嘘と本当と希望と現実(2/4)
「エドウィン様は母が好きだったんですよ。私じゃなくて。私は……私はエドウィン様に好かれたかったのに」
初めて心の奥底に眠っていたエドウィン様への願いを口にした。溢れてくる涙を手の甲で拭う。
「一目惚れは信じないと決めていた。恋はしないと誓っていた。でも……エドウィン様を好きになってしまって……。どうして私ってこんなにバカなんでしょう? ほら見たことかって感じですよね。結局は失恋して……」
「そう決めつけるのは早いですよ。あなたは殿下の想い人が別人だったとお思いになっている。けれど、本当にそうですか?」
「そうですよ」
私は投げやりな口調で言った。
「母の日記を読みました。エドウィン様は母が大好きだったんです。ロナルト様なら分かるでしょう? 私と母がそっくりだということ。だから彼は私と母を重ね合わせたんです。そう指摘したら、エドウィン様は反論一つしませんでしたよ」
「けれど、肯定もしなかった」
ロナルト様がまるで見てきたように言う。
「クリスタさん、見かけ通りの人間などいないのですよ。誰にも見せたくない顔の一つや二つがあります。それらを全て『嘘』と批判して糾弾するのは、あまりに酷ではありませんか?」
「エドウィン様が私を騙そうとしていたわけじゃないことは分かっています」
私は言い訳めいた声を出す。
「でも……それでも……」
「裏切られたと感じているのなら、あなたがそれだけ殿下をお好きだったということですよ。……クリスタさん、そろそろ積極性を見せてはいかがですか?」
「え?」
「愛を得たいのなら、逃げたり待ったりしているだけではどうにもなりません。信じたいものを信じて、全力でそれを獲得しにいくのですよ。殿下はそうやって、見事にあなたからの愛を手に入れたでしょう。……ご本人は気付いていませんが」
ロナルト様の言葉に息を呑む。
私はあんなにエドウィン様を拒絶していた。でも、彼は諦めなかった。粘り強く私にアプローチし続けた結果がどうなったのかは、ロナルト様の言った通りだ。
――少し信じてあげてはいかがでしょう。
レディーの手紙の文言が蘇る。
そう、私は信じるべきだったんだ。エドウィン様の気持ちがどうこうと悩む前に、自分自身のことを。自分が持っている力を。私にだって恋を叶えられるということを。
「ずっとフラれ続けた人に言われても説得力がありませんけど」
自分を鼓舞するように軽口を叩いた。
「でも、まだ間に合いますよね?」
私はしっかりとした口調で尋ねた。
「手遅れじゃなんですね?」
「もちろんです」
ロナルト様が大きく頷く。私は大きく息を吐いて迷いを断ち切った。
「私、帝都に戻ります。そして、もう一度エドウィン様と話をしてみます」
私は自分の可能性を信じる。それに、エドウィン様が見せてくれた真心も。だとしたら、こんなところで腐っている場合ではなかった。




