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赤い鳥、泣いた。  作者: 日多喜 瑠璃
18/20

18

第18話です。

この物語の、いよいよクライマックスという感じになります。

バイクで走り去った飛鳥は?

飛鳥を追いかける健太は?

あと3回。

是非最後までよろしくお願いします!

「あぁ…バイク、ねえや。」

 ニノ谷に着いた健太は、辺りを見渡す。車の横に停まっていたはずの、飛鳥の赤いオフロードバイク。その姿は、既にその場所から消えていた。

 ―ちゃんと家に帰ってればいいんだけど。

 車のラゲッジに、写真機材を積み込む。あとは、もう一度山に入り、置いてきた荷物を回収しなければいけない。


 ―胸騒ぎがする。

 健太はそのまま車に乗り込んだ。集落を抜け、峠を越える。その先にある三叉路を左折した所で、ふと車を停めた。

 ―もしかして、アプリ見たら分かるのか?

 スマートフォンを取り出し、『TK探鳥ナビEX』を開いてみる。ところが…

「え!? 何だよこれ!?」

 あろう事か、スマートフォンの画面がブラックアウトした。

「役に立たねえなっ! くそっ!!」

 ―チッ!

 スマートフォンを投げ捨てる様に助手席に置くと、健太は車をUターンさせ、三叉路から尾根の方へ向かった。

 集落を抜け、畑を横に見ながら林道へ進む。道は狭く、荒れていて、四輪駆動車であっても走行は困難になる。深い轍と狭い道幅。ついに健太は、車を降りた。


「まさかこんな道…行ってねえよな?」


 キョロロロロロ――


 尾根へ向かう方向に少し歩き、健太は立ち止まった。


 キョロロロロロ――


「アカショウビンだ。」

 いや、今はそれどころではない。野鳥を気にしている場合ではない。飛鳥の安否の方が先だ。


 キョロロロロロ――


 ―呼んでる。飛鳥が…呼んでる。

 物悲しげな鳴き声が森にこだまする。それは、飛鳥の呼ぶ声だ。何故かそう思った。健太は森に吸い込まれる様に、林道を尾根の方向に向かって歩き出した。

 空は厚い雲に覆われ、森はみるみる内に暗くなっていく。

 連日の山行で疲れきった足は、転がる石に取られ、何度も転びそうになる。少し歩いては立ち止まり、また歩いては立ち止まる。焦りがそのまま苛立ちへと変わっていった。


 キョロロロロロ――


 ―はっ?

 ふと足元を見ると、明らかにバイクが滑ったであろうタイヤ痕が目に入った。

 胸騒ぎはさらに大きく膨らみ、健太の心臓を激しく揺さぶる。

「飛鳥ーーー!!!」

 健太は出せる限りの大声で、何度も何度も飛鳥を呼んだ。


 キョロロロロロ――

 キョロロロロロ――


 ―近いな。

 辺りを見渡してみる。右には壁が、左には谷が。そして、その谷間に赤い何かを見つけた。

 愕然とした。全身から血の気が引いていくようだった。

 ―飛鳥。

 健太は、谷底に赤いオフロードバイクを見た。

「飛鳥ぁーーー!!!」

 木々の間からつるに掴まり、谷を滑り降りる。バイクの横にはヘルメットが転がり、その少し下に、飛鳥の横たわる姿があった。

「飛鳥!! 飛鳥ぁー!!」

 

