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赤い鳥、泣いた。  作者: 日多喜 瑠璃
12/20

12

第12話です。

毎週日曜日の投稿なんですが、もうその日が来ました。早いものですね。

ずっと読んで下さってる方にとっては、長い1週間であれば嬉しいです。

変な話ですが、次はまだかなぁって思っていただけたら…

物語は、まだまだゆっくり展開していきます。

 健太は、その日も森を見つめていた。先日の島田との話…菊池に、どの様に指示を出せばいい? 勘のいい菊池の事だ。すくに島田の意図を感じる事だろう。彼はどこまで受け入れるのか? 報告文書など、書ける心理状態にあるのか?

 そんな事を考えながら、椅子に座り、右手に双眼鏡を握り締めていた。


 ジュリッ、ジュリッ――


「ト〜リケンッ♪」


 ジュリッ、ジュリッ――


「エナガちゃん居てるで。」


 ジュリッ、ジュリッ――


「えっ!? あ、ああ、飛鳥か。」

「何それ? なんか愛想ないし。」

「ごめん。ちょっと考え事してたんだ。」

「またヤラシイ事考えてたんやろぉ?」

「おいっ!!」

「ほらほら、こっち来るんちゃう?」

「お、おお! ちょっと来い! チョットコイ♪」

「チョットコイはコジュケイの鳴き声やっ!」

 ―あはははははは!

 いつもの様に、どこからともなく現れた飛鳥。くだらない冗談を言っていると、健太も少し気が楽になった。


 エナガの群れは、すぐそこまで近付いて来た。鳥達が止まるであろう枝を予測し、撮影に適したポイントを絞り込む。そして最適なポジションを見つけると、カメラの位置を変える。ファインダーを覗き、光線を確認すると、カメラの位置を微調整して構図を決める。その動作は、とても素早い。

 ―来た!!


 パシャパシャパシャパシャ――


「撮れた?」

「ほら。」

「わっ! 凄い!! 光の輪っかになってる!!」

「だろ? これがプロの仕事さ。」

「もっと見せて〜♡」

「ダメだよ。これは作品なんだから。カメラ触るなよ!」


 野鳥写真撮影は健太の仕事なのだが、考えてみると、飛鳥、菊池、島田に翻弄され、しばらく作品が撮れていなかった。

 作品がなければ食いっぱぐれだ。そんな時でも、身近に可愛く美しい野鳥は現れてくれる。

 ―こりゃ久しぶりに良いのが撮れたな。


 エナガは、街中や公園、森林などでもよく見られる。シジュウカラやメジロ達と混群を組んで飛び交う事もあるが、体が小さく尾羽の長いその姿はとても愛らしく、人気者だ。但し―。

「すばしっこいからな。写真に撮るのは、結構難易度高いんだよ。」

「へぇ〜、そうなんや。確かにすばしっこいし、動き回ってるもんなぁ。トリケン、上手い〜。」

 ―ドヤ顔しとかねえとな。こんな時ぐらい。

「私の前では、こんな時ぐらいしかドヤ顔出来ひんもんな〜。あはっ!」

「何ですとっ!?」

 ―何でいつも読まれてんだろうなぁ。

「でもさ、小さくて、元気いっぱいで…可愛いよな。」

「誰?」

 飛鳥は自分を指差して、健太の顔をチラッと見る。

「え?」

 ―あははははははははは!


 出会ってから、どれぐらいこんな時間を過ごしたのだろう? 笑い合えるひとときは、心の癒しにもなる。でも、このままでは生活がままならなくなってくる。まずは出来る仕事をこなしておく事が大切だ。

 そして、横でニッコリ笑う飛鳥にも、伝えておきたい事が―。

「ちょっと真面目な話なんだけど…聞いてくれる?」


 いや待て、飛鳥に何を話すというのだ? 話したところで、大した意味もないかもしれない。でも、探鳥の度に現れる彼女だから―。

 少し自分に問い直してみたが、やはり話しておかねば。そう思って健太は口を開いた。


「今から話す中の『鳥研』は、野鳥研究会の略称たよ。間違えないでね。」

「うん。わかった。」

「俺はね、プロの野鳥写真家であり、野鳥研究会京都支所長なんだよ。その鳥研では、アカショウビンの京都府内繁殖の定着化を目的に、調査活動を進めている。支所には3人のメンバーが居て、繁殖の定着化は、そのみんなの夢なんだ。もし繁殖が定着したら、府内レッドリストから外す事にも繋がるだろうね。」

 絶滅だけは避けたい。いや、避ける必要がある。そして、一定数までは増やしてあげたい。もしかしたらそれは、人間目線の考え方かもしれないし、実際人間が手を出す事で異常繁殖した動物も居る。異常繁殖は、その地において生態系を壊してしまうことに繋がる。そうならないためにも調査は大切であり、調査のために、撮影した写真を役立てたい。健太はそんな思いを語った。


