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傷心令嬢は、皇太子殿下の一目惚れを受け入れたくない  作者: 三羽高明


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大好きな「真珠姫」、大嫌いな「魔法の指」(1/1)

『8の月16日 晴れ


 今日はK夫人と立ち話するはめになってしまった。彼女は話が長い上に愚痴っぽい。あんたの小っちゃい双子ちゃんの暴れん坊ぶりなんか知りたくないっての。


 やっと話が終わった後もムシャクシャする気持ちが収まらなくて、馬を飛ばして郊外を駆け回ってやったわ』



『9の月2日 曇りのち雨


 雨が降るなんて聞いてないんだけど! 傘を持ち歩いていなかったせいでびしょ濡れだ。Oが予備を貸してくれなかったら、家に帰り着く前に風邪を引いてたかもしれない。なんて書いている間にも寒気が……。


 くそ! 昨日、「明日は一日いい天気だろう」なんて嘘を教えたIは絶対に許さない』



 日記を読んでいる内に、三つ気付いたことがある。


 一つ。お母様はちょっと口が悪い。


 二つ。お母様は割と行動派だ。


 三つ。お母様は人名を本名では書かない。


 そこまで分かる頃には、私も大分冷静さを取り戻している。レディーの正体はやっぱりお母様じゃない。レディーは「くそ!」なんて絶対に言わないし。


 問題は三つ目の「お母様は人名を本名では書かない」という部分だった。これじゃあ、誰が誰なのかさっぱり分からない。


 一応、何度も出てくる名前はあるけれど……。



『5の月7日 晴れ


 今日は待ちに待った真珠姫の肖像画が完成する日! 前のがあんまりにもブサイクに描かれていて、私が「やり直しなさい、このへっぽこ絵師が!」と画家に怒鳴ってやってからどれくらい経っただろう?


 あの時半べそをかいていた画家がどんなのを仕上げてくるのかちょっと心配だったけど、今度のは上出来だった。私も自分用に一つ欲しいくらい!


 そう言ったら、真珠姫は「私はあなたの肖像画が欲しい」ですって! 秘密の部屋に飾りたいんだそうだ。


 ああ、なんて可愛いのかしら! どうせなら、小さい私の絵を入れたロケットも渡しておこう。それで、いつも身につけてもらうんだ。


 でも今日は癒やされることばかりじゃなかった。肖像画のお披露目会で最悪なことが起きたから。またM・Fだ。あいつは本当にしつこい。


「一度ぶん殴られただけじゃ懲りないの!? 次に私の前に姿を現わしたら、首根っこ引っこ抜いてやるわよ!」って言ったこと忘れたのかしら!?


 あんなのにつけ狙われるなんて、私も本当に運がない』



『6月27日 曇り


 M・F……、M・F……、M・F……。あいつをどうにかしてやる方法、何かないかしら? 今のところはM・Fに鉢合わせそうになる度、真珠姫にかくまってもらうしか手がないけど、それじゃあ根本的な解決にはならないもの。


 第一、このままじゃ真珠姫にも申し訳ない。矢面に立ってM・Fを追い返す役割を担わせてるんだし……。


 だけど、そう言ったら真珠姫は「私たち、親友でしょう?」と笑ってくれた。信じられる? 何かある度に影に引っ込んでじっと口を閉ざしてばかりの真珠姫が、そんなことを言ったなんて。


 持つべきものは友だ。私もいつかあの人のために何かしてあげたい』



 ざっと見た限りでは、「真珠姫」と「M・F」という名前がよく登場する気がしている。


 二人の内レディーの可能性があるのは「真珠姫」の方だろう。「親友」って言葉が出てくるんだからかなり怪しい。だって、それだけお母様と距離が近しいってことだから。


 一方の「M・F」はかなり嫌われているようだった。きっと、お母様に何度も突っかかってくる嫌味な令嬢か何かなのかもしれない。


 それにしても、お母様は一体どういう基準であだ名をつけているんだろう?


 「M・F」は本名のイニシャルにも見えるけど、そうじゃない可能性の方が高い。余白に「マジック・フィンガーズ」と走り書きされているページがあったから。


 つまり、「魔法の指」ってこと? 一体どういう意味なんだろう?


 「真珠姫」にしてもそうだ。色白でまん丸な人なのかしら? でも、現在もそうとは限らないわよね? だってこの日記の日付、私が生まれる前のものなんだもの。


「うーん……」


 私は唸る。


 レディーの正体についての謎が解けたように感じられたのは一瞬のことだった。蓋を開けてみれば、さらに不可解な点が増えてしまっている。「真珠姫」に「M・F」。一体どこの誰なんだろう?


 これ以上は頭を捻っても何の解決方法も出てきそうにない。確かなのは、さらに熱を入れてお母様の友好関係を調べ上げる必要がありそうだってことだ。


 そのために取れる選択肢は二つ。この日記をもっと読み込むか、生前のお母様を知っている人に話を聞くか。


 でも、どっちが早くて確実なのかは分からない。


 だって日記は何十冊もあるし、生きていた頃のお母様をよく知っている人に心当たりなんて……。


「いや、待って……」


 お母様のことを知ってる人、いるじゃない。この屋敷の使用人とか。お母様が生きていた頃から仕えている人だってきっと存在するはずだし、そういう人に話を聞けばいい。


 それから……お父様! ああ! 何でこんな身近な人のことを忘れてたんだろう!? お父様なら生前のお母様のことをよく知っているに決まってるじゃない!


 早くお父様に話を聞きに行かないと! と、はやる気持ちで椅子から立ち上がる。その瞬間、衝撃が体を駆け抜けた。


 お父様にお母様の交際関係について聞く? そんなまどろっこしいことはしなくていい。


 そう。お父様だ。


 お父様は生前のお母様について詳しい。それに、お母様の好きだった香水も彼女がどんな字を書くのかも分かっていたに違いない。


 加えて……私に手紙をくれる・・・・・・・・動機まである。


 お母様の日記とカギを元の場所に戻して、急ぎ足で部屋を出る。全ての謎が解けるんだという高揚感に、心臓が痛いほど高鳴っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  万が一、誰かに読まれたときのことをかんがえて、本名を書かなかったのでしょうかね。  口がわるいわりに、そこはクレバー(笑)
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