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傷心令嬢は、皇太子殿下の一目惚れを受け入れたくない  作者: 三羽高明


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25/45

私のレディーはお母様?(2/2)

「……まあ、それもそうよね」


 初めから期待なんかしていなかったから、大して失望も感じなかった。椅子に座りながら、次はどうしようと思索にふける。


 その目が壁際の棚を捕らえた。やけに大きく、天井まである本棚だ。


 でも、お母様が読書家だったわけじゃないだろう。だって、棚にはほとんど本が入っていなかったから。あっても薄っぺらいものだけだ。


 そんな中、少々厚みのある書物が棚の一角を占拠していた。興味を引かれてじっと見てみると、背表紙に「ダイアリー」と書いてあるのが分かる。


「日記帳……?」


 もしかしなくてもお母様のよね? 好奇心を覚え、私はその中の一冊を手に取る。


 けれど、お母様の用心深さにそれ以上の追求を阻まれた。日記には小さな錠前がついていたんだ。さっき机を調べたけど、これを開けられそうなカギのようなものは何もなかった。


 こじ開けるっていう手もあるだろうけど……やめておこう。遺品をぞんざいに扱ったらお父様に怒られるし、何よりお母様に申し訳ないから。


 やっぱり人の秘密を覗き込もうとするなんてよくないことなんだ。私は日記を本棚にしまい、部屋を後にしようとした。


 けれど、ドアノブに手をかけた瞬間に、脳内に悪魔の囁きのようなものが流れ込んでくる。


『もし私だったら、どこにカギをしまう?』


 しばらく迷った末、私はノブに伸ばしていた手を引っ込めた。向かった先は寝室だ。いけないとは分かっていても、時折好奇心に負けてしまう。私の悪いところだった。


 私はベッドの傍にかがみ込んだ。下側に手を入れ、骨組みを指先で辿る。


「……あった」


 金属の何かに触れる感触がして、私の心臓の鼓動は早まった。さらに探りを入れると、紐のようなものが指先をかすめた。


 それを思い切り引っ張ってみれば、何かが床に落下するチリンという音が聞こえてくる。拾い上げると、小さな銀のカギだと分かった。あの日記帳を開けるためのものに違いないと確信する。


「お母様……」


 思わず微笑んでしまう。お母様も私と同じ場所にカギを隠すんだ。血の繋がりを感じたようで嬉しかった。


 はやる思いで私は居間へ向かおうとした。でも、気持ちが急いていて注意力が散漫になっていたようだ。部屋を出ようとした拍子に、鏡台にぶつかってしまう。


 その衝撃で、置いてあった化粧品の瓶がぐらりと揺れた。


「ダ、ダメ!」


 思わず叫んでとっさに手を伸ばそうとする。しかし、瓶は私の指先をすり抜けて落下していき、床に叩きつけられた。


 ガラスが飛び散り、辺りに気分が悪くなりそうなほどの濃厚な匂いが立ちこめる。これ、香水が入っていたのね。


 顔をしかめながら人を呼ぶために部屋から出ようとした。でもよくよく嗅いでみれば、漂ってくる香りに覚えがあるような気がして足を止める。これは花の匂いだ。


「レディー……?」


 私は愕然とする。瓶のラベルを見てみると、思った通りレディーがいつも使っているのと同じ香水だった。


 奇妙な一致に私の心がざわめく。


 この香水はよくある品なんだから、お母様が持っていたっておかしくはない。


 でも、私はそれ以上のものを感じていた。急に手のひらが汗ばんできた気がする。カギを握りしめ、本棚に直行してお母様の日記帳を引っ張り出した。


 予想通りに錠前が開くと、私はレディーの手紙を懐から取り出し、日記の文字と照らし合わせた。


「そ、そんな……!」


 頭がクラクラした。筆跡の鑑定は難しいと悩んでいた過去の自分をあざ笑いたいような気持ちになる。


 一目見ただけで分かった。手紙の字と日記の字は同じだ。


 レディーの正体はお母様だった。私に手紙をくれて励まそうとしていたのはお母様だったんだ。


 私たちがあの膨大な書類の中から手紙と同じ筆跡の人を見つけられなかったのも無理はない。


 だって、お母様が生きていたのは十年以上も前の話だ。最近の書類からお母様の字を発見できるわけがなかった。


「でも……そんなのありえないわ」


 頭を押さえながら、フラフラと椅子に腰掛ける。少し考えを整理しないと、脳がパンクしそうだった。


「落ち着きなさい、クリスタ。あなたのお母様は今どこにいるの? 天国でしょう? そんなところには郵便配達の制度はないのよ」


 私はブツブツと呟く。


「冷静に考えなさい。レディーはお母様と同じ香水をつけている。そして、お母様と同じ字を書く。つまり……」


 レディーの正体はお母様ってことね!


「……って、違うわ! そうじゃないでしょう!」


 私は思い切り頭を振った。


 レディーはお母様じゃない。お母様に限りなく近い誰か、だ。よく考えてごらんなさい。香水も字も、レディーの工作だとしたら? つまり、誰かがお母様のふりをして手紙を書いていたとしたら?


 でも……誰が?


 そんなことができるのは、お母様のことをよく知っている人だけだ。お母様の交友関係を洗う。それがきっとレディーを捜す一番の近道だ。


 そして、その方法はといえば……。


「日記……」


 手の中に持っているものを見つめた。


 この中には、生前のお母様に関する情報が詰まっている。調べるならここしかない。


 少し申し訳なさを感じつつも、私は日記帳のページをめくった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ついに真相に近づきました?  なんか恋愛より、こっちのミステリのほうが、本筋っぽいですね(笑)
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