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テンネル侯爵夫人side①

 自室の机の上の請求書の束をペラペラとめくって金額を確認する。

 その額の大きさには大きなため息しか出ない。

 わたくしはエリザベス・テンネル侯爵夫人。


 先ほど買い物の主であるエドガーと夫婦で話をしてきたところだ。主人は仕事があるからと執務室に戻っていった。


「はあ……どうしてこうなってしまったのかしら」


 わたくしはお気に入りのソファに体をあずけてドッと座り込んだ。

 気持ちを落ち着かせるようにこめかみに指を当てて軽くもむ。


 請求書の内訳のほとんどはリリアの品ばかり。ドレスにアクセサリーから日用品や家具までも買い与えている始末。

 チェント家は男爵の中でも成功している裕福な貴族。お金に困っていることはないはずなのに、なぜだが貧乏だとエドガーもリリアも思っているようだった。


 エドガーの弁では、リリアが涙ながらにチェント家の貧しい現状を訴えるので、かわいそうにと思い買ってあげたのだという。こちらも商売をしている身、お金に困窮しているのであれば何らかの情報は入るはずなのに、今のところそれもない。

 あとで発覚することもあり得るので一応調査をお願いするけれど、平民上がりの娘だから、貴族のことはよくわかっていないのかもしれない。


 エドガーには買い物はしばらく控えるように言ったから、大丈夫だとは思うけれど。お金は無限に生み出されるわけではないのだから、結婚もしないうちからこれでは先が思いやられる。


 エドガーの卒業と同時に次期当主としての地位はスティールへ譲り渡すことは決めているけれど、果たして納得してくれるかどうか……

 学園での成績も最下位に近いし、そのことについても注意したけれど、真面目にとらえてくれたかどうかも怪しい。


 温情をかけてもらっていることに気づいてくれればいいのだけど。

 まったく、困ったものだわ。



 コンコン。


「スティールですが、母上、お呼びだと伺いましたが、入ってもよろしいですか?」


「ええ。入ってちょうだい」


 エドガーとのやり取りを思い出して、あれこれと思い悩んでいるとスティールが部屋へと入ってきた。

 スティールと話したいこともあって、呼んでおいたのだ。

 

「失礼します」


 相変わらず畏まった様子で促されたソファへと座ったスティール。

 父親譲りの栗色の髪に青い瞳。波打つ前髪に隠れるように黒縁の眼鏡。目立たない容貌が実直さを物語っているよう。

 エドガーの派手な容姿とは正反対だけれど、シャロンはスティールの誠実な人柄と頭の良さを気に入ってくれたのよね。

 わたくしは当主はエドガーに主な事業はスティールにと思っていたから、シャロンの意見に賛成した。結果はお互いの当主に大反対されて実現しなかったけれど。

 今思えばわたくしたちの意見の方が正解だったわよね。男どもの見る目のなさにはがっかりだわ。


「スティール。学園はどうかしら? もう慣れた?」


 留学から急遽呼び寄せて、自国の学園に通うようになってから一か月。

 ゆっくりと話を聞く間もなかったからこの機に聞いてみた。

 

「そうだね。だいぶ慣れたよ。あちらほど授業が詰まってないから、その分楽かな」


 スティールの表情が少し和らいで見えた。

 事情は説明したものの、留学を中断して帰国することにはかなり抵抗があったようで、随分と反対されたから。

 それもそうよね。三年間の留学が一年半ほどで帰国するように言われたら腹も立つでしょう。

 成績も上位で先生たちからも期待されていると聞いていたから、主人もわたくしも楽しみにしていた。でも、帰国してからは落ち着いていて、スムーズに学園の特別クラスに編入出来たから、安心していた。


「そう、よかったわ。ごめんなさいね。こちらの都合で留学をやめさせてしまって」


「いや。それはもういいよ。こっちはこっちで、それなりに楽しいしね」


 スティールが軽く微笑む。物足りなさを含んだ少し諦めに似た表情に見えるのは気のせい?


「そうなのね。それを聞いて安心したわ。ところで、フローラさんには会ったかしら?」


 背筋を伸ばして改まった態度でスティールを見つめた。

 わたくしが一番聞きたかったこと。

 わたくしの気持ちを察したのか、スティールがすっと真顔になって、わたくしを真正面から見据えていた。


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