賭けに決着がつきました(2/2)
「その……クリスタ」
早めに帰ることになったエドウィン様を玄関まで見送っていく。遠慮がちに話しかけてきた彼に、「どうしました?」と尋ねた。
「その……。賭けの話なんだが……」
「……それが何か?」
エドウィン様がこの話題を持ち出すだろうということは分かっていた。私が努めて何でもなさそうに聞くと、エドウィン様は目を泳がせる。
「君は今回の結果についてどう思っているんだ? つまり……ええと……」
「私がエドウィン様の恋人になることに関してですか?」
エドウィン様の頬にさっと朱が走る。あんなに好き好き言ってたのに、どうしたんだろう。もしかしてエドウィン様、いざとなったら緊張するタイプなのかしら?
「べ、別に無理はしなくていいんだぞ」
エドウィン様が声を上ずらせて言った。
「こういうのは、本人の自由な意思に任せるべきだと思うし……。俺は無理強いなんかしない。クリスタが俺のことを嫌っているのは分かってるから……」
「……嫌いじゃありませんよ」
もはや隠しておく意味もないから、正直に言った。
「それに私、約束を破るのは嫌なんです。人を騙すなんて、最低の行為だから」
「クリスタ……」
「だから私はエドウィン様の恋人になります。……大丈夫です。お父様がレディーの正体は自分だったと認めた時から、覚悟はできていました」
「そ、そうか……。君がそこまで言うのなら……」
エドウィン様は一生懸命に「仕方なく」な雰囲気を出そうとしているようだった。でも大失敗だ。表情にも声にも、嬉しさが隠し切れていない。
「じゃあ……その……」
エドウィン様は裏返った声で言った。
「だ、抱きしめてもいいか? こ、こい、恋人、として……」
「どうぞ」
私は前に進み出て、エドウィン様の逞しい体に頬を預ける。エドウィン様は錆びた機械のようにぎこちない動きで手を伸ばした。
彼の腕が私の背中に回される。まるで不器用な大男が壊れやすいガラス細工を扱う時みたいな、力加減を間違えまいと必死で自制しているような手つきだった。
「ああ……クリスタ……」
仕草は優しいのに、声には熱がこもっていて力強かった。その体から情熱がほとばしるのが見えるようだ。
「ずっと……こうなることを望んでいた……。初めて会った時から、ずっと……」
一方の私は、何も感じてはいけない、とひたすらに自分に言い聞かせていた。
これは賭けに負けた結果。エドウィン様を好きになったから恋人になったわけじゃない。
私は依然として、恋も愛も信じていないままなんだから、と。




