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決勝戦

 剛皇寺源十郎遺産相続トーナメント――ついに決勝!!!


 対戦カードは剛皇寺一郎vs剛皇寺妖子。

 一郎は一回戦で三男である繁三を下し、続く準決勝ではメイドの凛に貫禄勝ちを収めた。

 一方の妖子は一回戦は顧問弁護士・江戸川を撃破し、準決勝では息子の妻である麗美の体液を沸騰させて勝利。


 故人の妻と長男の対決という、遺産争いとしては順当といえば順当なカードとなった。


 トーナメントで一郎がいた山にいた者たちは、一郎を激励する。


「兄さん、母さんに勝ってくれよ」と鋭二。

「頼むぜ」と繁三。

「いい戦いを見せて下さいませ」とお辞儀をする凛。


 妖子もまた激励を浴びる。


「あなたの勝訴を祈っています」と江戸川。

「母子対決、超楽しみです!」と麗美。

「親子喧嘩を楽しんで下さい」山田さんが微笑む。




 リング上で向き合う母と息子。


「よくここまで上がってきたざますねえ……褒めてやるざます」


「そっちこそ……もう年だっていうのにすごいよ」


 お互い言葉にトゲがあるが、戦う前に馴れ合うのは戦士として失礼だと分かっているからだ。

 本当なら、一郎は今すぐ妖子の胸に飛び込みたいし、妖子は我が子を抱きしめたい。


「両者、前へ!」


 審判の声に応じる二人。


「始めッ!!!」


 試合開始。固唾を飲んで見守る6人の戦士。


「いきなりいくざますよ!!!」


 妖子が空中で茶をてる動作をする。


 麗美を準決勝で下した、体液を沸騰させる技である。いきなり放ってきた。


「ぐああああああっ……!」


 絶叫する一郎。


 遺産相続トーナメント決勝、開始3秒で勝負ありか。


 だが――


「社長として生き……時には我が社の株価が高騰したこともあった。それに比べれば、体液の沸騰なんて大したことじゃない!」


 一郎は耐えてみせた。

 もはや社長と言えばどんな攻撃でも耐えちゃうんじゃないか、という貫禄がそこにはあった。


「反撃させてもらうよ、母さん。社ァァァァァッ!!!」


 メイドの凛を寄せ付けなかった社気連射。遠い間合いから一方的に攻撃できる絶技だが――


「ゆるりと動くざます」


 妖子は日本舞踊のような優雅な動きで、ことごとくかわしてみせる。


「全てを受け流していますね……これが茶道の極意なのでしょうか」驚愕する凛。


 そう、これぞわびさび!


 カコーン……。


 どこからともなく鹿ししおどしの音が響いた。


 つまり、両者を決勝に進ませた切り札がいきなり通じなかったことになる。


 悔しがる繁三。


「くそっ、オレらと兄貴やお袋にはそれだけの差があるってことかよ!」


 鋭二も同調する。


「あの二人はボクらとは次元の違う高みにいるようだね」


 すると、山田さんが言った。


「いいえ、それは違います」


 他の5人が驚く。


「一郎さんと妖子さんがあそこまでの領域に達したのは決勝に行くまでの間に成長したからです。むろん、敗れた我々とて敗北したことで成長しています。すなわち、あの両名が8人で突出しているというわけではないのです。卑屈になることはありません」


 山田さんの助言で、敗者たちも癒される。彼は回復役ヒーラーだった。


「さっすが山田さんね」とウインクする麗美。


 思わず赤面してしまう山田さんであった。




 切り札が決め手にならなかったにもかかわらず、二人は笑っていた。


「それでこそ母さん! 俺と遺産を争うに相応しい!」満面の笑みを浮かべる一郎。


「来るざまぁす」両腕を広げる妖子。


 異能勝負をやめ、二人は純粋な格闘戦を始めた。


 一郎の右ストレートが、妖子の顔面にめり込む。

 妖子の貫き手が、一郎の喉に突き刺さる。

 一郎のアッパーが、妖子の顎を打ち抜く。

 妖子の手刀が、一郎の肩を穿つ。


 母が子を殴る。子が母を殴る。

 現代日本ではおよそ許される行為ではない。絶対やってはならない禁忌。


 だが……どうか、どうか、今この時だけは許して欲しい。


 二人は――“戦士”なのだから!


「ざますっ!!!」


 ここで妖子が奇策に出る。

 自らの右拳の体液を沸騰させ、そのまま一郎を殴りつけたのだ。


「ぐはぁっ!」


 倒れる一郎。


「ぐっ……!」


 すぐ起き上がろうとするが、起き上がれない。


「決着の時ざますね。子供を寝かしつけるのは……母親の務めざます!」


 和服を振り乱して、トドメを刺そうとする。


 この時、一郎の脳裏に浮かんだのは――


「社長……!」

「起きて下さい」

「社長!」


 愛する社員たちの声。むろん、彼らはこの場所にはいない。しかし、彼が抱える1万人を超える社員たちが、勝利を祈ってくれているのだ。


「俺は……いい社員を持った!」


 一郎は立ち上がった。


「立った! 兄貴が立った!」


「さすが兄さん!」


 繁三と鋭二は兄弟として嬉しそうだ。こんな兄がいる自分すら誇らしくなる。


「社ァァァァッ!!!」


 社気を帯びた渾身のアッパーを妖子に喰らわせる。

 が、妖子も倒れない。


「あたくしにも……弟子がいるざますからねえ……」


 妖子の背中を、大勢の弟子の幻影が支えていた。


「見えるよ……母さん」一郎が微笑む。


 二人が同時に駆ける。


「うおおおおおおおおっ!!!」

「ざまああああああすっ!!!」


 右拳と右拳が交錯する――


 互いの拳が直撃した。


 周囲は息を飲む。


 永遠にも思えるときが過ぎ……


「成長……した、ざますねえ……」


 倒れたのは妖子だった。


 審判が高らかに宣告する。


「勝負ありッ!!!」



***



 かくして、遺産相続トーナメント・優勝者は一郎に決まった。あとは遺産1000億円が相続されれば、大会は終幕となる。


 だが、8人は確信していた。


 ガタガタ……。


 棺が動き出す。


 ガタガタガタ……。


「やはりね……」笑う鋭二。

「これほどのトーナメントを開かれて、黙っていられるはずがねえ」と繁三。


 ガタガタガタガタガタ……。


 ますます揺れる棺。


「早く生き返ってくるざますよ、ああた」


 ガタンッ!


 妖子の声に呼応するように、棺の蓋が開いた。


「ガハハハハッ! まったく、こんな戦いをやられてはおちおち死んでおられんわ! ワシも参加させろォ!!!」


 剛皇寺源十郎、復活である!


 しかし、誰も驚く様子はない。源十郎ならばこうするだろう、といった風情である。


「父さんなら死んでられないよね。超一流美食家の葬式で、超一流のフルコースが振舞われたようなものなんだから。そりゃあ蘇生しちゃうよ」


 一郎は最後の戦いの相手が父になったことを心から歓迎した。

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