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赤い鳥、泣いた。  作者: 日多喜 瑠璃
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13

第13話です。

今回は、少し和む内容と言いましょうか。

健太と菊池、島田のやり取りをお楽しみください。

 朝、島田の車は菊池を乗せ、いつもの様に国道162号線を南下していた。


 島田は京都市内にあるIT企業に勤めて長い。そこでは様々なアプリケーションを開発・制作してきたが、2年前に上京区から南丹市美山に移住し、自宅はもとより、リモートワークのフットワークの軽さを上手く活かし、野外へ出かけた先であっても、既存アプリケーションのアップデートプログラムなどを開発し、配信までの作業をこなしている。

 という事は、出社する日は限られており、多くは菊池の送り迎えと探鳥のために車を走らせている。つまり、美山の自宅から鳥研京都支所、そして、森の京都を往来する日々を送っているのだ。


 いつもの様に…いや、その日は2人の話す内容は、いつもと少し違っていた。

 菊池と島田は、この車の運転手すなわち菊池を送り迎えしている人物が島田である事を、健太に隠していた。それは自身らの過去の過ちを知られたくないに他ならなかった。しかし、健太の熱い想いに、互いに心を動かされた。

 では、山村健太はどういう人物なのか?

 2人は、そんな事を話していた。


「おはようございます!」

「おはよう。」

「おはようございます。」

 健太は、事務所に来る日は今までより早く来て、菊池を車から降ろすのを手伝う事にした。巨漢を抱え、車椅子に乗せる。菊池自身も左足は使えるのだから、負荷はさほどでもない。

 この、島田という男。一見カタブツの様で、打ち解けると意外と面白い。人脈を広げるには、まず島田との交流を持つ事がその第一歩かもしれない。健太は、そんな風に感じていた。


「山村さん。」

「あ、健太って呼んで下さい。」

「ほな、健太君。」

「何でしょう?」

「八丁平へ行かはるってお聞きしたんで、ちょっとだけお話させて下さい。」

「はい。是非お聞きしたいです。」

 3人は事務所に入った。島田は室内を見渡し、久しぶりだと呟いた。自身が使っていたデスク。そこに、まだ新しいながらも使い込んだ雰囲気を醸し出すパソコン。京都支所の活動が継続されている事が、その様子から伝わってくる。それを見て、少し安堵感のある表情を浮かべた。

「島田さん、お時間大丈夫なんですか?」

「こないだも話した通り、仕事はリモートですよ。どこに居ても出来ます。」

 ―どっかで聞いた様なセリフだな。

「お話したい事って?」

「はぁ、それでは少し…」


 八丁平へのアプローチは、いくつかのルートがある。島田はそう切り出した。

「はい、存じています。」

「そうですか、ほな、話はしやすいですね。」

 そう言って島田は、話を進めていった。


 八丁平へのルートは、主に3つ。ひとつは広河原の峰定寺(ぶじょうじ)からのルート。これは峰床山(みねとこやま)を通る。京都府第2の標高であるこの山を写真機材を背負って行くには、体力的負荷が大きい。写真撮影を兼ねるなら、あまり薦められるルートではない。

 2つ目には、山村都市交流の森からチセロ山を越えるルート。これも尾根伝いのルートだ。こちらも峰定寺ルート同様、写真機材を担いで歩くには、いささか無理がある様だ。

 この2つのルートは所要時間も長く、トレッキングがメインとなるなら構わないが、健太の入山の目的は、あくまでも八丁平での探鳥および写真撮影だ。理想的とはお世辞にも言えないのだろう。

 3つ目は、久多からのルート。このルートは、あるにはあるのだが道らしき道が途絶え、険しいと聞く。


 この話に、健太は素早く反応した。

「実はね、昨日行ったんですよ、八丁平。地図を見て等高線から判断したんですが、ニノ谷からのルートが正解でしょ? 単純に距離だけは短くても、高低差があれば理想的とは言えない。けど、この感じなら。」

「あ、もう行かはったんですか。さすが! そうですね。仰る通りです。普通、距離の短いルートは勾配が激しいんですよね。でも実はその手前の集落自体、標高高いんです。京都府最高峰の皆子山を掠めて行く訳ですしね。」

「ですね。あと、コンパス持って行って良かったです。初めてだと、結構分かりにくくて迷いそうなポイントもありますね。」

 その時、ふと前日の八丁平行きを思い出した。

 ―そういえば飛鳥、何も持たずによく来たな。本当に空から?

