遺産相続トーナメント開幕!
大富豪・剛皇寺源十郎が死んだ。
彼の遺すことになる遺産は、税などを差し引いても少なくとも1000億円に上るという。
これほどの額だと当然、遺された家族は彼の死を悼むよりも遺産をどうするかに意識が向かってしまう。
夫を亡くしたばかりの妻・妖子が笑う。
「オホホホ……これで1000億円はあたくしのものざます」
茶道の家元であり、いつも和服姿で70を越えてるとは思えない美貌を誇る妖子。彼女にとって、夫の死よりも遺産相続の嬉しさの方が勝るようだ。
すると、七三分けスーツ姿の長男・一郎が食ってかかる。
「待ってくれよ、俺にだって遺産を相続する権利はあるはずだ」
彼は会社を経営している。経営は順調であるが、生き馬の目を抜くビジネス界、金はいくらあっても困らないだろう。
医者である次男・鋭二も主張してくる。
「その通り、ボクたち息子にも当然遺産は分配されるはずさ」
三男で敏腕TVプロデューサーである繁三も続く。
「オレだって欲しいぜ、遺産の分け前をよォ! テレビってのは金がかかるんだ!」
一郎・鋭二・繁三、名前の数字がそのまま年齢順になる実に分かりやすい兄弟であった。
こうなると、自分にも分け前をという人間が出てくる。
一郎の妻・麗美だ。一郎よりも一回り以上若く、モデルを務める美女も遺産争いに名乗りを上げる。
「お義父様の遺産、アタシも欲しい!」
「なんでお前が……。俺が相続すればいいだけの話だろうが」苦笑する一郎。
「アタシはアタシで欲しいのー!」
「息子の妻に相続権はないだろ!」
5人が言い争っているところへ、メイドの鈴代凛がやってきた。黒髪のお下げで、いつも無表情な真面目な使用人である。
「皆様、弁護士様が到着されました」
源十郎の顧問弁護士である江戸川照之が、説明を開始する。皺の刻まれた顔と白髪の混じった頭は、弁護士としての確かな年季を感じさせる。
「ここに故人の遺言書があります。遺産の相続はこの遺言書に基づいて行われます」
仰々しく封書を開く。
「では……発表いたします」
一同が緊張する。
誰が遺産を相続することになるのか。妖子ですら知らないのだ。
「ワシの遺産は好きなように分配せよ。……以上です」
あっさり終わった。
こんな遺言書はおそらく前代未聞だろう。1000億もの遺産を好きなように分配しろなどとなったら、揉めないわけがない。
「全部あたくしのものざます!」
「いいや、俺のものだ!」
「ボクも病院経営が大変でさ……頼むよ」
「丸ごとオレが頂く! そして、すごいテレビ番組を――」
「アタシだって欲しいー!」
醜く争う剛皇寺家の者達。
江戸川もこうなるのを予期していたのか、ため息をつく。
やがて、誰かが言った。
――トーナメントで決着をつけないか?
そう、トーナメント!
遺産が欲しい者達でトーナメント大会を開き、優勝者が全部遺産を貰えるようにすればいいのだ。これなら分かりやすく、揉めることはない。
様子を窺うように顔を見合わせる一同。
まず、一郎が賛成した。
「俺は賛成だ! これでも強さには自信があるからな!」
鋭二も同意する。
「フフフ、ボクのメスさばきを見せてあげようかな」
繁三も続く。
「やるぜ! あと腐れがなくていい!」
一郎の妻・麗美も「やるやるー!」と乗り気である。
高齢の妖子は難色を示すかと思いきや――
「あたくしも若い頃はよく、裏社会で開かれる命懸けのトーナメントに出たものざます。もちろん全勝したざますが。しかし……トーナメントをやるには5人ではちょっと物足りないざぁますねえ……」
シード枠を作ればトーナメント表を作れないこともないが、やはり歪になってしまう。
すると――
「でしたら私が出ます」
なんとメイドの凛が手を挙げた。
「おいおい、メイドさんが戦えるのかよ?」と繁三。
「はい、打撃系格闘技はマスターしていますから」
どうやら自信がある様子。それなら問題ないということで鈴代凛もトーナメントに加わった。
これで6人。
一郎が言う。
「あと2人は欲しいな……。というわけで、弁護士さんあんたも出てくれ」
「ええっ!?」
顧問弁護士・江戸川の参戦も決まってしまった。
これで7人。
「ねえねえみんな! 家の外を歩いてた人に声かけたら、出てくれるってー!」
「私などでよければ……」
通行人のおじさん・山田さんも出てくれることになった。
さっそくクジ引きが行われ、一回戦の対戦カードが決まった。
・剛皇寺一郎(社長)vs剛皇寺繁三(TVプロデューサー)
・剛皇寺鋭二(医者)vs鈴代凛(メイド)
・江戸川照之(弁護士)vs剛皇寺妖子(茶道家元)
・剛皇寺麗美(モデル)vs山田さん(通行人)
8人中3人が剛皇寺一族でもなんでもないトーナメントになってしまったが、なんの問題もない!
遺産相続トーナメント、開幕である!