準決勝第一試合
ベスト4組み合わせ
・剛皇寺一郎(社長)vs鈴代凛(メイド)
・剛皇寺妖子(茶道家元)vs剛皇寺麗美(モデル)
一回戦全ての試合が消化され、ベスト4が決定した。いよいよ準決勝が始まる。
第一試合は大企業を経営する長男・剛皇寺一郎と若きメイド・鈴代凛のバトルである。
凛がメイドらしく、丁寧なお辞儀をする。
「一郎様、私とあなたは主従関係ではありますが……トーナメントでは関係ありません」
「ああ……鋭二には手心を加えていたようだが、俺にそんなことをすればクビになると思え。文字通り、クビがスパーンだ」
そう言いながら、手刀で首を切る動作をする。
一郎の切れ味鋭い手刀を想像し、凛の中の闘争心が刺激される。さながら激しく振った炭酸飲料の蓋を開ける寸前といった状態。
二人が構える。
「どっちが勝つと見るかい? 繫三」鋭二が問う。
「そりゃあ一郎の兄貴だろ! なんたってオレに勝ってるんだからな!」
「だけど、あのメイドさんの実力はまだまだ未知数だよ」
勝敗予想も始まったところで、試合が始まる。
「始めッ!!!」
駆け出したのはやはり凛。
戦いたくて、戦いたくて、戦いたくてウズウズしてたのだ。やっと解き放たれ、凄まじい勢いで一郎に向かっていく。
「なんて速さなの!」麗美が驚く。
だが、一郎は冷静だった。
凛の打撃をかわすと、なんとタックルを決めた。
「え……!」驚く凛。
「君は打撃のエキスパート……だから寝かせてしまえばこっちのものだ」
瞬く間に一郎がマウントポジションを取った。
「くっ……」
「天気予報をしよう。雨が降ってきそうだな」
現在、天気は快晴である。
「“パウンド”の雨がね」
ゴッ!
パウンドとは、寝技の状態で上から放つパンチのこと。一郎は無慈悲に凛の顔面にパウンドの雨を降らせる。
「マウントポジションから脱出する術はない……鈴代さんは大人しく示談をされた方が……」
弁護士の江戸川が凛のことを案ずる。
しかし、凛は諦めていなかった。
「大変すばらしい雨でした。そろそろ橋の下に避難するとしましょう」
そう言うと、凛は腰を跳ね上げ、ブリッジでマウントポジションを跳ね返した。
「なにっ!?」
凛が立ってしまった。
まさか、マウントポジションをこうも容易く返されるとは……顔をしかめる一郎。
だが、パウンドで凛もダメージを受けているのは確実。
勝機は我にあり、と考えたのだが。
甘かった。
そこから繰り出される凛の打撃の数々は、ダメージをまるで感じさせなかった。
拳が一郎の顔面を歪ませ、蹴りをガードすれば骨がきしみ、肘を浴びれば肉を切り裂かれる。
これほどのものか……鈴代凛!
一郎は眼前のメイドに恐怖すら覚えていた。自社が海外の大企業に敵対的買収をされる危機になった時も、ここまでの恐怖はなかった。
「手加減はしないというお約束でしたので、本気で参ります」
凛、渾身のミドルキック。脇腹に炸裂。
――爆発のような音が響いた。
「ぐが……は……!」
「今の感触、内臓が破裂しましたね」
凛が冷酷に告げる。そして、それはその通りだった。
優勝候補でもあった剛皇寺一郎、準決勝敗退か――誰もがそう思った。
そう、他ならぬ一郎以外は。
「なるほどなるほど……いい蹴りだ」
「なぜ平然としているのです? たしかに一郎様の内臓は破裂したはず」
「会社経営をナメないでもらいたい」
一郎は苦難の日々を思い出す。
「社長ってのは辛いんだ。大変なんだ。何度も何度も胃を壊して……やっとやっていける職業なんだ。ストレスで内臓破裂したことだってある。だからこの程度は慣れているのさ」
一郎が内臓破裂を耐えた理由は“慣れてるから”だった。慣れってすごい。
「ならば何度でも破裂させるまでです」
再びミドルキック炸裂。
「いくら君でも、既に破裂しているものを破裂させることはできない」
もはや一郎には通用しなかった。
とはいえ、凛の打撃は脅威である。一郎はバックステップで間合いを取る。
明らかに遠すぎる。これではお互いの打撃が届かない。
「社長というのは逃げるのがお仕事ですか?」挑発する凛。
「予定では決勝までとっておくつもりだったんだがな……使わせてもらう」
一郎が呼吸を整える。肉体に社気が充満していく。
「メイド君、君に教えよう。社長とは……“射長”。すなわち常人より……射程が長いッ!」
一郎が拳を繰り出すと、見えない何かが凛の体を撃った。
――ドンッ!
「ぐうっ!?」
「武器か!?」と繁三。
「違うざます。一郎は社気をエネルギーにして、飛ばしているざます」
妖子が解説する。
「社ァァァァァァァッ!!!」
実に社長らしい掛け声とともに、次々にエネルギー弾を発する一郎。
打撃の達人である凛も、これにはなすすべがない。
「ぐっ! ぐううっ! ぐっ!」
メイド服をボロボロにしつつ、耐えることしかできない。
「このまま君をズタボロにさせてもらうよ。冥土送りにしてしまうかもね」
拳から次々エネルギーを飛ばす。一郎の連射は止まらない。
凛の眼光が鋭く光る。
「ならば、攻めるまでッ!」
メイドが賭けに出た。エネルギー弾をガードすることをやめ、強引に突っ込み一郎を仕留めにかかる。
当然ダメージは大きいが、凛も間合いを縮めていく。
ボロボロになりつつも、一郎に向かっていく凛。
その光景は敵である一郎ですら感動させるものだった。
高名な作家が書いた、雨にも風にも負けない人間のようだ。
「この一撃で……決めます!」
凛が力を振り絞り、ハイキックを見舞う。
美しい弧を描いたその一撃は……届かなかった。
蹴りが届く前に、凛が力尽きた。
倒れる凛の体を抱き止める一郎。
「もし、今のハイが決まっていれば……結果は分からなかった」
「一郎様……また戦って頂けますか?」
「もちろんだとも、君は最高のメイドだ!」
それを聞き、凛はニッコリと微笑むと、気を失った。
「勝負ありッ!!!」