2話 魔法の練習
「魔法は各々が持っている魔力に火、水、風、土の属性を付与することで……」
辺りにはインクと紙のにおいが充満している。
そう、ここは書庫だ。
初めて魔法を見た日からはいかにして魔法の使い方を知れるかどうかを模索した。
母さんが魔法を使ってあやすときは、もっと見せてと言わんばかりに普段以上に囃し立てた。
見られているときは手と足、体全体を使って魔法のことを表現した。
また、これだけ大きい家だから書庫に魔導書のようなものはあるだろうと仮定して、抱きかかえられて部屋を移動するときに、知らない部屋を指さしては猛烈にアピールした。
その甲斐あってか、こうやって今魔法についての本にありつけている。
書庫に入るなり本を色々と指で指しては、取ってもらった本が普通の絵本であろうものならやいやいと騒ぎ、今まで大人しかった分を取り戻すように駄々をこねたりもしたから、大分母さんを困らせた。
まじですまぬ。
そう思いながら内容を真剣に聞いていた。
魔導書の内容としては、
・魔法は体の中にある魔力をコントロールすることで使うことができる。
・魔力は量に個人差はあれど、必ずみんな持っている。
・魔力は火・水・風・土の属性のいずれかを付与することで初めて効果を発揮する。属性を付与しなかった場合には、何も起こらなくなってしまう。
・基本的に魔法は詠唱を行うことで発動できるが、無詠唱でもできる。そのときは詠唱アリと比べて、強固なイメージと時間、多めの魔力が必要になる。その分自由度が増え、できることは多くなる。
といったことが書かれていた。
他にも、属性を付与していない魔力を流すことで使うことができる魔道具や、魔法を使う生き物である魔物についてのことなどが簡単に書かれていたが、今は良いだろう。
まだまだ言葉をうまく発することができず詠唱ができないため、必然的に練習するのは無詠唱での魔法行使になる。
でも魔力をコントロールするってどういうことだ?
思いっきり気張ればいいのだろうか。それとも座禅をして精神統一をすればいいのか?
分からないからとりあえず何でもやってみよう。
本を読み終わったタイミングで寝たふりをしてベッドまで運んでもらったから、幸い今は一人だ。
火属性や土属性の魔法は部屋の中で出すと怖いし、風魔法は発動できたかどうかわかりづらいかもしれないから水魔法でいいだろう。もしもの事があれば、おねしょをしてしまったということにしよう。
よし、いくぞ。
まずは座禅のポーズをとる。
自分の鼓動を確認しながら、血液のように魔力が流れているだろうということを意識する。
驚くようなほどに心を無にし、感情を水面のように澄み渡らせ精神統一。
……
………
…………ここだっ!
全身の意識を手のひらに集中させ、猛烈に気合を入れる。
思い描くは100円ショップで売っている超小っちゃい水鉄砲の水の勢い。
うおおおおおお!!!!!!!
ふんぬおおおおおおおおお!!!!!!!!
その結果は……
ちょっと手汗が増えただけに終わった。
――――――――――
あれから1週間、毎日欠かさずに魔法の使い方を模索した。
母さんが魔法を使うところをよく観察したり、魔導書をもっとよく読んでもらうようにしたり、試行錯誤しても結果残るのは手汗のみ。
日に日に力む時間を伸ばしているせいか、手汗がベッタベタで少し不快になる。
赤ちゃんは汗をよくかくという話を聞いたことがあるが、それよりも魔法を使えるようになりたいと思うので我慢する。
そして今も母さんから魔法を見せてもらっている。
今日は火の玉をいっぱい浮かべている。
不思議と熱くない。むしろ心地いいと思えるぐらいの温かさを保っている。
「レインは本当に魔法が好きねぇ。」
「あいあい!」
「じゃあ大きくなったら立派な魔法使いになるのかしらねぇ。」
「うい!」
「ふふふ♪」
でもどうやって魔法を出すのだろう。
僕も母さんの手の動きに合わせて、指を杖に見立ててクルクルしてみる。
すると、
「レインも魔法が使いたいのね。じゃあこうしてみよっか。」
と母さんが言うと、僕の手のひらを優しく握った。
そしてクルクルと回すと、母さんの手から何かが溢れてくるのを感じた。
「くるくる~、ポンッ!」
という掛け声とともに、指の先から火の玉がふわっと出てきた。
思わず感動して見惚れてしまう。横では母さんがニコニコとほほ笑んでいた。
これのおかげでなんとなくで魔力というものが何なのかを理解できた気がする。
――――――――――
夜になった。
もうよい子は寝る時間だが、最近の日課である魔法の練習がある。
今日起こったことをしっかりと思い出しながら、イメージを膨らませる。
そして、いつものように座禅をし、精神統一をする。
なんだか今日はいけそうな気がする。
そう確信めいた思いをよそに、体の中の魔力をしっかりと認識する。
体の奥に、気を張っていなければ気づかないような、微かな力を感じる。
そして思いっきり手のひらに意識を集中させ、手の平から水が出てくるという様子をイメージする。
すると……
手のひらからペットボトルのキャップ1杯分の水が手のひらから流れた。
ようやく待ち望んでいた魔法を使うことができたという嬉しさと、ようやく第一歩を踏み出せた満足感で満たされた。
それと同時に、急激な倦怠感でが体を襲い、そのまま眠りについてしまった。