「そんな訳ないか。」

「え? 分かりやすかったです?」

「あ、…じゃなくて、別の話思い出して。すみません。」


 ルートと山に関する情報は、何より経験者のアドバイスが物を言う。島田の話はとてもよく理解出来た。そこから島田は、さらにひとつだけ注意したい旨を話し始めた。

「それと、ニノ谷までのアプローチなんですが…」

「道はひとつだけですよね?」

「いや、実はもう1本近道がね。花背峠から尾根伝いの林道があるんです。地図には出ないけど、現地に行ったら地道があるのが分かります。こっちから行ったら、花背峠のてっぺん。そこは舗装路です。そこは、バイクで林道を楽しむ方がよう行かはります。でも、正直申し上げると、危険です。」

「もちろん、そんな所に行くつもりはないです。目的が違いますし。」

「そや。そやから約束してくれ。尾根伝いの方は行かんといてくれ、な、健太。」

 ―もしかして、事故のあった場所か?

 菊池は、どことなく青ざめている様子だった。トラウマなのだろう。きっとその道が事故現場へ向かう道、菊池が右足を失った場所なのだろう。

「大丈夫ですよ。心配ご無用ですって。」


 健太はニコッと笑い、2人からの忠告を受け止めた。

「山をナメたらあきません。特に、健太君は単独ですしね。」

 ―単独じゃないさ。

「ナメたらあかん〜♪ ナメたらあかん〜♪」

 ―おいっ! このオッサン、真面目に話してんのか? まぁ、いつもの事だけど。

「ところで健太っ!」

「は、は、はいっ!!」

「お前、森に入る時って、いつも1人か?」

 ―ギクッ!

「あ、はい…」

 ―嘘だ。1人じゃないもん。

「山ガール連れて行ってへんか?」

「あ、会ったりはしますけど…」

 ―つ、連れて行ってますけどぉ?

「そうかぁ。」


 突然の菊池の言葉に、健太は焦りを隠せなかった。菊池は、関係者以外を同行させるのは、万が一事故が起こった際の責任問題が厄介だと言った。

「けど、鳥研で動けるのって、俺1人なんですよね。もしかして、島田さんと行けって言う事ですか?」

 ―No!

 話を聞きながら、島田は首を横に振った。既に問題を起こしてしまっている人物だからという事か?

「ちゃうわい。責任取れる相手と行け言うとんねん。」

「は?」

「まだ分からんのかいな。山ガールをな、責任取れる相手にせえっちゅうとんねん!」

「え? え? どういう事?」

「決まっとるやろな! 結婚せえっ!! はははははは!!」

 ―Yes!

 菊池の言葉を聞いて、島田は首を縦に振った。

 ―マジかよ。こんな展開になるなんて思ってもみなかったよ。

「な、何を仰いますやら。俺、別にその人の事好きだなんて…」

「顔に書いたあるて。」

 ―え? 顔…あっ、顔?

「ほら、ここですよ。」

 そう言って島田は、健太の真っ赤になった頬を指差した。

 ―わぁっはっはっは!!!

 ひとしきり笑うと、島田は事務所を去った。



「きぃ〜く〜ち〜さんっ!! 島田さんに余計な事言ってません!?」

「余計て…言うたらあかんかった?」

「ダメではないけど。でも、別に島田さんに関係ないじゃないですか。」

「それ言うならワシもやん。はっはは!」

 ―分かってるんなら、尚更言うなよ。

「兎に角、結婚とかって…別に付き合ってる訳でもないですしねっ!!」

「すまんすまん。」

 そう言いながら、菊池は鼻歌でウエディングマーチを口ずさむ。

 ―このオッサン!

 不機嫌な表情を見せながらも、心の奥では悪い気がしない。思わずクスッと笑ってしまう健太だった。

読んでいただき、ありがとうございます。

健太にとって、まさかの展開。

彼にとって、飛鳥とはどういう存在なのか?

次回もお楽しみに!

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