表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/9

準決勝第一試合

ベスト4組み合わせ


・剛皇寺一郎(社長)vs鈴代凛(メイド)


・剛皇寺妖子(茶道家元)vs剛皇寺麗美(モデル)

 一回戦全ての試合が消化され、ベスト4が決定した。いよいよ準決勝が始まる。

 第一試合は大企業を経営する長男・剛皇寺一郎と若きメイド・鈴代凛のバトルである。


 凛がメイドらしく、丁寧なお辞儀をする。


「一郎様、私とあなたは主従関係ではありますが……トーナメントでは関係ありません」


「ああ……鋭二には手心を加えていたようだが、俺にそんなことをすればクビになると思え。文字通り、クビがスパーンだ」


 そう言いながら、手刀で首を切る動作をする。

 一郎の切れ味鋭い手刀を想像し、凛の中の闘争心が刺激される。さながら激しく振った炭酸飲料の蓋を開ける寸前といった状態。

 二人が構える。


「どっちが勝つと見るかい? 繫三」鋭二が問う。


「そりゃあ一郎の兄貴だろ! なんたってオレに勝ってるんだからな!」


「だけど、あのメイドさんの実力はまだまだ未知数だよ」


 勝敗予想も始まったところで、試合が始まる。


「始めッ!!!」


 駆け出したのはやはり凛。

 戦いたくて、戦いたくて、戦いたくてウズウズしてたのだ。やっと解き放たれ、凄まじい勢いで一郎に向かっていく。


「なんて速さなの!」麗美が驚く。


 だが、一郎は冷静だった。

 凛の打撃をかわすと、なんとタックルを決めた。


「え……!」驚く凛。


「君は打撃のエキスパート……だから寝かせてしまえばこっちのものだ」


 瞬く間に一郎がマウントポジションを取った。


「くっ……」


「天気予報をしよう。雨が降ってきそうだな」


 現在、天気は快晴である。


「“パウンド”の雨がね」


 ゴッ!


 パウンドとは、寝技の状態で上から放つパンチのこと。一郎は無慈悲に凛の顔面にパウンドの雨を降らせる。


「マウントポジションから脱出する術はない……鈴代さんは大人しく示談をされた方が……」


 弁護士の江戸川が凛のことを案ずる。


 しかし、凛は諦めていなかった。


「大変すばらしい雨でした。そろそろ橋の下に避難するとしましょう」


 そう言うと、凛は腰を跳ね上げ、ブリッジでマウントポジションを跳ね返した。


「なにっ!?」


 凛が立ってしまった。


 まさか、マウントポジションをこうも容易く返されるとは……顔をしかめる一郎。

 だが、パウンドで凛もダメージを受けているのは確実。

 勝機は我にあり、と考えたのだが。


 甘かった。


 そこから繰り出される凛の打撃の数々は、ダメージをまるで感じさせなかった。


 拳が一郎の顔面を歪ませ、蹴りをガードすれば骨がきしみ、肘を浴びれば肉を切り裂かれる。


 これほどのものか……鈴代凛!


 一郎は眼前のメイドに恐怖すら覚えていた。自社が海外の大企業に敵対的買収をされる危機になった時も、ここまでの恐怖はなかった。


「手加減はしないというお約束でしたので、本気で参ります」


 凛、渾身のミドルキック。脇腹に炸裂。


 ――爆発のような音が響いた。


「ぐが……は……!」


「今の感触、内臓が破裂しましたね」


 凛が冷酷に告げる。そして、それはその通りだった。


 優勝候補でもあった剛皇寺一郎、準決勝敗退か――誰もがそう思った。

 そう、他ならぬ一郎以外は。


「なるほどなるほど……いい蹴りだ」


「なぜ平然としているのです? たしかに一郎様の内臓は破裂したはず」


「会社経営をナメないでもらいたい」


 一郎は苦難の日々を思い出す。


「社長ってのは辛いんだ。大変なんだ。何度も何度も胃を壊して……やっとやっていける職業なんだ。ストレスで内臓破裂したことだってある。だからこの程度は慣れているのさ」


 一郎が内臓破裂を耐えた理由は“慣れてるから”だった。慣れってすごい。


「ならば何度でも破裂させるまでです」


 再びミドルキック炸裂。


「いくら君でも、既に破裂しているものを破裂させることはできない」


 もはや一郎には通用しなかった。

 とはいえ、凛の打撃は脅威である。一郎はバックステップで間合いを取る。

 明らかに遠すぎる。これではお互いの打撃が届かない。


「社長というのは逃げるのがお仕事ですか?」挑発する凛。


「予定では決勝までとっておくつもりだったんだがな……使わせてもらう」


 一郎が呼吸を整える。肉体に社気しゃきが充満していく。


「メイド君、君に教えよう。社長とは……“射長しゃちょう”。すなわち常人より……射程が長いッ!」


 一郎が拳を繰り出すと、見えない何かが凛の体を撃った。


 ――ドンッ!


「ぐうっ!?」


「武器か!?」と繁三。


「違うざます。一郎は社気をエネルギーにして、飛ばしているざます」


 妖子が解説する。


「社ァァァァァァァッ!!!」


 実に社長らしい掛け声とともに、次々にエネルギー弾を発する一郎。

 打撃の達人である凛も、これにはなすすべがない。


「ぐっ! ぐううっ! ぐっ!」


 メイド服をボロボロにしつつ、耐えることしかできない。


「このまま君をズタボロにさせてもらうよ。冥土送りにしてしまうかもね」


 拳から次々エネルギーを飛ばす。一郎の連射は止まらない。

 凛の眼光が鋭く光る。


「ならば、攻めるまでッ!」


 メイドが賭けに出た。エネルギー弾をガードすることをやめ、強引に突っ込み一郎を仕留めにかかる。

 当然ダメージは大きいが、凛も間合いを縮めていく。


 ボロボロになりつつも、一郎に向かっていく凛。

 その光景は敵である一郎ですら感動させるものだった。

 高名な作家が書いた、雨にも風にも負けない人間のようだ。


「この一撃で……決めます!」


 凛が力を振り絞り、ハイキックを見舞う。

 美しい弧を描いたその一撃は……届かなかった。

 蹴りが届く前に、凛が力尽きた。


 倒れる凛の体を抱き止める一郎。


「もし、今のハイが決まっていれば……結果は分からなかった」


「一郎様……また戦って頂けますか?」


「もちろんだとも、君は最高のメイドだ!」


 それを聞き、凛はニッコリと微笑むと、気を失った。


「勝負ありッ!!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