 その顔はとても綺麗だった。ヘルメットは、苦し紛れに脱ぎ捨てたのだろう。

「まだ大丈夫だ。きっと助かるから。助けてやるからな!」

 朦朧とした意識の中で、飛鳥はうっすらと目を開け、健太を見た。そして、か細い声で力なく言った。

「トリケン…見つけてくれて…ありが…とう…」


 キョロロロロロ――


 ―分かったよ。何も言うな。

「飛鳥、今から助け呼びに行くからな。待ってろよ。すぐ戻ってくるからな。」

 つるを掴み、必死の思いで林道へと上がる。何度も足を滑らせ、その度に肘を、膝を、あちらこちらにぶつける。積み重なった疲れと共に、健太の体もボロボロになっていく。

 林道を走り、足を滑らせては転び、立ち上がり、また走る。やっとの思いで車に辿り着くと、すぐ近くの集落へと向かった。


「すみません! 電話、繋がりますか?」

 そこに居たのは、仙人の様な男だった。彼は健太の姿を見て驚いた。

「な、な、何や? 何かあったんか?」

「人が、人が、谷に落ちてる!」

「谷に? どこの谷や??」

「尾根に向かう林道です。」

「その人は?」

「朦朧としてます。」

「よっしゃ。ヘリやな。兄ちゃん、ヘリが飛んで来たらこれで知らせろ。ワシが救助隊呼んどくさかい、現場に居ってくれ!!」


 数少ない、人が在住する民家。男は思古淵(しこぶち)と名乗った。

 健太は、思古淵から強力なマグライトを受け取ると、再び林道へと戻り、自分の車で入れる限界まで進む。四輪駆動車の走破性を活かし、どんどん奥へと進んで行く。

「ダメだ。これ以上行ったら俺まで落ちちまう。」

 車を飛び降り、林道を足で走る。

 ―くそっ! 足が動かねえや。

 破裂しそうなほどに張った両足の筋肉。大石小石が転がる、ガレガレの林道。だが時間がない。走るしかない。

「はあっ!!!」

 大声を上げて自信に喝を入れ、漸く現場に辿り着いた。

 つるに掴まると、もう足など頼りにならない。そのまま滑り落ちる様に、飛鳥が横たわる側に降りた。


「飛鳥…飛鳥…救助隊が来てくれるぞ。」


 キョロロロロロ――


 飛鳥からの反応はない。何も答えてくれない。

「飛鳥!」


 バラバラバラバラバラバラ――


 ヘリだ。健太はその時、上空で旋回するヘリに気付いた。

 ―合図だ。合図を。

 肩からぶら下げたライトを点け、ヘリに向かって照射する。見つけてくれ―。

「ここだ! ここだぁっ!!!」

 力一杯ライトを回転させる。ヘリは、健太の居る場所の上空でホバーリングした。

 ―届いた!!


「飛鳥、救助隊、来たぞ。」


 キョロロロロロ――


 飛鳥は何も答えてくれない。そうしている間に救助隊が降りて来た。

「よ、よろしくお願いします。」

 救助隊員は、飛鳥の側に寄って声をかけてみる。しかし、やはり何も答えない。今度は目を開き、反応を見た。

「急ごう。」

 2人の隊員が飛鳥を抱き抱える。

「あなたは?」

「は、あの…」

 恋人と言いたかった。しかし、実は飛鳥の事を何も知らない。いつも森で合流し、別れ際に次の約束をする。それだけだった。

 ―一緒に行くべきではない。

 それが、健太自身が出した答だった。

「と…通りすがりに…見つけたんです。」

「わかりました。通報ありがとうございます。」

 救助隊は、すぐさま飛鳥の搬送に取りかかった。隊員に抱えられ、飛鳥は空へと舞い上がって行った。


「飛鳥ぁーーーーー!!!」

 健太はその名を何度も呼んだ。涙が溢れる。声にならない。それでも、健太はその名を叫び続けた。

 やがて、上空のヘリに吸い込まれていく飛鳥の周りには沢山の小鳥が集まり、そして舞い踊った。

 ―夢はもうおしまい。現実に帰ろっ。

 飛鳥は大きな翼を広げた。小さな輪を描き、それは少しずつ大きくなり、やがて小鳥達を率いて山の向こうへ消えて行った。

 ―鳥だ。幻想か? いや、飛鳥は…本当に鳥だったんだ。



「飛鳥は…もう現れてくれないのか?」

 イライラしていた。そんな個人的感情が、大切と感じ始めていた人を傷付け、苦しめ、その結果の今になった。

 人を恨む、憎む、罵る、傷付ける…それは、いつか自分に返ってくる。もっと大切な物を失う―。

 菊池はそう言っていた。なのに、なのにその言葉さえも忘れ、我をも見失ったかの様に、飛鳥に辛く当たり、傷付けた日々。


 キョロロロロロ――

 バサバサバサバサ――


 ―はっ!? アカショウビン!?

 側に横たわる赤いオフロードバイクを見つめ、健太は自らを省み、責めていた。

 そんな時の、一瞬の出来事だ。目の前を赤い鳥が横切り、飛び去って行った。

「ずっと鳴いてたな。そうか、一部始終見てたんだ。」

 そして健太は、ポケットの中に何かがある事に気付いた。

「何だ!? 『A』のプレート!?」

 何故自分が持っているのか分からない。 しかし、それは健太のジーンズのポケットから出て来た。

「これ、ちぎったの、俺なのか? 返さなきゃ。」


 ポツリ…ポツリ――


「ん?」

 アカショウビンが去って行ったその時、空を仰いだ健太は、自身のおでこや頬を何かが叩いている事に気付いた。

 雨粒だ。雨が降り始めていた。

「雨乞い…鳥…か。」

 雨は次第に本降りとなった。

 ―俺も、帰らなきゃな。


 ゴロゴロゴロゴロ――


「やべえ! 雷だ!!」

 慌てて谷を上がろうとする。しかし、ここまでにかなりの体力を使い果たした。つるを掴む手には、もう力が残っていない。林道を走って来た足も然りだ。

 残された僅かな力を振り絞り、必死の思いで谷からの脱出を試みる。だがそれも叶わない。何かに足を引っ張られるかの様に、登ってはずり落ちる。

 ―アホか! 何で俺は、一緒に(救助隊に)引き上げてもらわなかったんだ!!

 

 雨は遂に豪雨となり、谷を流れる沢の水位が上昇する。


 ゴロゴロゴロゴロ――


「うわっ!!」

 閃光が走り、雷鳴が轟いた。


 バシィッ!!!

読んでいただき、ありがとうございます。

この物語が異世界にカテゴライズされる理由、ここでようやく表現出来ました。

主人公・健太目線で記しているので、どこからが異世界でどこが現実なのかは、敢えて濁しています。

それが正解なのか否かは、読んで下さった皆様の評価によるところと思っています。

残り2回、最後まで、是非目を通して下さいね!

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