出会い
2025年、とある少女が能力を発現、それを皮切りに各地で能力者が発生。生活は豊かになっていった。
しかしおよそ10%の確率で性格が暴力的になる事が報告されるも能力による利益を優先させた各国政府は報告を無視。
2030年、突如として殺人衝動を持つ能力者「キラーズ」約10000体が世界の主要都市を次々攻撃。
さらに誤作動した各国の大量殺戮兵器により80億人いた人類は5億人弱まで減少。
人類は着実に滅亡に向かっているかのように思われていた……
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「まずい、追いつかれるっ」
ただの引きこもり大学生が奴らに喧嘩を売るなんて全くバカだった。
しょうがないじゃないか。幼い少女がキラーズ二人にいたぶられていたのだから。
でも助けようと建物の影から飛び出した時、すでに彼女に頭部はなかった。新しい標的を見つけた奴らは恍惚とした表情で僕を見た。
「ハッハッハッハ。やっと追いついたぜ!」
まずいまずいまずい。捕まれば彼女の二の舞だ。リアルカオナシなんてなりたくねえよ。
仕方ない。いつものアレをやるしかない
「能力発動!」
僕の全身が淡く光り出す。
「あー、めんどくせー。あいつも能力持ちかよ」
「俺たち山田兄弟に喧嘩を売るとどうなるか、見せつけてやろーぜ。にいちゃん。」
「おうよ!」
しかし、彼等が能力を発動し終わった頃には彼らの視界に僕はいない。
逃げたからである。全力で。
神城 倫 能力 「加速」
「だから嫌なんだよこの能力」
めちゃくちゃ全身が痛い。
能力を発動する時に光るのは使われる部位だけなのだが、この能力を使う時は全身が光る。
つまり、体全体で全力で走っているだけなのだろう。
なら能力名は「全力ダッシュ」とかでいいんじゃないだろうか。
まあ今の方が英語だし、なんかカッコいいからいっか。
名前を診断した医者はきっと、ダサい能力もかっこよく言える能力持ちなんだろう。
ところで、ここはどこだろう。逃げるのに必死で周りを全く見ていなかった。
この街はあのデモの影響をほぼ受けていないため、良くも悪くも建物が倒れていない。
都会に行った事がある人はわかるだろうが、見知らぬオフィス街ほど迷いやすいものはない。
完璧に迷子になってしまった。
取り敢えず人を探さなくては。
僕の住む第2居住区の方角くらいはわかるだろう。
「はぁ」
全く、半年前にあのデモが起こってから良いことがない。
まず能力持ちの僕はみんなに怖がられた。
好きだったあの子にも避けられたし、仲のよかった友達にも無視されたし、かと言って能力者のコミュニティに行ってみれば、おまえのような使えない能力持ちは求めていないと言われた。
今日なんて、助けようと思った女の子はカオナシになってるし、滅多にいないはずのキラーズにも追いかけられた。散々じゃないか。
一般人からしてみれば僕は快楽殺人者と同じ人種だし、能力者からしてみれば、全力ダッシュで逃げる能力持ちなんて一般人と同じだ。
「あ、人だ」
そうこうしてるうちに気付いたら家の近くまで帰って来ていたらしい。
しかしおかしい。人の数が多すぎるし他にも何か違和感が……
近づくと違和感の正体はすぐわかった。
みんな同じ柄の服を着ているのである。服の色自体はカラフルなのだが、柄はみんな同じだ。細長い岩の中に地球のようなものが描かれている。はっきり言ってめちゃくちゃダサい。
中からリーダー格の男が出てきた。何をいうのだろう。
「―たちは、――居住区を―はかい――」
んーーー?なんか物騒な事言ってないか?
「攻撃開始!」
聞こえた。はっきりと聞こえてしまった。居住区を攻撃するのか?なんのために?
「あ。」
目があった。リーダー格の奴だ。終わった。楽しかったな、人生。などと走馬灯を走らせている場合ではない。僕が走らないと。
能力を発動しようとしたその時だった。
「ハッハッハッハー。そこまでだぁ。悪党ども!」
ビルの上に誰かいる。
「行け!我が部下よ!」
夕日に被ってよくわからないが、いかつい男と小柄な女の二人組だ。命令しているのはおそらく男の方だろう。
部下と思われる女が降りてくる。
「総員!目的変更!あの女からやれ!」
ダサいTシャツ連中の体が光り出す。
「嘘だろ」
僕は絶句した。百人も能力者、しかもキラーズの奴らがこんな所に集まるなんて。
戦闘が始まった。
しかしそれは戦闘というか虐殺だった。部下の女が強すぎるのである。
目が光っているので戦闘に直接関係のない能力のはずだ。
しかし彼女は持っている日本刀でバッサバッサと敵を切り倒して行く。
敵の遠距離攻撃系は全てかわし、身体能力強化の近距離攻撃系はたやすく切り捨て、遂にはリーダー格のところまでたどり着いた。おそらく100人斬り達成である。
「どうだ?すごいだろ。俺の部下は。ハッハッハッハ」
何もしてない男が豪快に笑う。
「何もしてない癖に!」
リーダー格はそう捨て台詞を吐くと一目散に逃げ出した。
女は残酷にも、逃げるリーダー格の背中を切りすてる。
次元が違う人達だ。
「お?まだ生き残りがいたか?」
どこだろう。見えない敵でもいるのだろうか。流石だ。
すごいスピードで飛んでくる。さっきまで働いていなかったのが嘘みたいだ。
向かっているのが僕の所でなければ、同じスピード系能力者として盛大な拍手を送っていただろう。
「敵じゃないですよー。味方ですよー。」
「俺はお前のことなんて知らん!よって敵だ!」
逃げれるのか?僕? あんなに人間離れした奴らから。
いや、こんなことを考えている場合ではない。
少しでも可能性がある方にかける!
そんな僕だったがあっさり撃墜。
「あれ?あのダサいTシャツきてなくないかこいつ?」
そんな言葉が聞こえてきたのは気絶する寸前だった。
はぁ、全くいい事がない。