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赤い鳥、泣いた。  作者: 日多喜 瑠璃
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第6話です。


健太と菊池のやり取り、今回も楽しんでいただけると嬉しく思います。

「収穫あったか?」

「ないですね。う〜ん、キセキレイに道案内してもらいましたけど。」

「あ〜、ははは。道案内な。」

「何で…真っ直ぐに逃げるんでしょうね。横に飛んだら追いかけられなくて済むのに。」

「うん、逃げるっちゅうかなぁ。」


 キセキレイの道案内。

 深くは解明されていないが、例えば農耕地を耕すと、土の中から餌となる虫が出て来る。つまりは耕運機の近くに居ると餌にありつける。そういった人間との共存を上手く利用している野鳥であると思われる。その人や車の前を移動する様が、愛鳥家の間で「道案内の様だ」と言われるらしい。

「人に対する恐怖心とか警戒心って、薄いんですね。」

「そうなんやろな。すばしっこいのも特徴や。実際、車に轢かれたのんとかって、見たことないやろ?」

「ええ。確かに。」

 ―逃げ切れる素早さかぁ。そういえば彼奴(あいつ)も、何気にスッと居なくなってる?

「山ガールにも、上手いこと逃げられとるんちゃうか? はっはっは!」

 ―う、うわっ! 出た!!


 ところで、健太には気になって仕方ない事があった。

 自らを“鳥”だと言わんばかりの発言を繰り返す飛鳥。どうやら野鳥写真家である健太より、野鳥に関する知識を持っている様子。

 そして―。

 何故か探鳥の時に現れる。彼女は一体何者なのだろう?

「あの、菊…」

「あ!?」

「ち…さん…」

「お、ちゃんと言えたやん。」

「あ、はい…ははは。菊池さん、返事が早すぎて、ビックリするんですよ。」

「そうか。2人しか居らんさかい、声かかったら敏感に反応してしまうねんや。」

 ―人の気持ちに対しては鈍感なのにな。え? 違う。心の裏側まで読んでるな。

「何なんやろなぁ、このオッサンは。てか?」

「い、言ってないです。あは、あは…」


 声をかけてはみたものの、話して大丈夫なのかどうか? 

 馬鹿げてると言えば、確かに馬鹿げてるし、それを大真面目に話したところで答えは出るのだろうか?

 森に行く度に出会う女性、飛鳥。彼女の事を、菊池は知っているだろうか? 

 いや、むしろ菊池だって不思議な男だ。森から帰る度、山ガールがどうとか。根拠があるのかないのか、或いは本当に心の奥や裏側までお見通しなのか。


 健太は、意を決して訊いてみた。

「いつも…森から帰ったら、山ガールとか仰るじゃないですか。彼女の事、何かご存知なんですか?」

「へ!? 山ガールて…ホンマに会うてんの!? ワシ、冗談で言うとったのに。」

 ―ハッ! しまった。余計な事言っちゃったよ。チクショー。

「そうかぁ。そうなんやなぁ。ひっひっひっ!」

 やはり訊いたのは間違いだった。まさかここまで見事に冗談を通すとは―。

 菊池は心臓の辺りで、両手で♡を作る。

「いや、そ、そんなんじゃ…」

「ええやん、ええやん。若いモン同士で。おぉおぉ、熱いこっちゃ。」

「やめて下さいよ、あはは。」

「そない照れんでもええって。はっはは!」

 ―違うって言ってんだろが、このオヤジ!

「お、大阪…行ってきます。」

 「写真撮れたん?」

「だから、収穫ないですって。カメラのメンテナンスですよ。」

 健太は、菊池から逃げる様に事務所を出た。



 都会の道を走るのは慣れている。そう思っていた。しかし、東京と大阪では勝手が違う。街並みも違えば、人とて地域性がまるで違う。お世辞にも運転しやすいとは言えず、本当は公共交通機関で移動したい。

