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感謝の礼

「少し、切り傷とかすり傷がありますが、気になさる必要はないかと思います。ただ、万が一のために化膿止めの薬をお飲みください」


「診察してくださってありがとうございます」


 たいしたことはなくてよかったです。これでレイ様も安心なさるでしょう。いつの間にかドアを叩く音も聞こえなくなりました。今頃は大人しくソファに座って待っていらっしゃることでしょうね。


 先生から紙包みを受け取ると、侍女が用意してくれた水で薬を飲みました。

 はあ。やっと落ち着きました。

 リッキー様も一緒にお水を飲んでいます。診察の間、ジッと真剣なお顔で見ていましたから緊張していたのでしょうね。


「ぷはー」


 一気に飲んだからかリッキー様の口から盛大な息が漏れました。その様子がかわいらしくて、笑みがこぼれてきます。子供は天使ですね。


 

「フローラ様。よろしいでしょうか?」


 室内履きをエルザに履かせてもらって居住まいを正していると先生の声がしました。


「はい」


 話があると言われてましたものね。先生とは面識もないのでどんな要件なのか想像もつきません。

 先生は私の前で片足つき跪まづくと私の手を取りました。


 えっ?


 私の手を頭を垂れた先生の額の近くにつけるように持ち上げると、数秒間その姿勢を保ちました。

 最大の敬意を表す儀式の一つです。


「フローラ様、ローナの国内栽培の成功おめでとうございます。そしてその栽培方法を広く普及していただきありがとうございます。おかげで患者たちに薬がいきわたるようになり、重篤者や死亡者が減りました。これもフローラ様の尽力のおかげです。感謝してもしきれません。本当にありがとうございます」


 言い終わると先生がゆっくりと顔を上げました。照れているのか、興奮があるのか先生の顔が紅潮しています。


「先生、こちらの方こそお役に立てて光栄です。こんなに感謝していただけるなんて頑張ったかいがあったいうものです。これからもみなさんのために研究に今まで以上に励もうと思います。先生、ありがとうございます」


「フローラ様。わたしも一人の医師として、患者のために一生この身を使わせていただきます」


 ローナの研究が役に立っていることを直にお医者様から聞くと、なお一層うれしいわ。栽培面積も広がってきているのでますます取り扱いが容易になるでしょう。ローナは万能薬だけれど、ローナだけではなくほかの植物で症状別の特効薬も研究中だから、早く完成させたいですし。他にもやりたいことはいろいろあって、夢は尽きません。


「先生。お互いに頑張りましょうね」


「はい」


 なんの因果か、レイ様に連れてこられた王宮でこんな出会いがあるとは思ってもいませんでした。しかし、ここで感慨に耽ってばかりではいけないわ。大事なことを忘れるところでした。


「先生。ちょっとお座りになりませんか?」


 立ったままだった先生を促して向かい側のソファに座ってもらいました。


 やけに静かだなと思ったらリッキー様は、私に身を預けるようにして寝息を立てています。座った姿勢のままではきついでしょうから、膝枕をしてあげました。もう少し寝入ったらベッドに寝かせるようにすればいいでしょう。

 侍女が持ってきてくれた毛布を掛けてあげたら、マロンはリッキー様のお腹の上に寝そべりました。毛布はフワフワして気持ちいいですものね。


 侍女が紅茶とお菓子を運んできてくれました。

 テーブルの上に温かい紅茶が湯気を立てています。

 診察の後に一息つけるようにレイ様が配慮してくださったのかしら?


 私は一旦気持ちを落ち着かせるために紅茶を口にしました。ミントが加えてあるのでしょうか? 清涼な口当たりに心の中も爽やかな空気に満たされたような気がしました。


 それでは、お話を聞かせてもらいましょう。


 

 


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