レディー捜しは捗らない(1/4)
「ダ、ダメだー!」
エドウィン様が便せんの山に突っ伏す。
手紙の差出人捜しを始めてから今日で五日が経っていた。
その間に得た手がかりはゼロ。初日には「三日で探し出してやる!」なんて大口を叩いていたエドウィン様はこの事実にすっかり打ちのめされて、悲惨な顔で手帳の日付に×印をつけた。
「一体レディーはどこの誰なんだ!? 手紙を読んでもさっぱり分からない!」
結局私たちは、謎の差出人の呼び名を「レディー」のままにしておくことにした。他にいい名前を思い付かなかったからだ。それに、女の人っていう可能性もまだ残っているし。
「ぐううっ! おのれ、レディーめ!」
悔しそうに唸りながら、エドウィン様が手紙を睨む。
「期限まで後何日だ!? このままだと、全っ然、間に合わない!」
「落ち着いてください」
狂ったように手帳をめくるエドウィン様を私は宥める。
「まだ始まったばかりでしょう? そんなに簡単に見つかるなら苦労しませんよ」
レディーが見つかることは私が賭けに負けることを意味する。つまり、エドウィン様の恋人にならないといけないってことだ。
そんな結末は避けたい私が彼を慰めるのは変な話だけど、エドウィン様があんまりにも必死だから、何か優しい言葉をかけずにはいられなかった。
「ちょっと冷静になりましょう。そうすれば、新しい発見があるかもしれませんよ」
「……そうだな」
エドウィン様はソファーから腰を上げ、大きく深呼吸した。
「このまま手紙を読むだけじゃ埒が明かない。……作戦その二へ移行するぞ」
「その二? 何するんですか?」
私は無邪気に尋ねる。けれどエドウィン様が「あそこへ行く」と言って、窓越しにとある場所を指差したものだから、興味本位で聞いたことを後悔してしまった。
エドウィン様が「あそこ」と言ったのは宮殿だったんだ。
「いや、それは……」
私はしどろもどろになりながら目を泳がせる。
「お城はちょっと……。あの……言いましたっけ? 私、父の許しがないと外出が……」
「問題ない。俺が交渉する」
エドウィン様がきっぱりと言い切った。
「クリスタ、君がインドア派なのは知ってる。でも、これは重要なことなんだ。君だってレディーの正体を知りたいだろう? だったら一緒に来てくれ。……じゃあ、俺は準備があるから今日はこの辺で失礼させてもらう」
荷物をまとめると、エドウィン様はさっさと応接室から出ていった。いつもなら私と離れたくなくてグズグズしているのに、今日はやけに早業だ。それだけ焦っているんだろう。
残された私は呆然となる。
けれど、いつまでも一人で応接室に座っているわけにもいかないので、ノロノロと部屋を出た。その途端、廊下でお父様と鉢合わせする。