 とはいえ、本体とレンズを合わせると5kgを超える重量だ。これを担いで大都市近郊の電車に乗るなど、体力、気力共にすり減らしに行く様なものだ。

 機材をハードケースに入れ、車に積み込むと、大きな衝撃を与えない様慎重に運転する。大阪市内に近付くと、徐々に緊張感が高まっていく。

 やたらと交通量の多い阪神高速道路を降り、一般道へ。最早方向感覚など麻痺した様なものだが、道を迷いそうになりながらも、漸くサービスセンターに辿り着いた。


「今日は。」

「おや? 山村さんじゃないですか。」

「ご存知いただき、ありがとうございます。5月から京都に住む事になりまして。」

「そうでしたか。それじゃあメンテナンスも。」

「ええ、こちらでお世話になります。」

 スタッフの男性は、手際よく受付をこなしていく。

「ええと、ボディとレンズ、点検とクリーニングで…そうですねぇ。問題なかったら2時間。今、3時前ですし、すんませんけど5時頃までよろしいですか?」

「わかりました。じゃあ、ちょっと街の中をうろついて来ます。そうだな。アウトドアショップなんて在ります?」

 スタッフは、再開発の進んだ大阪駅周辺の地図を渡してくれた。時間潰しの間、健太はぶらっと大阪の街を散策してみる事にした。

 


 梅田―。

 京都に来てからというもの、市内の中心にも出る事もなく、片田舎と森の往復が殆どだ。JNPA大阪事務所を訪れて以来、久しぶりの大阪の街。東京都内とは趣の違う巨大都市を、土地勘のない男が1人歩く。

 店に並ぶ衣類は、メンズとてお洒落だ。こんな服を着る様な柄ではないと思いながらも、少しカッコ付けてみたい気持ちもないではない。

 少し前まではそんな事思いもしないはずだった。何故なら、機能的なアウトドアブランドの服が、最も自分の行動にマッチしているからだ。

 そして、着飾ったところで誰に見せる?

 それが健太の服を選ぶ基準だ。それはやはり、今もも変わらない。


 鏡を見るかの様に自分を見つめ、健太はそのままアウトドアショップに向かった。

「いい服着たところで、どうせ彼奴…笑うよな。まぁいいや。夏本番に向けて、速乾性素材のTシャツ買っておこう。」

 それから―。

「アルコールバーナーか。山に篭るなら、小さくていいかもな。これも買っておこう。」


 買い物は済んでしまった。さて、どうする? カフェでお茶でもして…と言ったところで、どの店もお洒落で入りづらい。

「困ったな。サービスセンターに戻って、缶コーヒーでも飲んで時間潰すか。」

 男の街歩きなんて、こんなものかもしれない。特に健太。彼の興味の対象は、野鳥とカメラとキャンプ。この大都市が、彼に何を満たしてくれるというのか?

「いい店あるじゃん!」

 見つけたのは、中古品の品揃えが際立つカメラショップ。掘り出し物があるかもしれないと思うと、何の躊躇いもなく店に吸い込まれていく。

 結局のところ、そんなものだ―。



「お疲れ様です。仕上がってますよ。」

「ああ、ありがとうございます。早かったですね。」

「山村さんと言えば、当社のヘビーユーザーですからね。優先させて頂いてます。」

「助かります。でも、他のお客さんは?」

「心配ご無用です。ははは。」

 ―そう言ってさぁ、続けてニューモデルの案内とかされるんだよな。

「あ、ところで…」

 ―ほら来た!

「このレンズなんですが…」

 ―160万円もするんだぞ。おいそれと買えねえぞ。

「少しフォーカスリングの回転が渋かったので、調整しておきましたよ。レンズ自体は凄く綺麗でした。」

 ―ホッ。違ったか。

「え? どうかされました?」

「いや、あ、あ、ありがとう。」

「これもいい玉なんですけど…現行モデルもねぇ、結構グレードアップしてますよ。」

 ―するんかいっ!!

「でも、お使いのに愛着もおありでしょうし、何しろ高価ですしね。またの機会に…」

 ―せんのかいっ!!


 慣れない大阪の道。阪神高速道路環状線を走る。

 環境や人…何もかもが変わり、戸惑う気持ちを誤魔化せずにいる健太。しかし、ぐるぐる回るのは頭だけではない様だ。

「あ、あれ? 俺、2周回ってるよな?」

読んでいただき、ありがとうございます。

少し話が進みましたね。

山ガール? バレてしまいました。

あと大阪での一コマも、しっかり意味を持たせています。


今回の野鳥は、キセキレイの道案内を少し解説しました。

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