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赤い鳥、泣いた。  作者: 日多喜 瑠璃
14/20

14

第14話です。

いよいよ本格的に“赤い鳥”を求めでの探鳥をスタート。初めての八丁平では、空から…などと言っていた飛鳥も…


 まだ明けやらぬ空の下、健太はニノ谷に車を停めた。京都府内でも特に標高の高いこの地域。少し肌寒ささえ感じながら、ラゲッジからせっせと荷物を下ろしていく。

 高価な精密機器であるカメラと、超望遠レンズ。それを支える頑丈な三脚。これらは大切な商売道具だ。衝撃を与えない様、慎重に扱う。


 この日、健太は1日仕事を決め込み、およそ3万年も前に形成されたと伝えられる高層湿原で、そこに生息する、あるいは渡って来る野鳥達の姿を写真に収めるため、準備を整えて来た。

 自然界の朝は早い。初夏ともなると4:30頃には空が明るくなり、生き物達も活動を始める。もちろん野鳥達も夜明けと共に動き出す。探鳥には最適な時間帯を逃さない様、早い時間から森に入らねばならないのだ。


 ダダダダダダダダダ――


 遠くからバイクの音が聞こえてくると、一筋の光が健太の目の前を照らし、停まった。

「ぃよっこらしょっと!」

「おはよう。本当に来てくれたんだ。」

「エヘヘ…おはよう。トリケンっ!」

「ごめんな、早くから。」

「大丈夫。私も夜明けと共に活動するし。持ち物は? 何持ったらええやろ?」

「カメラは当然俺が持たなきゃだけど、飛鳥のリュックには、これ、キャンプギヤ。入る?」

「うん。たぶんそんなんいっぱい入れやんとあかん思て、リュックは空にして来た。エヘヘ。」


 ―え? あれ?

「どっかでちぎれたんかな?」

「何が? どうしたの?」

 リュックを開けようとして、気付いた。自分の物である証として、リュックに付けていた物。飛鳥の頭文字『A』が書かれたプレートのキーホルダー。

「どこかで落としたかな?」

 ―どこかで見たか? いや、このリュックって、ずっと背負ってたのか? 違うよな…

「トリケン、パクった(盗んだ)やろ! 罪には罰が待ってるで。」

「アホか? 何で俺なんだよ、ははは…でもさ、俺のを背負うより、自分のリュックの方が背負いやすいと思うからね。じゃ、入れてもらおう。」

「うん、トリケンのリュック、臭そうやし。」

 ―こらっ!


 2人はおでこのヘッドライトを点け、ゲートを抜けると、いざ八丁平へと歩き出した。暗い山道を、石や落ちた木の枝などに足を取られない様、ゆっくり慎重に歩いて行く。

 徐々に明るくなり始めると、道も見えてくる。所々立ち止まっては、双眼鏡で木々の枝を見る。まだ影にしか見えないが、小鳥が飛び交う姿が少し気持ちを癒してくれる。

「トリケン、今日はえらい真面目やな。」

「俺はいつだって真面目さ。」

「鳥さん見つけたろオーラ、出まくってるで。」

 ―そう…かな?

「あんまりオーラ出したら、鳥さん嫌がって隠れてまうで。」

 ―ふふふ。飛鳥は鳥の気持ちがわかるんだな。自分を鳥みたいに言ってるだけに。

「なぁ、飛鳥ってさ、もしかして背中に羽生えてんのか?」

「どうかな〜? 正直者やないと見えへんで。」

「俺は正直者じゃねえから見えねえけど、はは…生えてんだ。あはは。」

 ―鳥じゃないけど羽生えてんなら、え? それって天使じゃん♡

「またおかしな事言い出すし。何かアホな事考えてんねやろ!?」

「いや、何も…」

 ―考えちゃうじゃん♡


 重い荷物を背負い、途中、野鳥観察や休憩を入れながら、およそ2時間かけた歩行で八丁平に着いた。

「トリケン、カメラの準備しといて。他で私に出来る事あったら言うてな。」

「お? 意外と気の利いた事言うじゃん。」

「うふっ! 私を誰やと思てんの?」

「飛鳥は飛鳥じゃん!」

 ―勝ったぜ!

 飛鳥はほっぺをぷっと膨らました。そしてすぐに微笑んだ。

「ここは飛鳥の夢ん中の世界やし、ゆっくり楽しんでな!」

「意味分かんねーよ! はは、野鳥天国ってとこかな? それだけここが好きって事なんだな。じゃあ、飛鳥も探してくれ。」

 ―ラジャー!!

 今までからそうだった。活発に見えて、意外と言葉がなくてもじっとしていられる。探鳥に集中する健太を気遣っているのだろう。リュックに括り付けた小さな椅子を取り出すと、飛鳥はチョコンと座って双眼鏡で周囲を見渡した。


 ゆっくり時間が過ぎていく。稀にハイカーが数名列を成し、挨拶をして通って行く。それ以外何もない。

「お? あれは?」

「ミソサザイ。撮った?」

「いや、ダメだぁ。」

 

 ツキヒ…ホシ…ホイホイホイ――


「サンコウチョウやん! トリケン、ほら、探して!」

「ホントだ! え? どこだろね? 全然見えねえや。」

 ―えーっ!?

