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レイニーside④

「一生とは、ちょっと大袈裟すぎないか? 俺だって結婚する気はある」


 少し胸を張って断言する。俺だって一生添い遂げられる伴侶は欲しい。


「ほう。そうでしたか。それは安心いたしました」


 剣のある妙に冷静な声にちょっと苛立つ。


「でしたら、さっそく行動に移してもらいたいものです」


「はっ? いきなり何を言い出すんだ」


「いきなりではございません。年齢を考えるのであれば婚約者がいらっしゃっても何の不思議ではありませんし、殿下の心の内にはすでにどなたかがいらっしゃるのではありませんか?」


 思い浮かんだ顔にドキッと心臓が跳ねる。


「それは……」


「ご令嬢にも適齢期というものがございますし、いつまでもよい友人のままというわけにもいかないと思いますが。お気持ちがなければそれでもよいのでしょうが、独身同士の男女。ましてやご令嬢も高位貴族であれば色々と縁談もございましょう」


 セバスって、こんなにしゃべるヤツだったっけ? 必要なことは話すが、それ以外は寡黙な男だと思っていたのだが……


「殿下も同じでございます。ユージーン殿下の婚姻も決まり、あとはレイニー殿下お一人でございます。どうか、心をお決めになって先に進んでいただきたいのです。それこそ、横から大切な方を攫われたのではたまったものではありません」


 いつになく饒舌に熱意を込めて話すセバスに圧倒されて、口に運んでいたお菓子をぽろりと落としてしまった。

 視界に入る側近達も皆大きく頷いている。


「殿下、聞いていらっしゃるのですか?」


 いつまでも返事をしなかったのが悪いのか、焦れたような声とともにバンと勢いよくテーブルに手を突き立ち上がったセバス。

 一瞬で室内が静まり返る。セバスに注目している者、こちらの反応を窺っている者。きょろきょろと交互に見る者。様々な視線の中で俺は何の返事をしようもなく沈黙した。


「まあまあ。セバス侍従長、そんなにまくし立てては、殿下も返事がしづらいでしょう」


 少々、間延びした声で間に入ってきたのは、護衛騎士リーダーのダン。

 これは助け船を出されたのか、庇ってくれるのか、何かを期待してもいいものなのか……判断に迷う。


「それは、そうですな。つい、感情的になってしまって申し訳ない」


「まあ、侍従長の気持ちもわかります。それで私からも気づいたことを一言」

 

 一息置いてダンが俺へと向き直った。


「我々もここしばらくお二人を見守っておりましたが、殿下がヘタレだということがわかりました。まったくもって進展がなさすぎます。ここまでもたもたしているとは思いませんでした。気が長いにもほどがあります」


 ヘタレだと? ちょっと、待て。俺は何を聞かされているんだ?

 セバスより熱がこもっていないか?


「わたくしたちからもよろしいでしょうか?」


 次に手を上げて発言を求めるのは侍女長のエルザ。

 今、何が繰り広げられているんだろう。

 セバスが頷く。


「わたくしどもも皆さんと同じです。殿下のフローラ様に対する行動は微笑ましく思い見守っていたのですが、それにも限度があると最近では感じておりました。花の命は短いのです。旬を逃して後悔するのはほかならぬ殿下ではありませんか?」


「……」


 俺をまっすぐに見つめたエルザは目が合うと言いすぎたと思ったのか、少々申し訳なさそうにお辞儀をした。

 しかし、これは直球過ぎるのではないか?

 言葉が出てこない。何を言えばいいんだ。

 セバスもダンも名前を伏せていたが、エルザは隠さなかった。


「そうですな。ダンやエルザのいう通り。王族・貴族の結婚は様々な理由によって結ばれますゆえ、本人の思い通りにいくとは限りません。だからこそ考えて頂きたいのです。フローラ様は侯爵令嬢であり、国の至宝と呼ばれているお方。殿下の妃としても相応しいご令嬢かと思います。殿下、吉報を楽しみに待っておりますので、どうかよろしくお願いいたします」


 セバスが深々と頭を下げると他の者達も立ち上がって胸に手を当て臣下の礼を取った。

 真剣なまなざしに期待の入り混じった顔を一斉に向けられて、無言の圧力を感じる。


 結婚相手は決めている。ローラしかいない。ただタイミングを計っているだけだ。それがなかなか難しいのだが。

 だから、こういうしかないだろう。


「わかった」


 俺の返事に安堵の表情を浮かべた面々は再びテーブルに着くとお茶のお代わりを始めた。


 

 しかし、こんなに急にけしかけられると思いもしなかった。

 今まで結婚のけの字も出ていなかったのに。結婚に関してはみんなもっと寛容かと思っていた。

 これはやっぱりディアナのせいだろうな。散々思わせぶりなことを言っていたから。


 花を横から手折る者……か。

 もしかして、本当にそんな者がいるのか。


 ローラ。


 春の日差しのように温かくて居心地のよい関係。

 ゆっくりと関係を深めていって、それからでもよいかと思っていた。確かにローラも貴族令嬢。結婚は家同士の結びつきが大切だから本人の気持ちなど関係ない。いつ、誰と婚約が成立してもおかしくない。

 俺達は何の約束もしていない。


 結婚か……

 プロポーズして、もし断られたら……

 そんなはずはないと思いたいが、もしそうなったら……

 よいお友達のままでいましょう、なんて言われたら……


 絶対、立ち直れないだろうな。


 はあ……


 俺の心の葛藤などお構いなしに部下達の笑い声が部屋の中に響いていた。

 


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