけてやる。危険な相手ならなおさらだ。淑女の化けの皮を剥いで尻尾を掴んでやるんだ! クリスタのことは俺が守ってやらないとな」


 ……あれ? もしかしてエドウィン様、私の身を案じてるっていうだけじゃなくて、レディーに対抗意識を燃やしてる? まさか、私とレディーの仲のよさに嫉妬してるのかしら?


 恋って厄介な感情だ。別に私たち、そういう関係じゃないのに。

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― 新着の感想 ―
[一言]  妬きますよ、やきもち。  自分との関係性とは違っても。  ぎゃくに、自分とは違う関係性をそのひとともっているってことだから。  妬きます!
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