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もう少し、このままでⅣ

 えっ?


 今のは何?

 ほんの一瞬……まさか……柔らかい……唇?

 何が触れたのかわからないくらいの。


 まさか、レイ様?


 私は思考をフル回転して今の出来事を思い浮かべました。

 けれど、一瞬過ぎて現実味がなくて本当の出来事だったのかさえ怪しくなってしまいます。


「レイ様? 今のは?」


「どうしたの? 何かあったの?」


 レイ様に涼しい顔で逆に問いかけられて何も言えなくなりました。


 もしかして気のせいだったのかしら? 私の勘違い?

 記憶はすでに彼方に飛んでいったように曖昧になってしまいました。


 何事もなかったような平然とした表情で不思議そうに私を眺めているレイ様の様子に、正体のわからない何かが触れたのだろうと結論付けました。レイ様ではないのでしょう。きっと。


「いいえ。なんでもありません」


 私は首を左右に振りました。

 これ以上は考えないことにします。精神衛生上、その方がよいのでしょうから。



「さて、そろそろ本格的に部屋に戻ろうか。少し寒くなってきたしね」


 腕の中から解放されたと思ったら、素早く手を取られて指を絡められました。


 いつもよりも密着度が増してドキドキします。


 でも、レイ様は何かを感じている様子はなくていつもの顔です。これもレイ様にとっては普通のことなのかしら。そうだとしたら気にする方がおかしいのかもしれません。


「明日は花を見て朝食を取ったら何をしようか? いつもは俺につきあってもらってるから、明日はローラにつきあうよ。図書室もあるから本を読んでもいいし、庭園を散歩するとか、部屋でのんびりと寛ぐのもいいよね。何がしたい?」


 レイ様の矢継ぎ早の提案に頬が緩みました。


 花を見たらその足でお暇しようと思っていたのですけれど、出来そうにありませんね。レイ様とのおつきあいは一日がかりになりそうです。


 弾むような声で嬉しそうに話すレイ様の姿が愛おしく思えて胸がジンと熱くなります。


「レイ様。よければ厨房を使わせていただけないでしょうか?」


「厨房?」


「はい。いつもお世話になっていますので、お礼に昼食を作らせていただけないかなと思って」


 そうです。


 いつも一方的にごちそうになってばかりでお返しもできていませんでした。

 手作りのものと思っても刺繍とか小物とかも作らないのでプレゼントにはできませんし。他の物を考えても王子殿下という身分を考えれば難しいのですよね。


 でも料理だったらできるのでは……と思ったのです。


 宮の厨房であればシェフたちがいるので大丈夫でしょう。どんなに親しくても、外部から持ち込みの手作りの食べ物は受け取ってもらえないでしょうから。 


「昼食って、ローラは料理ができるの?」


「はい。商品開発とかもやっていますから、その時に教わったのです。プロではなく素人が作るので、お気に召すかわかりませんけれど」


「そうなんだ。それでは、ぜひお願いしたいな。ローラの手料理を食べてみたい」


 レイ様の顔がぱあと輝いて喜んでくれたので私も嬉しくなりました。張り切ってレイ様の好きなものを作りましょう。


 そういえば、レイ様の好きな料理は何かしら? 苦手なものは?

 考えても……何も浮かんできません。食事も残さずに食べていましたし、今まで全然気にしていなかったわ。


 それではダメよね。

 レイ様のことをもっと知る努力をしなくちゃ。


「はい。レイ様の好きな料理も教えてくださいね」


「わかった。これから厨房に行こうか? シェフたちも段取りがあるだろうし、早めに話を伝えていた方がスムーズに進められるのではないかな? 材料も確認しておいた方がよいだろうし。どう?」


 そうですね。

 前日に仕込みをすることもあるでしょうから、事前に話をつけていた方がお互いに気持ちよく料理ができますね。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 レイ様って使用人への気配りができる優しいお方なのですね。今日は一つ、レイ様の良いところを見つけました。

 これからも会うたびに新しいレイ様を発見するのでしょう。それがとても楽しみになってきました。


 満ち足りた気分で明日のメニューの話をしながら、二人で厨房を目指しました。




 それから、私が自分の気持ちに気づくのは……もう少し後のこと。



 ただ、この頃にはすでに西の宮では、私が次期王子妃であると認識されていて、周知されているとは夢にも思っていませんでした。




                            第一章 完




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