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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

東京悪夢物語「犬に似た男」

作者: ヨッシー@

毎朝、会う男が、犬に似ている。

短編小説 犬に似た男


毎朝、通勤電車の中で、必ず会う男がいる。

その男は、鼻が黒く、頬は垂れ下がり、舌からよだれが出ている…

…どう見ても犬だ。

気がつくと、その男は、いつも私のそばに立っている。

ハフハフハフ、

荒い息づかい、

ブルブル、

獣臭い体臭、

私は、この毎朝の不快感にうんざりしている。

ただでさえ満員電車が窮屈で苦しいのに、この男が現れてから、かなりのストレスだ。

他の乗客は、何とも思わないのか?

辺りを見回す。誰も気にしていない。

普通の満員電車の風景だ。

ハフハフハフ、ブルブル、

ああっ、早く駅に着け、

苦しい、気が狂いそうだ。

目をつぶる…息を止める…


彼との最初の出会いは、

数ヶ月前だった。

珍しく朝寝坊をした私は、急いで駅の階段を駆け降りた。

「待って下さい、まだ乗ります!」

ピピー

私は、ギリギリ電車に飛び込んだ。

はーっ、間に合った。

これで遅刻せずにすむ。

ほっとした私は、息を整えた。

ガタコン、ガタコン、電車の音。

しばらくすると、

ハフハフハフ、

何だ、

ハフハフハフ、

何だ、この音は、

振り返ると、犬のような顔の男が立っていた。

目を疑った。

どう見ても犬だ。

いやいや、あまり見詰めると悪い。

私は、視線をそらし態勢を変えた。

車内は、静かな走行音だけが響いている。

何だ?いまの男は、

おかしな物を見た。

朝飯も食べずに走ったから、疲れで見間違ったのだろう。

ハフハフハフ、

荒い息づかい、

ガラスの反射で男の顔を見てみた。

やっぱり犬だ。犬にしか見えない。

スーツ姿でネクタイ。どう見ても普通のサラリーマンの格好だが、顔は犬そのものだ。

男は、じっと私の背中を見ている。

私は、恐怖を感じた。

ハフハフハフ、ブルブル〜

必死に耐えた。

ガタコン、ガタコン、

電車の走行音だけが響く。

ガシャ、

プシュー

「新宿〜新宿〜」

私は急いで電車から飛び降りた。

ハアハアハア、

手で汗を拭った。

ピピー

電車が発進する。

ギュウーン

電車を見てみる。

窓越しに男が、こちらを見ていた。

目が合う。


会社、

「どうしたんですか、根本課長、」

「汗、びっしょりですよ」

部下の奥田だ。

「ああっ、」

コップで水を一口、飲む。

「電車の中で妙な男に会ったんだよ」

「妙な男?」

「ああっ、」

「犬なんだよ、」

「顔が犬なんだよ、」

「根本課長、大丈夫ですか?」

「疲れているんですよ、残業、残業で、」

「いや、違うんだよ、」

「息づかいや、臭いまで、…よく覚えてる」

「夢でも見たんじゃないですか、」

「本当だよ、ウソじゃないんだ」

「…」


電車の中、

今日もあの男がいる。

ハフハフハフ、ブルブル、

根本の後ろにピッタリと立っている男。

時計を見る。

ああっ、新宿までは、まだ30分はある。

ハフハフハフ、

臭い、たまらない、

息ができ無い、

ハフハフハフ、

目が回る…

グルグルと目が回る…


駅の医務室

バッ、

飛び起きる根本。

「ここは、」

「新宿駅の医務室ですよ」

微笑む駅員。

「あなたは、電車の中で意識を失って倒れたんですよ」

「そうですか…」

ハッとする根本。

「私は、どうやってここに、」

「はい、体格の良い男の人が、あなたを抱えて運んでくれたんですよ。親切な人ですね」

目を見開き、詰め寄る根本。

「どんな顔の人でしたか?」

「どんな顔?」

「そう、顔、犬の様な、」

「犬?」

「…すいません、気が動転してて」

慌てて医務室から出て行く根本。

「あいつか、」


次の日、電車の中、

あの男、あの男、どこだ、どこにいる。

キョロキョロする根本。

プシュー

数人の客と一緒に、あの男が乗って来た。

私は横目であの男を確認した。

静かな車内、

ガタン、

電車が小さく揺れた。

一瞬、あの男を見逃した。

どこだ、

あの男は、どこだ、

「あっ、」

目の前に、あの男が立っていた。

ハフハフハフ、

ブルブル、

臭い、よだれ臭い、

男、じっと根本を見つめる。

「ああっ、あの〜」

「この間は、ありがとうございました」

ハフハフハフ〜

「気にしないで下さい、」

低い声だ。

「人として当然の事をしただけですよ、」

「ハッハッハッハッ〜ブルブル〜」

よだれが顔に跳ねる。

慌ててハンカチで顔を拭く根本。

じっと男の顔を見つめる。

「私の顔、気になりますか?」

ドキッ、

「い…いや別に、」

目をそらす根本。

「い、いつも…この電車ですね、」

「ええ、この電車だと丁度、間に合うんですよ、ブルブルブル〜」

口からよだれが再び垂れる。

「そ、そうですか、」

下を向く根本。


会社

「根本課長〜あの男どうしました?」

「えっ、」

「俺、ネットで調べてみたんですよ〜」

「そしたら、載ってたんですよ、都市伝説で〜」

「地下鉄に現れる犬男!」

「俺、見てみたいな〜」

「やめとけ、奥田、」

「大変な事になるぞ、」

「インスタ上げたいんですよ〜お願いしますよ〜教えて下さいよ、その電車、お願いしますよ〜」

「…」


電車の中、

根本が電車に乗っている。

その少し後ろ、奥田がスマホを持って手を振っている。

大丈夫か、

あの男、怒らないか?

プシュー

ドアが開いた。

あの男が乗って来た。

ハフハフハフ、ブルブルブル、

いつもの様に私のそばまで来る。

軽く会釈をする根本。

男の後ろ、奥田が指を指している。

この男かと、合図している。

私は、嫌々うなずいた。

「見〜つけた、都市伝説!」

奥田、男の肩に手をかけ、振り向かせる。

パシャ、スマホの光。

「見〜た〜な〜」

ガブガブガブ、

奥田の顔を噛み削ぎる男。

「ぎゃ〜ぁ、」

プシャー

血しぶきが飛び散る、

「ぎゃー」

車内に、悲鳴が響きわたる。

乗客は一斉に逃げ出した。

血だらけの奥田の顔を必要に噛み砕く犬男。

ガブガブガブ、

だらりとした奥田の手、

バタ、

奥田を投げ棄てる犬男。

「お〜ま〜え〜も〜見〜た〜な〜」

ゆっくりと歩み寄ってくる犬男。

口から血のよだれが垂れている。

「た、助けてくれー」

「…」


ハッとする根本。

いつもの電車の中。

悪い夢を見た。

汗を拭う根本。

ハフハフハフ、

振り返る、

「私の顔、気になりますか?」




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