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波乱の予兆Ⅴ

 大団円を迎えて和やかなムードの中、ビビアン様は紅茶のお代わりを頼んでいました。

 話している間にすっかり冷めてしまった紅茶。私も一緒にお願いしました。今度はカモミールティーを。林檎に似た香りがリラックス気分を与えてくれるでしょう。

 ディアナはジャスミンティーを注文していました。甘いものを食べていたので口の中がすっきりするものが良いですものね。


 飲み物を口にしたりケーキを味わったりとそれぞれ寛ぐ空間には、のどかな静寂が広がっています。


 それにしても、ビビアン様はなんて幸せそうにケーキを食べているのかしら。よほどピスタチオのケーキがお好きなのね。微笑を浮かべながらケーキを口にする姿は少しあどけなさがあって、可愛らしく見えるわ。大人っぽい美麗な方なのに。不思議だわ。

 なんて、微笑ましく好ましくビビアン様に好意を抱いていました。この時までは。


 それは突然に訪れました。



「そういえば、フローラ様は次の婚約者は決まりましたの?」


 ケーキを食べ終えて落ち着いたのか、ビビアン様の思ってもいなかった質問にティーカップを持つ手が止まりました。声に邪気は感じられません。悪気はなかったんだと思います。ただの好奇心だったのかもしれません。

 

「いえ。いません。今のところ考えてもいませんわ」


 正直に答えました。   


「そう、やはり……」


 愁いを帯びた頬に手を当てたビビアン様は、そっとため息交じりに呟きました。 

 やはりって、どういう意味なのでしょう?


「フローラ様は侯爵家の令嬢。いわば高位貴族の優良物件ですわ。求婚者は引く手あまた。そんな立場でしょう?」


「そんな立場だと言われても、私にはわかりません」


 両親からは結婚は考えなくてもよいと言われているので、今まで忘れていたくらいです。婚約解消してからまだ数カ月。独身でもいいと思っているくらいなのですから、そのような話をされても迷惑なだけです。


「そう。でも考えた方がよいのではなくて?」


「……もう少し、時間を置いてからでも十分かと思っています」


「時間を置いてからって、随分のんびりではなくて? 結婚適齢期はすぐに過ぎてしまいますわよ」


 これは、心配してくださっているのかしら? 


「結婚は女の幸せ。釣り合っていればこそですけれど。フローラ様にも相応しいお相手が見つかったのではと思って、差し出がましいお話でしたかしら」


「いえ。お気遣い頂いて申し訳ないのですけれど、相手はおりませんわ。婚約を解消したばかりで次の婚約者は、今のところ考えてはおりません。まだまだ、先のことだと思います」


 婚約を解消した令嬢の次なる婚約者って、そんなに興味をそそるものなのかしら? それとも、面白がっていらっしゃるの?


 ビビアン様の言葉の真意を計りかねて、ディアナにちらりと視線を向けました。私達の会話に耳を傾けているのかいないのか、聞こえてはいるとは思いますが、悠然とジャスミンティーを飲んでいます。

 ディアナに気を取られている間にビビアン様は、大仰なくらい大きな溜息をつきました。

 

「そうよねぇ。さすがに無理かもしれないわね。なにしろ傷物ですものね。高位貴族であっても婚約を破棄されたとあっては、問題ありと見做されて良縁も望めないかもしれませんわね」


「……」


 さっきまでとても穏やかな雰囲気だったのに、何か気に障ることでもあったのでしょうか? それとも、ただの気まぐれ? 

 傷物。自分ではわかっていても、他人から言われるとグサリと胸に突き刺さります。 


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