私のレディーはお母様?(1/2)
それから何日も経った。
けれど、レディー捜しはさっぱり捗っていない。彼女はどこの誰のか、未だに分かっていなかったんだ。
唯一よかった出来事と言えば、マンフレートが地方行きになったことだ。怪我の治療のためらしい。どのようにして負った傷なのかは言わずもがなだろう。あのアグレッシブな美女もついて行くそうだ。
と言っても、マンフレートが今後も城へ出入りしたところで、エドウィン様のサンドバッグになるのがオチだろうけど。
「あと十日……。あと十日……」
死にそうな顔でエドウィン様が手帳の日付に×印をつける。約束の期日が近づくにつれ、エドウィン様の顔色は悪くなるばかりだ。
それでも、彼はまだまだ諦めるつもりはないらしい。今は私の家の前で張り込みの真っ最中だ。今日でちょうど一週間になる。
――レディーがクリスタの家の郵便受けに手紙を投函するところを捕まえてやる!
とのことらしい。
でも、レディーが手紙を送ってくれる日時に決まりはない。いつ来るのかも分からない手紙を待つなんて、無謀なように思えて仕方がなかった。
その証拠に、張り込みを始めてからエドウィン様が捕まえたのは、郵便配達人が五人と、無関係な通行人が三人だけだった。
雨の日も風の日も物陰から私の家の郵便受けを伺っているせいで、エドウィン様は少々疲れ気味だ。エドウィン様が倒れるのが先か、レディーが手紙をくれるのが先かの戦いになってしまっている。
そしてその決着は、当分着きそうになかった。
「エドウィン様、お食事ですよ」
牛乳とパンを持っていってあげると、エドウィン様は「ありがとう」と言って嬉しそうにかぶりつき始めた。それでも彼の視線は私の家に注がれたままだ。
「少し休んだらどうですか?」
レディーからの手紙が夜の内に来たことはないから、エドウィン様は日が落ちてからはきちんと城へ帰っているし、睡眠も取っているはずだ。
それでも心労のせいか段々とやつれていっているように見えて、心配になってくる。もはや賭けの結果関係なしに早く終わって欲しいとさえ感じてしまっていたんだ。
「俺は大丈夫だ。でも、クリスタは家の中に入ってろ。雲行きが怪しいから、雨が降るかもしれない」
だけど、エドウィン様は張り込みをやめないんでしょう? 言っても無駄だけど、そう口にしてしまいそうになる。
「……頑張ってくださいね」
虚しい応援の言葉を残して、私は家に戻った。自分にも何かできることがないか考えてみる。エドウィン様にばかり負担を強いるなんて公平じゃないもの。
部屋に戻った私は、レディーの手紙を引っ張り出してきて一枚ずつ目を通していく。だけど、時間が過ぎるばかりでこれといった成果は上がらない。
それもそうか。この調査の過程で、私たちは百回はこれを読んだんだから。今さら手がかりなんて見つけられるとも思えなかった。
「お母様……何かいい案はない?」
ベッドにぐったりと寝そべりながら肖像画の母に問いかける。お母様は遠くを見るような目をしていた。
「……ヒントはここにはないって言いたいの?」
私は唸る。思い浮かんできたのは、宮内大臣のロナルト様に言われたことだ。
――身近な女性なのでしょうね。
ロナルト様はレディーの正体をそう推測した。そして、私はそれをお母様のことだと思った。
「……本当にお母様がくれたの?」
聞いてみるけど、お母様は何も答えない。
「……教えてくれないっていうのなら、自力で探すわよ」
私は自室を出た。自分でもバカなことをしていると思ったが、もうレディー捜しの期限は迫っているんだ。こうなったら、やれることは何でもやってやろう。
私は生前お母様が使っていた部屋のドアを開けた。
中は当時のままになっている。そのせいで、ここへ来るといつも人の部屋に勝手に入っているような落ち着かない気持ちになる。使用人が時々掃除をしているお陰で、綺麗なままの状態で保たれているんだからなおさらだ。
でも、この家でお母様関連のものが置いてあるのはここくらいなんだから、調べるならこの部屋を置いてほかにはない。私は室内をぐるりと見回した。
「さて……どこから探そうかな……」
お母様の部屋も私の部屋とほとんど同じ作りだ。居間とそれに続く寝室。手紙を書くなら……居間よね。
私は部屋の奥に置いてある机を探ることにした。机上にはインク壺と羽根ペン。でも、どちらも最近使われた形跡はない。
次に引き出しを開けてみる。でも、ここにもめぼしいものは入っていなかった。