「例えばさぁ、人って生まれた町とか住んでる町によって、話す言葉も違うじゃん。表情とかも違うよね? 野鳥だって、繁殖地やなんかで色合いが違ったり、何か特徴があるかもしれないんだ。俺の撮った写真から、そんなのが確認できたら…なんてね。」

「その写真は…売らへんの?」

「売る写真は別で撮ってるよ。今ここに居るだろ? これは、お客さんから依頼された野鳥のカレンダー撮影なんだ。エナガは今撮ったし、ウグイスやらホトトギス、シジュウカラ…いろいろ撮ってるけど、これにはお金がかかってるし、俺は今までの実績で一定の地位を築き上げたから、この仕事で半年ぐらいは食っていけるんだよ。」

「そやから、こんなユルイ探鳥してるねんな。」

 ―ユルイって言うなよ、もう。

「な、飛鳥。俺はこのカレンダー撮影と並行して、定期的に八丁平の森に入ろうと思う。車やバイクでは入れない。だから、こんな風に会えるかどうかも分からない。」

「大丈夫。私、空から見てるで。」

 ―そうか。飛鳥もアプリ使ってるんだろう。GPSの事だな。

 ―え? 何だ! そういう事じゃん!! 何も不思議じゃねえじゃん!!


 思えば健太自身、GPSから島田の位置を特定して会いに行ったのだ。飛鳥は鳥になった様に「空から」と言うが、それもいいじゃないか。彼女はきっと、まだ心の中で夢見る少女を引きずっているのだろう。



 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ――


 登山靴が、砂利混じりの土を踏む。

 初夏とはいえ、長袖に軽量パンツ。帽子にサングラス、手にはトレッキングポール、背には大型レンズを取り付けた一眼レフカメラとそれを支える頑丈な三脚が収まるザック。僅かながら、食材とドリンクも携行する。

 腹が減った状態での登山は、非常に危険だ。ましてやかなりの重量である撮影機材までも、全て1人で背負っている。

 故の最短ルートを選んだが、それでも10kgに迫ろうかという荷物を背負ってのハイク。辛くない訳がない。


 ―ハァハァ、ハァハァ、縦走登山ならこんな程度じゃ済まないんだ。ハァハァ、体力ねえな、俺。

 漸く目的地に辿り着いた時には、もうかなり疲れていた。荷物の中でも特に重い写真機材。これを背中から下すべく、三脚を立て、超望遠レンズを取り付け、カメラ本体をセットする。

 周囲を見渡す前に、まずはドリンクを飲んで休憩だ。


 大してスポーツもせず、ただ写真撮影に没頭した学生時代。近所の河原でカワセミを追いかけた日々。野鳥写真家となった後も、主な移動は車。機材が大きく重くなるにつれ、歩く距離は徐々に短くなっていた。

 ―こりゃ、峰床山までは無理か? 情けねえな。

「ホンマやな。もっと鍛えといたら良かったな。うふふっ!」

「え? ええっ?? 飛鳥…何でここに?」

「翔んで来た。言うたやん。空から見てるて。」

「いや、だから…わざわざここまで来たのは何で?」

「トリケン! 1人で行ったらあかん!!」

 ―あ、ああ、菊池さんにも言われたけど。


 そうだ。第一目的は探鳥なのだ。しかし登山ともなると、野鳥の鳴き声や姿に気を取られては危険だ。そのため、可能な限り単独行動は避けるべきなのだが。

 ―鳥研で探鳥やってるの、俺だけだしな。

「飛鳥がペアになったぁげる。あかん?」

「いや、ありがたいんだけど…飛鳥、仕事は大丈夫なのか?」

「うん。どこでも出来る仕事やし。」

 ―だったらぁ!

「疲れる前に来てくれよぉ! て思てるやろ?」

「思ってるよっ!」

 ―あはははははは!!

読んでいただき、ありがとうございます。

八丁平は、京都市と滋賀県大津市の境界にある原生湿原。

ここも申し訳ないのですが、筆者は足を踏み入れていません。ネットの情報を参考に書いています。


エナガは、本文中にも解説しました。身近に居る野鳥なので、皆さんも出会えるかと思います。

人気のシマエナガは北海道に居る亜種です。頭部の色が違うので、写真でも見分けやすいですね。

コジュケイは、キジの仲間で体長27cm。その鳴き声が「チョットコイ」と聞こえると言われています。実際には「ピィクックィッ、ピィクックィッ…」って感じでしょうか。筆者も以前はよく耳にした鳴き声なんですが、最近はあまり…

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