 兎に角、朝の早い時間帯には様々な姿を見、鳴き声を聞く事が出来る。手付かずとは言えないが、大切に守られた森と湿原。その、野生生物を育むパワーは凄い。

 写真にはならずとも、声を聞き、その姿を探しているだけでも、知らぬ間に時間は過ぎていく。


「なぁ、飛鳥。」

「うん。」

「そろそろ昼だよな。腹減ってねえか?」

「え〜っと…」

 飛鳥のリュックから、ローテーブルとアルコールバーナー、コッヘル、そしてインスタントラーメンを取り出す。

「これ、どうすんの?」

「あ、使った事ないのか。じゃあ俺がやるから、見てて。蓋を取って、ここにアルコールを入れて、火を点けるだけなんだ。これでお湯を沸かせるんだよ。飛鳥は何持って来た?」

「おにぎり。」

「そうか。じゃあお湯も要らないね。え? うっそ〜!! マジか!? 水、ねえや!!」

 ウォーターパックがない。持って来たはずなのに…まさかのミスに困惑する健太。飛鳥は焦りの面持ちで言う。

「あ、あ、お、おにぎり食べて。」

「あ、でも、いいよ。スープまぶしてかじるから。山に居るとよくあるんだよ、こんな事も。」

「こめ〜ん。」

 たぶん、自分が忘れたんだ。そう言って健太は、麺を袋から出してかじり始めた。とりあえず何か腹に入れておかなければ、山歩きでは危険が伴う。それだけは気を付けなければいけない。

 2人は思わず苦笑いした。


 腹を満たせば、また探鳥再開だ。日中、野鳥達はどこに居るのだろう?

「どっかで休んでるで。天敵から身ぃ隠さなあかんから、目立たへんとこ。」

「だよね。ここに来るまでにいろいろ見たけど、やっぱり早朝が勝負かなぁ。」

「まだまだ夕方があるで。」

「そうなんだけどさ、暗くならないうちに下山しねえとな。今の時期、タイムリミットは6:00か。」

「泊まったらええんちゃうん?」

「そんな勇気ある?」

「ない。トリケン何するか分からんし、怖い。あははは!」

「こらっ! 俺は一体何者だ?」

「ヘンタイ。きゃ〜っ!」


 付き合っている訳でもないが、お熱い事だ。そうこうしている間に、日は西に傾きかけてきた。山に囲まれた湿原は、陰となる。こんな時こそ、探鳥に集中したい。

 森を見つめ、耳をすませば、その音は微かに聞こえる。それは少しずつ近付いてきている。


 コココココン―キョッ―コココココン――


「ん!?」

「アカゲラ…やな! ほら、あそこ。」

 飛鳥が指差す方向に、ドラミング音を響かせるキツツキの姿を見た。物音を立てない様、静かにカメラの向きを合わせて素早く構図を決める。キツツキだって動きは速い。追尾でピントを合わせていく。


 パシャパシャパシャパシャパシャパシャ――


「よしっ! 撮れ高OKだ。」

「アカショウビンは?」

「また今度だな。暗くならないうちに下りよう。」

 健太はカメラを撤収し、飛鳥はキャンプギヤをリュックに詰め込む。コンパスを片手に、2人はニノ谷へ向かい歩き始めた。

「1日ねばってこれだけ?」

「こんなもんさ。まだ駆け出しの頃なんて、この1枚すら撮れない事もあったんだ。」

「結構苦労してんな。意外! もっとヌル〜イ生き方してる思てた。」

 ―ヲイ!


 日没後間もなく、2人はニノ谷に戻って来た。くだらない冗談を言いながら歩いていると、荷物の重さも忘れていた。ホッとしたその時、全身に重みがのしかかる様に疲れが出て来た。

 飛鳥のリュックから健太のバッグへキャンプギヤを移す。辺りはすっかり暗くなり、車のヘッドライトで手元を照らす。

「あ!」

「あ!」

 ―エヘヘへ!

 ―はははは!

 飛鳥のバイクの側に、健太のウォーターパックが。

 ―やっぱりお前じゃん。

 ―やっぱり私やったぁ。

「トリケン…み…ず…」

「コイツっ!!」

 ―あははははははははは!!

読んでいただき、ありがとうございます。

やはり好きな事をするのであれば、楽しみたいものですね。


サンコウチョウは、その鳴き声が「月」「日」「星」の響きに例えられ、3つの光という事でこの名が付けられたそうです。

オス45cm,メス17cmの体長の差は、オスが非常に長い尾羽を持つという事です。

アカゲラは代表的なキツツキ。その名は、体色に赤を持つ事から名付けられたもの。本州以北と対馬で繁殖が確認されているそうです。また、サイズの大きいオオアカゲラは個体数がかなり少ないそうです。

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