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舞踏会嫌いの令嬢は、謎の青年からの告白を絶対に受け入れない(1/1)

 建物の中から、華やかな音楽が流れてくる。


 それに混じって聞こえてくるのは、今日の舞踏会に参加している人たちの談笑する声。どうやら誰も私が会場を抜け出していることに気付いていないようだ。騒ぎにならないか少し心配だったけど、杞憂に終わりそうで安堵する。


 でも、初めから心配なんかする必要はなかったのかもしれない。だって、今日の主役は私じゃなくて皇太子殿下だから。


 大病を患っていた殿下は、随分と長い間離宮で養生していたらしい。この舞踏会は、その病が治って殿下が帝都に戻ってきたことを祝うためのものだった。つまり、この催し物の中心人物は皇太子殿下なんだ。


 だから、彼とは縁もゆかりもないどころか、会ったことすらない私がいなくなったところで、さして気にもされないはずだ。


 背後から靴音がして、私は物思いを断ち切られた。誰かが私のいる東屋に入ってくる気配がする。振り向いてみれば、そこには見知らぬ青年がいた。


 身長は平均ぐらいだが、武芸でも嗜んでいるのかしっかりとした体付きをしている。華美な舞踏会用の装束などより軍服の方が似合いそうな雰囲気だ。


 けれど頬の辺りにはまだ幼さが残っているし、目が大きめだからあまり厳つい印象は受けない。髪もきちんと撫でつけてはいたけれど、元がくせ毛なのか毛先は少しハネ気味だった。


 青年は何故か口を半開きにして、こちらを食い入るように見ていた。もしかして私が舞踏会を抜け出したことを咎める気なのかもしれない。そう思うと少しソワソワしてしまう。


 主役じゃないからいなくても構わない、なんて甘い考え方だったんだろうか。


「……ここで何を?」


 青年が尋ねてくる。やけに掠れた声だ。不審に思いつつも、私は必死で言い訳を考えた。


「少し疲れてしまったので、休んでいたんです。その……人の多さに圧倒されてしまって……」


 嘘ではない。今日は国中の貴族が集まっているから、宮殿は人で溢れかえっていた。


「そうか……。俺もだ」


 青年はまるで夢遊病のようなおぼつかない足取りでこちらに近づき、東屋のベンチに座った。


 それでもまだ私から視線を外そうとしない。一体何のつもりなのかしら? 私を叱りたいってわけでもなさそうだし……。


「あの、何か?」


 耐えられなくなった私は少し刺のある声を出した。


「私に用でも?」

「よ、用?」


 青年は素っ頓狂な声を上げる。


「ああ……ええと……その……用というか……。前に……どこかで会ったことがないか? 何だか初めて会った気がしないというか……。だって、初対面なのにおかしいだろ? こんなにも君を……。いや、だけど、そんなはずは……。もし以前に会っていたら、こんな、こんな……」


 青年の答えはまるで要領を得なかった。顔も何だか赤いし、もしかして酔ってるのかしら? アルコールの匂いはしないけど……。


 もしくは、彼は私を知っていて声をかけてきたのかもしれない。あり得なくはないだろう。今の私は不本意ながらも有名人だから。


 となれば彼が次に持ち出すのは、あの事件・・・・のことだろう。だけどそれは私にとっては不愉快極まりない話題だ。


 嫌なことを聞く前に、「失礼します」と言ってさっさとその場を後にしようとした。


「待ってくれ!」


 けれど、青年は私を帰してくれなかった。腕を取られ、引き留められる。ものすごく真剣な表情に、少し気圧されてしまった。


「行かないでくれ! もう少し一緒にいたいんだ! 君と話がしたい!」

「で、でも……」

「君のような美しい人を見たのは初めてなんだ!」


 思いがけない一言が飛んできて、私は凍り付いた。頭がグラグラする。「君のような美しい人を見たのは初めて」ですって?


「宮殿から漏れてくる明かりに照らされた君の横顔を見た時に、俺は君に心を奪われてしまった。一目で好きになったんだ。一目惚れをしてしまったんだ!」


 恥ずかしがることもなく、青年は滔々とうとうと愛の言葉を述べる。私は足を震わせながらそれを聞いていた。


 この次にどんな言葉が発せられるのか、私は知っている。嫌だ。聞きたくない。絶対に、絶対に……。


「どうか俺の恋人になって……」

「嫌よ!」


 私は声の限りに叫んだ。青年の手を無理やり振り解いて駆け出す。


 やっぱり舞踏会なんて大嫌いだ。来るんじゃなかった。どうして私ばかりこんなひどい目に遭わないといけないんだろう?

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― 新着の感想 ―
[良い点]  一話目で引き込まれました。  ヒロインの事情や彼のこと。  楽しみに読ませていただきます。
[一言]  連載、楽しみに読ませていただきます。  まだ、情報量はあらすじのほうが多いくらい。続きが、楽しみです。
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