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傷心令嬢は、皇太子殿下の一目惚れを受け入れたくない  作者: 三羽高明


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27/45

賭けに決着がつきました(1/2)

 私とエドウィン様は、書斎でお父様と向きあって座っていた。


「話というのは何だ?」


 お父様から先に口を開く。私はエドウィン様に軽く目配せした。エドウィン様には、先ほどの発見や、それを元に私が推理したことをすでに伝えてある。


「これを見てください」


 レディーの手紙を机の上に広げる。お父様は慎重な動きでそれに触れ、紙面に目を落した。その表情からは何も読み取れない。


 それがいいことなのか悪いことなのかは分からなかったけど、私は息を大きく吸ってから次の言葉を口にした。


「この手紙を私にくれたのはお父様ですね?」


 緊張で声が震えていた。お父様は片眉を上げる。


「俺たちは、ずっとこの手紙を送ってきた人を捜していたんだ」


 私の呼吸が整うのを待つ間、エドウィン様が話を繋いでくれた。


「少し前からクリスタの元に届くようになった差出人不明の何通もの手紙。クリスタはそれをくれた人に『レディー』と名付けた。クリスタ曰く、レディーには随分励まされたらしい」


 レディーを褒めるようなことを言っているが、エドウィン様の口調に棘はない。レディーの正体がお父様だと判明して、嫉妬するような相手ではないと分かったからだろう。


「お父様は、私を元気づけようとしてくれたんですよね?」


 私が言った。


「不名誉な事件を引き起こしてしまったことで、私が落ち込んでいたと知っていたから。でも、私を一人前の令嬢に再教育するという宣言の手前、直接慰めの言葉はかけられなかった。だから、匿名の手紙をしたためたんです」


「あなたはこの手紙を書くに当たって、ある人物を装った」


 エドウィン様が続きを引き取る。


「それがクリスタの母親……あなたの元妻だ。あなたはクリスタが亡き母親に親しみを覚えているのを知っていたから、それを利用したんだろう」


 エドウィン様の話を聞きながら、私はレディーからの手紙に目を落とした。


「お父様は手紙の字をお母様に似せて、お母様の好きな香水を紙面に振りかけました。言葉遣いはお母様のものとは違うけれど……それは仕方ないですよね。お母様が言いそうなセリフで手紙を埋めたら、私に悪影響が出るかもしれないから」


「自分の母親がどんな性格なのか知っていたのか?」


 私たちが話を開始してから初めてお父様が口を開く。私は「少しだけ」と肩を竦めた。


「お母様は何というか、深窓の令嬢にはほど遠い人だったみたいですね。それで、手紙の話ですけど……」


 逸れかかっていた話を本題に戻す。


「もう一度聞きます。この手紙を送ってくれたのはお父様なんですよね?」


 私は肩を強ばらせながら答えを待った。隣に座っているエドウィン様の体の奥からも、心臓の音が聞こえてきそうな錯覚に陥る。


 永遠にも思える時が過ぎた後、お父様が言った。


「そうだ。私が手紙を送った」


 その言葉を聞いた瞬間に、体の力が抜けるのを感じた。


 終わった。全部終わったんだ。


 私たちはレディーを見つけ出した。十日の余日を残して。


「ああ……」


 隣から、エドウィン様のうめきにも似た声が聞こえてくる。彼もまた、体中の筋肉が弛緩してしまったようにぼんやりとした顔をしていた。


 ほんの数時間前までこんな展開になるだなんて思ってもみなかった。それどころか、一ヶ月以内にレディーを見つけるなんて不可能だろうとすら感じていた。


 でも、そうはならなかった。賭けはエドウィン様の勝ちだ。それは同時に、私がエドウィン様と交わした約束を守らないといけないということを意味する。


 これは私にとってはよくない結果のはずだ。それでも意外と落ち着いてこの状況を受け止められているのが不思議だった。


 深呼吸し、心の中で呟く。


 私は賭けに負けた代償を払わなければならない。今この瞬間から、エドウィン様の恋人になるんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言]   パパ、いいひとじゃないですか(笑)不器用ですけど——って、こんな手のこんだことやれるんだからある意味器用か(汗)  とりあえず、いろいろおめでとうございます。
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