負けたら恋人になるという条件で、皇太子と賭けをすることになりました(1/3)
「クリスタ、まだ手紙を読んでるのか?」
気ぜわしそうなノックの音がした。
「本当にラブレターじゃないんだよな? どうか違うと言ってくれ。君に俺以外の恋人ができるなんて、耐えられそうもないんだ!」
「あなたのことも恋人にする気はありませんよ……」
言いながら手紙を片手に外に出て、応接室へ向かう。自室で男性と二人きりになるのは嫌だったんだ。……私が仮病を使っていた時にエドウィン様を部屋に入れてしまったことはあったけど、あれはノーカウントってことにしておこう。
「分かっているのか、クリスタ。君はすごく綺麗なんだぞ」
私の後ろを歩きながら、エドウィン様が心配そうな声を出す。
「辺りを歩いていたら、男がホイホイ寄ってくるに決まってる。その麗しい奥二重の青い瞳に吸い寄せられ、腰の辺りで行儀よく切りそろえられた栗色の髪に魅せられ……」
「吸い寄せられる人も魅せられる人もいませんよ。いてたまるもんですか。もちろんエドウィン様だって……」
「……君が俺を嫌っているのは知ってる」
ふと悲しそうな声を出され、私は足を止める。
振り返ると、エドウィン様は床に視線を落として暗い顔をしていた。
「俺だってそんなことが分からないほど鈍くはない。でも……抑えられないんだ。どうしてか分からないけど、君に惹かれている。言い寄れば言い寄るほど嫌がられると理解しているのに、近くにいたくて仕方がない。君は何だか……不安定そうに見えるから。一旦離れてしまえば、取り返しがつかなくなるような……」
「エドウィン様……」
「それとも、俺がいるせいでそうなってしまったのか? でも、君を諦めたくないんだ。それでもどうしても去らないといけないのなら……それは、できうる限りのことをした結果でないといけない。……そうじゃないと、俺は完全には諦め切れない」
……ああ、何でそんなことを言うの?
私だって鬼じゃないんだから、彼の真摯な気持ちにちょっとだけほだされてしまいそうになっている。
というか本音を言ってしまえば、実はエドウィン様のことはそこまで嫌いじゃない。
もちろん恋愛感情は抱いていないけれど、友人としてなら今後も付き合っていきたいと思っていた。こんなにも私のことで思い悩んでくれていたと分かったからにはなおさらだ。
レディー以外でここまで私を気にかけてくれる人がいるということには、驚きつつも温かい感情を覚えずにはいられなかった。
しかも嬉しいことに、彼は自分の口から私を諦める可能性を示唆してくれた。だけど、「できうる限りのこと」って? どんなアプローチをされたって、私は彼になびくつもりなんてないのに……。
……いや。ちょっと待って。
「エドウィン様、私と賭けをしませんか?」
あることを閃いた私は慎重に切り出した。緊張のせいか、肩の辺りが少し強ばってくる。
「ある女性を捜してきて欲しいんです」
私は大きく息を吸い込む。この先の言葉を口に出してしまえば、二度と撤回はできないだろうという予感に、いやが上にも心拍数が上がっていく。
でも、虎穴に入らずんば何とやら、だ。危険を犯さないと望んだものは手に入らない。エドウィン様は「できうる限りのこと」をしようと言った。だったら、私だって同じくらいの全力を出さないといけない。
だって、そうしないとフェアじゃないから。ズルや不正みたいな、人を騙す行為は大嫌いだ。
「私はエドウィン様が彼女を見つけられない方に賭けましょう。でも、万が一私の予測が外れたら……。その時は、私はエドウィン様の恋人になります」