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赤い鳥、泣いた。  作者: 日多喜 瑠璃
10/20

10

第10話です。

週一で連載を始めてから、もう10週間なのですね。

今、季節はすっかり冬になったけど、物語の中は初夏の陽気が続きます。

「菊池さん…」

 健太は心配そうな面持ちで菊池を見た。菊池は意外にも、穏やかに微笑んだ。

「なぁ健太。ワシの右足がなくなったのは、島田のせいやない。ワシが石頭やったのがあかんかったんや。」

「そんな…」

「そういう事なんや。」


 バチが当たったとでも言うのか? こんな障害を負ってまでも、菊池は島田の事を―。

「恨む理由なんてあらへん。一緒に居て手柄の取り合いみたいな事は、やるもんとちゃうねん。」

「でも、嘘の記録が残るんでしょ?」

「なぁ、健太。観察データに必要な記録って、何や? 観察者の名前か? ちゃうわな。何月何日何時何分、何が何処に居ったか―。その記録さえあったら、鳥がどういう行動しとるかって解析出来る。ほしたら、保護に役立てる事が出来る。ワシら鳥研がやるべき事って、それやろ? 観察者が誰やの何やの言うて喧嘩して、挙句の果てに大怪我して、障害負って。ワシはつまらん事で自分自身の人生を変えてもうたんや。その上島田を恨むなんちゅう事したら、もっともっと大事なもん失う事になるやろな。」

 人を恨む、憎む、罵る、傷付ける。それは、いつかきっと自分に返ってくる。健太はそんな人間になるな―。

 菊池はそう言っている様だった。



 次の日、健太は芦生にやって来た。原生林には入らず、府道の道端から由良川を挟み、対岸の森を見つめていた。

 河原には、何組かの家族連れがBBQを楽しむ姿も見られ、道にはツーリングを楽しむバイクや自転車が頻繁に行き交い、穏やかでありながらも活気のあるひと時が流れていた。

「暑くなってきたな。」

 初夏の日差しは、思いの外強い。健太は車のバックドアを開け、クーラーボックスからドリンクを取り出し、ボトルホルダーに入れた。

「こういう事をすると、また彼奴が現れるんだよな。クスッ。」

 彼奴とは…


 ダダダダダダダダダダダダ――


 ―来たっ♡

「ぃよっこらしょっと! うふっ。トー…」

「あ〜すかっ!!」

 ガクッ―。

「き、気持ち悪ぅ〜! あっはっは!!」

「気持ち悪いって何だよ!?」

「だってほら、♡まで付いてるしぃ。」

 ―え? 何処に?

「何探しとんねん。付いとるかいっ!!」

「あ、はは…」

 ―付いてたかもしれないな。


 予想通り、いや、期待通り現れた。

 今日は森の中に居る訳ではないし、周囲に誰も居ない秘境という訳でもない。なのに飛鳥は、健太の探鳥の合間に、絶妙なタイミングで現れる。

「今日はユルイ事してるやん。」

「そんな、毎回毎回険しい所なんて行ってられねえよ。」

「ヘタレ(根性なし)やもんなぁ。うふふっ!」

「またそんな事言うだろ!?」

 飛鳥は笑っていた。悪気なんてかけらもないその顔。健太は菊池の言葉を思い返した。

 ―つまらねえ事が原因で、人生が変わってしまう事もあるんだ。

「あれぇ? 今日は怒らへんの?」

「怒らねえよ。怒るのやめたよ。冗談に本気で怒ってたら、バカじゃん。」

「え? 冗談て…飛鳥、冗談で言うてるんちゃうで。」

「ほらほらほらほらぁ。また挑発する!」

 ―あはははははは!


 飛鳥は背の高いオフロードバイクのシートに、横向きにチョコンと座った。そうして2人はしばらく森を見つめていた。ただじっと座って、同じ方向を見つめていた。そこには野鳥が居る訳でもない。少し汗ばむぐらいの日差しが、ただ心地良かった。

「なぁ、トリケン。」

「ん?」

「ここって、珍しい鳥さんって居やへんで。居ても…カケスとかシジュウカラとか…」

「分かってるよ。カケスもシジュウカラも、珍しくはないけど可愛いよ。そんな子達も、見れたら嬉しいさ。たまにはこうしてのんびりしたいんだ。」

「あら意外。“赤いの”、探さへんの?」

 健太は飛鳥を見た。

「ここに居るじゃん。日焼けして赤いのが。」

 ―ぷぷっ!

