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準決勝第二試合

 準決勝第一試合は一郎の勝利に終わった。


 第二試合は――剛皇寺源十郎の妻・妖子vs剛皇寺一郎の妻・麗美!


「妖子さんが勝てば決勝は母子対決になり、麗美さんが勝てば夫婦対決になるわけですな」


 山田さんが分かりやすく説明してくれた。


 さて、妖子と麗美。この二人、いわば姑と嫁の関係でもあるわけだ。

 一般に姑と嫁は犬猿の仲になりがちと言われるが――


 二人の仲は超良好であった。


「お義母さん、あなたと戦えるなんてアタシ嬉しいです」


「あたくしもざまぁす」


 まるで長年競い合ってきた健全なライバル同士のような眼差しだ。


「もし一郎さんがいなければ、アタシ、お義母さんと結婚してたかもしれない」


「あたくしも主人がいなければ、麗美さん、ああたと結婚しててもおかしくなかったざますねえ」


 これほどの仲であった。


「いいものですなぁ」とつぶやく山田さん。


「先に麗美と結婚しといてよかった……」胸を撫で下ろす一郎。


 ――試合が始まった。


 両者動かない。

 嫁と姑でリングで二人きりという状況を堪能している。

 やがて、麗美が言った。


「お義母さん、胸をお借りします」


「ドンとくるざます」


 ドンッ!


 麗美の蹴りが妖子の胸に突き刺さった。


「いい蹴りざますねえ……」


 しかし、妖子は1メートルほど後退したのみだった。


「アタシの蹴り、厚さ100cmのコンクリートにも穴を開けるんですけどね」


「月とスッポン、あたくしの胸とコンクリート、ざます」


「なるほど……」


 すかさず妖子が右ストレートを返す。

 麗美もガードはするも、その両腕は痺れている。


「この打撃……まるで一郎さんみたい」


「逆ざまぁすねえ。一郎の打撃が“あたくしみたい”とおっしゃって下さいまし。あたくしは母であり師匠のようなものざますから」


「これは失礼しました」


 謝罪し、麗美が姿勢を正す。モデルとして本気ガチの立ち姿。


 男だけでなく女まで魅了してしまうような美しさ。妖子も例外ではなかった。


 うっとりしている妖子に、麗美はモデルウォーキングで近づく。やはり十八番おはこの蹴りを放つかと思いきや――


 ガシッ!


 その長い両脚で、妖子の首を挟んだ。


「なんざます!?」


「アタシの打撃じゃ、おそらくお義母さんを仕留めきれない……だけどこれなら!」


「あ、あああ……!」


 モデル生活で鍛え上げた両脚が、蛇のように妖子の首を絞める。


「考えたな麗美! ロケットランチャーをも余裕で耐え抜く母さんのタフネスは打撃で倒すのは難しいが……絞め技ならイケる!」


 妻の上策に、一郎が拳を握り締める。


「一郎さん、決勝に行くのはアタシよ!」


 麗美も一郎に指を突きつける。


 遠のく意識。妖子は必死に打開策を考えていた。が、この絡みついた麗美レッグを力で外すのは困難。

 ならば――


「ざますぅ!」


 なんと自分にお茶を浴びせた。

 しかし、麗美の足は外れそうにない。


「熱湯で気つけしたのですか? あるいはアタシにダメージを与えようと? 無駄ですよ、この両脚は放さない!」


 足に力を込め、麗美がトドメを刺そうとする。


 なのにスルンッ……と妖子の顔は抜けてしまった。


「なぜ!?」


「今のお茶は粘度の高いお茶だったざます。おかげでヌルヌルして抜けられたざます」


 普通の格闘技の試合でこんなことをすれば反則だが、このトーナメントでは反則にはならない。

 勝負は振り出しに戻ってしまった。


 二人の女が立った状態で睨み合う。


「さすがお義母さん、キマったと思ったんですけどね」


「あたくしも……これはもう眠った方が楽かも、と思ったざます。しかし、茶道家元としての誇り……何より主人が亡くなり剛皇寺家最年長となった重責がそれを許さなかったざまぁす」


 再びウォーキングを開始する麗美。

 妖子は意を決したような目で言った。


「麗美さん、ああたなら耐えられるざましょう」


「え?」


「あたくしの“お茶を操る能力”の真髄……お見せするざます」


 妖子が空中でお茶をてる仕草をする。

 すると、麗美の体に異変が起こる。


「あ、熱い……!?」


「茶道家元はお茶を操れるざます。お茶とは液体ざます。そして液体は……ああたの体内にも存在するざます」


 医者である鋭二が気づく。


「麗美さんの体液が……沸騰している!」


 そう、麗美の血液、リンパ液といった液が沸騰を始めた。


「ああああああああっ……!!!」


 悲鳴を上げる麗美。

 だが、妖子は能力を止めはしない。緩めもしない。それすなわち、麗美への侮辱だと知っているからだ。


「さすが、お義母さん……こんなすごい技を……」


 麗美は倒れない。モデルとしてのポーズを保っている。


「すげえ……なんて根性だ」褒める繁三。


「同じ女性として見習いたいものです」凛もつぶやく。


 ――やがて、妖子が能力を解く。もはや勝敗は決したのだ。


 体液を沸騰させられた麗美は失神していた。

 立ったままで――


「一郎にはもったいない妻でござあます」


 妖子はそんな嫁に、最大級の賛辞を贈るのだった。


 なお、鋭二が診察したところ、体中の体液は沸騰したものの、麗美は軽傷で命に別状はなかった。

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