「何言うてんねん! 頭に毒でも回った?」

「いや、あははは…何だよ、毒って…」

「悪い虫にでも刺されたんやろ!?」

 吸い出したるわ―。そう言いながら飛鳥は、健太の右手を取り、その甲を口元に近付けた。

 チュッ―!

「え?」

「あ…」

「お、おい…」

「あはは…ははは…」

 2人共、真っ赤になった。


 ―飛鳥って、い、意外とピュアじゃん。

 健太は思わずキュンとなった。珍しい野鳥を見つけた時とは違うドキドキ感が走った。2人は、時々チラッと顔を見合わせては笑った。落ち着いている様で、鼓動は高鳴る。それは飛鳥も同じだった。

「何か私…邪魔してんのかなぁ?」

「そんな事ないよ。そんな事は…あはは…」

「今日は…もう帰ろかな。」

「そ…か…帰るのか。」

 また2人は顔を見合わせる。

 ―あはははははは!

「ほな…えへへ、またね!」

 いつものセリフも、照れ笑いを含んでしまう。ヘルメットを被ろうと手に取ると―。

 コツン!

 緊張でもしてるのだろうか? 手元がずれて、おでこにヘルメットの角が。

「いやんっはっはっはっ!」

「何だよ、その変な笑い方、ははは!」

 必死で照れ隠しをしながらバイクに跨り、エンジンをかけた。


 ダダダダダダダダダ――


 健太の前から走り去る赤いバイク。飛鳥はヘルメットの中で少し笑っていた。

 ―トリケンって、意外とピュアやねんな。うふっ♪

 そして、その姿を見送る健太もボソッと呟いた。

 「何か、可愛い…よな♡」



 飛鳥が去った後、健太はまたしばらく森を見つめていた。そこには野鳥の姿は見えない。時折舞う様に双眼鏡のレンズに飛び込んで来るのは、アゲハ蝶だったりする。それでも、緑に色付く木々の葉は、優しく癒しを与えてくれる。

 ―時間帯によっちゃ、エナガの群れとかが来るだろうな。

 決して珍しい野鳥ではないが、小さな体で活発に動き回るその姿を写真に収めるのは、意外と難しい。今日はここで、その群れに期待を寄せてみるのもいいだろう。そう思いながら、おもむろにアプリを開いてみた。


「ん? 誰か居る。島田さんなのか? 芦生原生林なら近いぞ。」

 健太は慌てて機材を撤収し、車に積み込んだ。島田とはどんな男なのだろう? それは、自身の立場上知っておくべきだ。是非会ってみたい。そんな思いが、健太を走らせた。

 狭くなる谷あいの道を、時折対向して来る車と上手く離合し、三叉路へ。

「やっぱり原生林だな。行ってみよう。」

 芦生の集落に入ると、程なく道は行き止まりとなる。先日飛鳥と会った駐車場。そこに、見覚えのある黒いセダンが停まっていた。

「え? この車…」


 ―おおきに。いつもすまんな。

 ―それはやめて下さいって。


「まさか、あの人が島田さん!?」

 恨む理由なんてない。菊池はそう言った。

 菊池と島田は、事故後も今なお深い付き合いを持っているというのか? いや、むしろ島田が通勤時間を利用しながら、菊池に対し細やかながら償いを続けているのか?

 ―それを俺が知ってどうする? それは下世話じゃないか?

 ただ、島田という人物を知りたい。京都支所長を引き継いだ者として。

 ―違う。それはこじ付けだ。俺はきっと、今の菊池さんと島田さんの関係に至る経緯に…興味があるだけなのかもしれない。


 健太は自問自答した。

 ―会って話はしておくべきだ。

 ―何の話を?

 鳥研京都支所に関する話なら、事故の事は避けて通れないだろう。そんな話を島田に求める事が、果たして必要なのか? 身になる事なのか?

 様々な思いを交差させる内に、黒いセダンの男は現れた。

読んでいただき、ありがとうございます。

菊池の思いも伝えられた健太。

飛鳥との恋、始まるのでしょうか?


カケスは、森に行くと比較的よく出会える留鳥。

住宅地の近くでも会えます。

褐色の体に青い羽を持ち、ジェー!と騒がしく鳴きます。

シジュウカラやエナガは身近にいて、秋には一緒に群れを形成しますね。小さく、とても可愛い鳥です。

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